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閑話 dragon heart

サブタイトルはカッコつけただけで「アマサの心情」です。




 私の名前はアマサ、本名はアマサ・レイ。


 種族が竜人の元奴隷である。


  私が奴隷となるきっかけとなったのは『奴隷の反乱』が原因の全てである。

 元々、竜人の里と呼ばれる私の故郷を人間に襲われたときに奴隷として運ばれた際、道中共に連れ去られていた奴隷たちと手を組んで仕掛けたのが始まりだった。


 昔から縛られるのがいやだった。

 私の身分は竜人の中では高位にあたる。


  故にしがらみが多かった。

 父は己の腕一本でのし上がってきたが故に、上の命令には逆らえず、私は渋々といった感じでそれを受け入れるのが当たり前だった。


  そんな父がよく言っていた。


「己が強者であるとは一度足りとも思ってない」


 父は竜人の中では英雄だった。

 竜人の乱獲は昔から多く、それを一時的でも止めるきっかけとなったのが父の力だった。


 そんな父が、だ。

 己を弱者とは言わなかったが、逆に強者であると言わなかったのには驚きを覚えた。


「いいかアマサ、世は広い。竜人の中だけで物事を図るな」


 だから私は答えた。


「お父様にとって強者ってだれ?」


 そう聞くと父はこう答えた。


「魔王さ·····」


 風の噂で耳にする魔王に畏怖や恐怖を覚えたが、父の眼には一切それが写っていなかった。


「魔王とは恐ろしき存在ではないよ。確かに多くに語られる魔王は恐ろしく感じる。私も最初出会った頃は恐れたさ、こんな化け物が存在するのかってね」


 そして父は語った。


 曰く、同時に魔法を発動してきて、逃げ道の一切を閉ざされた、と。

 曰く、振るう剣はブレスごと斬り、己の攻撃が意味をなさなかった、と。


 聞けば聞くほど私は恐怖した。

 しかし、依然、父の眼は穏やかなままだ。


 だから聞いた。


「どうしてお父様は魔王が怖なくないの?」


 するとこう答えた。


「彼の眼を見たからさ」


  ――と。


「自分は当時、恐ろしく口を聞けなかったが、彼の眼は綺麗だった」


 そんな父は私の頭を撫でてこう言った。


「アマサもいずれ彼と出会う時が来るのならば気づくよ」


  ――彼の眼の綺麗さに·····。


 私には理解出来なかった。


 だから、私は自分が竜人で強者であることを誇りとしていた。

 父の語る魔王がいかに恐ろしくとも、私の火の前では無力だと、そう思ったのだ。


 故に私は反乱を起こした。

 故郷を人間に襲われた時、父は死んだ。母も死んだ。友人も、全てが灰となり、塵となり消えた。


 その全ての憎しみを込めて、己が誇る最凶の炎で人間を殺したかったのだ。

 最初に仲間となる奴隷を集めた。このままでいいのか、と。己で自由を勝ち取ってみないかと誘った。


 そうすれば最初は少人数だった反乱軍も、呼びかけて行けば大人数と変わり果てた。

 ああ、これなら行ける。


 そう、確信した。


 だが、負けた。

 人間共は雑魚だったが、魔女なるものが私の前に立ちはだかったのだ。


  最初は雑魚と思っていたが、彼女の使う魔法は滅する魔法。

 反乱軍のほとんどを滅しられ、私たちは降参した。


  犯罪奴隷となり、身を堕としても人間に対する憎悪は増える一方だ。

 魔女により降参せざるを得なかったとしても、強いのは魔女であって私は弱くないとそう信じ込んでいた。


 それがなんだ。

 たった一人の男に全てを塗り替えられてしまった。


  彼は忌むべき人間。しかし、不思議と怒りは沸いてこない。

 共に過ごせば彼の魅力にハマっていく。


 私を目の前にして「俺には敵わない」と言った人間は初めてだった。

 そして、それが真実味を帯びることとなる。彼の魔法技術と底知れぬ魔力。


 ダンジョンで私を鍛えると言った時、私にはまだ誇りがあった。

 それが、全て覆されたのだ。


 同時発動(ダブルキャスト)を使ったときは本当に驚いた。

 まるで父の言っていた魔王のようだったからだ。


  私の誇りは恐怖により失われた。

  ダンジョンの中では彼から逃げるようにボスやモンスターを蹴散らした。


 そんな私を悲しげに見守っていたのは今も覚えている。


 ダンジョンの最下層まで来れば、あとは当初の予定通り、対象を殺すだけで終わったが、彼――御主人様が飯にしようとしたのに私は躊躇った。が、腹が減ってはなんとやらだ。


 私は御主人様から貰ったものを食べた。


 ダンジョンで地べたに座って、向き合って何かを食す。

  存外、共に食事をするという点において久しぶりなことに一瞬嬉しさも込み上げた頃。御主人様はふと笑った。


 そんな彼の笑みは私が思っていたものでなく、実に穏やかなものだった。

 だが、私には何に笑ったのか分からなかった。


 すると彼は私の顔を見て言った。


「いや、すまん。この世界で誰かと飯を共にしたのはあまり経験したことがなかったのでな」


 その時私の中の何かが壊れた。

 それは、私と御主人様の間に隔てられた大きな壁。それが壊れたような気がしたのだ。


 私と同じことを御主人様も考えていた。

 これだけで私から恐怖や畏怖は無くなった。私と同じことを考える一人の人間なのだと分かったからだ。


 私の故郷を奪った人間はこんなことを考えたことがあるのだろうか。いや、実際はあるのだろう。

 だが、仮に私と共に食事をしてこのようなことを考えることはないだろう。


 そしてその人間はここにはいない。

  割り切るのは難しいが、せめて私の御主人様が信用する者だけは信じてもいいのではないかと思った瞬間だった。


 そんな彼の正体が魔王と知ったのはあの時だった。


 学院の代表クラスを選ぶ大事な戦い。

 私は本気で挑んだ。いや、私だけでは無い、サナもユウキも1組みんなが本気となって挑んだ。


 御主人様を倒すのは私たち三人の三人体制(スリーマンセル)だった。

 シルター先生が、御主人様の手の内を知る私と、エンチャントの使い手であるサナ。そして、『正体不明(アンノウン)』と呼称されるユウキと手を組み倒してこいと言ってくれた時、胸が高なった。


