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堕ちた勇者


「ちょっと待ってくれないか」


 冒険者になった俺が、ギルドを出ようとした所を誰かが呼び止める。

 もしかしてあの青色の甲冑の奴か? と後ろを振り返れば、俺と同世代の男女が三人居た。


「なんだ? 何か用なのか」

「さっきの話聞いてたぜ。お前詠唱省略が出来るらしいな」


 俺が登録した時に話した詠唱省略を盗み聞きしていたのか。マナーはなってないが見たところ·····

 短髪の男が剣士、筋肉が凄いやつは盾使い、女が魔法使いって所か


「まぁ、そうだな。使える」

「そうかッ!」


 喜色に溢れた顔になったかと思えば、突然頭を下げた。


「どうか、俺たちとクエストに同行してくんねぇか? 臨時でいい。俺のパーティの一人が、今里帰りしてんだが、そいつ誕生日がちけぇんだ! 里帰りしている間にアイツが欲しがってた薬草 千病草を取りに行きたいんだが俺らじゃあ実力不足で·····」


 千病草か、千の病に効く薬草だな。俺が魔王だった頃は、そこら辺に生えていたが、今、この時代だと千病草を取りに行くのに命懸けなのか·····。仕方がないな、これぐらいなら手伝うか


「クエスト内容は?」

「ッ! ウルフの五体討伐だ。これなら俺らでも出来る、アイツに心配かけないためにもカモフラージュとしてこのクエストにした。その足でそのまま千病草を取りに行く·····来てくれるか?」


 ウルフ五体に千病草か、俺が前住んでいた所に転移し、そこから取ってきてもいいが、彼らが取らなければ意味が無いか。


「分かった同行しよう。俺の名前は楓だ。千病草の場所は目星はついてんだろうな?」

「もちろんだ。ありがとう! そういえば名乗ってなかった。俺の名前はエレンだ」

「私はラナです」

「吾輩はシードである、盾はいまはない」


 ·····。剣士がエレン、魔法使いがラナ、吾輩は猫であるみたいな奴がシードか。変な喋り方をするもんだ。名前はまだないってところか?

 そんなもんを気にする間もなく、俺らはクエストと千病草を取りに行くため、合流場所を決め後で集合することにした。シードが盾を忘れたからだ。


 そして、ギルドを出ようとした所に冒険者が入った来てしまい、俺と衝突してしまった。


「いったぁ」


  ぶつかった頭を摩り、倒れてしまった少女を助けようと手を伸ばすが、エレンがそれを阻止してきた。


「何をする?」

「それはこっちのセリフだ。そんな奴に差し出す手なんかねぇよ、やめろ」


 差別か·····。いつの時代でも人間のこういう所は変わらんか

 関係なしに俺は手を差し出し、助け起こす。


「悪いぶつかってしまった。怪我はないか?」

「怪我はないっす。ありがとうございます」


 ん? 『っす』だと·····。


 久しぶりに聞いた語尾に思わず、名前を聞こうとした所を遂にはエレンに手を引かれるという行為によって阻止されてしまった。


「カエデ! お前さぁ、はぁ。アイツは堕ちた勇者なんだぞ? 行動を考えないと将来が危ねぇぞ!」


 堕ちた勇者か·····。


「名前はクレア・ウォーカー。ここら辺では有名な疫病神さ、アイツの先祖が魔王を仕留め損ね、死んだんだ。本当に役立たずの勇者だよ。今では『堕ちた勇者』として、あんなふうにされてる」


 そして、目線を向ければクレアはギルドに入ろうとした所を酔っ払っいかなんかに、囲まれている。


「しかも、それでもずっと笑顔のまんまだから、気味が悪いってさ。まぁ、そういうことだ。カエデも安易な真似はするなよ――ッ! ひぃ」


 エレンの様子で俺は我に返る。辺りを見渡せば、ラナもシードも失神している。よく見たら、先程の囲んでた酔っ払いも逃げていた。

 どうやら、無意識に威圧をしていたようだ。魔王のスキルに含まれるこの技は一定範囲にデバフ効果を与えるのだが、まさかクレアの話を聞いただけで無意識に発動させるなんて、俺もまだまだだな。


「やばいな、記憶消去と回復でもするか、やらかしたな」


 そんな俺に歩み寄る影が見えた。


「威圧っすか。君は一体·····」


 クレア・ウォーカーか。昔、俺が魔王だった頃にそんな姓の奴が俺に挑んできたな。どうやらやり残しがここにもあったなんて


「·····笑顔ね。『笑顔ってのは嬉しい時に使うが、本当の使い道は辛い時や悲しい時にこそ』ってか」


 俺の言葉に驚くクレア。だが、それも一瞬であった。


「どうしてその言葉を知ってんすか?」

「まぁ、聞き流してもらって構わない。俺の独り言だ。そういう事だじゃあな」


 あらかた辺りで気絶している奴の回復仕切ったので俺は踵を返す。


「さすがだよ。アイツの血をちゃんと引き継いでいるってわけか」


 後ろで呆然と俺を見つめ続けているクレアにお思わず口にしてしまった。

 それにしても、そうか、堕ちた勇者か·····。


 そして、昔会った馬鹿な男を脳裏に浮かばせながら、俺はクレアの元から去っていくのだった。

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