 私が認めた人間の力に挑むことが出来る、と。

 今まで彼の隣に立ちたくて頑張ってきた成果を見せつけてやりたいと、そう意気込んで御主人様に立ち向かった。


 ユウキの剣を魔道・神楽となる物で受け止め、エンチャントされた私の攻撃を避け、支援に徹していたサナに魔法を放つ。

 御主人様との心の壁は崩壊した。そして次は御主人様との力の壁を壊そうと頑張ったのだ。


 すると、御主人様は本気でユウキの一撃を止めるためある魔法を唱えた。

 それは、私が恐怖や畏怖の対象てして見た魔王たる証拠であった。


 溢れ出る魔力、そしてユウキの一撃を一言で無力化したその恐るべき事実。

 何より――


「我の前世は第七代魔王エヴァンだからな」


 ――この言葉。


 瞬間思ってしまった。

  恐怖を、畏怖を、そして·····拒絶を。


 私が信じた者は魔王だった。

 その片鱗は見せていた。だが、そう思わなかった。いや、そう思いたくなかった。


 私は父のように魔王にあんな眼を向けられない。

 私は父のように魔王をあんな風に見れない。


 そして私はその事実からまるで逃げるかのように意識を失った。



 次に目を覚ました時、目の前にいたのはいつもの御主人様ではなく、魔王としての彼だった。

 アレは夢でなかった。出来れば夢であって欲しかった。


  私は彼から離れたかった。

 彼は残虐なる魔王。彼は優しさ無き魔王。


 そんな時ふと父の言葉を思い出した。


 ――彼の眼は綺麗だった。


 ·····眼?


  ·····恐る恐る私は魔王と知って一度も見なかった。もしかしたら知る前もまじまじと見たことは無かったかもしれない。そんな眼を見た。


 どうやらその時魔族が襲来してきたようなのだが、そんな魔族と相対する彼の眼は――


 ――綺麗だった。


 それは決して純粋なる綺麗さじゃない。

 確かに残虐なる殺意は写ってる。優しさなど微塵も浮かんでない。だが、彼の眼の奥には確かに温かいものがあった。


 それは安心する温かさ。

 それは陽だまりのような温かさ。


  自分でも信じられないほどに心が落ち着いた。

 そして分かったのだ。父の語ったことの意味が·····。


 私は彼の眼から目が離せなかった。


 彼の眼に吸い込まれていった。


 彼の温かさか頬が染まっていく。それは紅く、自然と笑みが零れる。


 気づく。私は恋をしたのだと。


 今まで沢山の魅力を知った。彼の癖を知った。彼の力を知った。彼の笑顔を知った。彼の性格を知った。


 そして知った。彼の眼を·····。


 もう離せられない。離したくない。


 が、何故か目が合うと避ける、避けてしまう。目が合うと恥ずかしくて、でも見たい彼の眼を。


 そんな葛藤をしている時、御主人様から声がかかった。


「アマサお前はこのまま学院に残るか?」


 学院の生徒としての生活をする中で、宿に戻れば御主人様から身の回りの世話代として給料は貰っていた。

 だから、正直ここにいる意味が無くなっていた。


「学院には寮もあってお前の渡した金なら行けるし、冒険者としてお前は登録している」


 そう、私が奴隷から解放された時、冒険者登録も行っていた。

 いざとなればクエストを受けて金は賄えるし、御主人様から貰った給料で生活することもできる。


 でも、私は御主人様から離れたくない。

 それを伝えようとした時、私よりも先に御主人様が口を開いた。


「お前には魔王ということを黙っていた。それは、もし知ってしまったら離れていくんじゃないかって思ってたからだ。が、魔王と知った今でもこうして宿の部屋を共有している」


 御主人様の瞳はいつになく悲しげだった。

 それは最初のダンジョンで見かけたあの瞳。


「だが、お前が無理してるのは分かる。だからこそお前は本来の人生を送るべきだと思うんだ。あれほど憧れた学院生活を送れるんだ。俺といるべきじゃないだろ?」


 御主人様の言葉は普段と何ら変わりない。

 けど、私が惚れた彼の眼は揺れていた。私が惚れた彼の姿とはかけ離れていた。


 そんな彼を作り出してしまったのは私だ。


「アマサ?」


 彼が尋ねてくる。

 恐らく急に俯いた私を心配しているのだろう。


 そんな御主人様に私の言葉を告げる。


「·····私は御主人様がいたからこそ学院に体験だけど入学しました。私は御主人様だからこそ奴隷から解放された後も御主人様について行くことにしたんです。あの時は確かに驚きました。ですけど、魔王でも御主人様に変わりない。魔王でも私が共に歩んだこの道は変わらない」


 すぅ、大きく息を吸い、吐く。


「なので私は貴方と共にこの道を歩き続けます。今まで挙動不審だったのは私も認めます。ですが、もう大丈夫です。吹っ切れたんで」

「·····そうか。分かった」


 まだ私の心は告げられない。

 せめて貴方の隣で戦えるようになって、そして·····告白しよう。


 そう心に決めた。

書き直しました。

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