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動き出す歯車

普段より少し長いです。


 クルムの腕にある『呪い』の証である痣。


 痣の色の濃さから考えて『呪い』による侵食は結構進んでいる。


 『呪い』とは魔法とは別の一種の術だ。

  主に魔族が好んで使うこの術がクルムにあるということはクルムは何らかの形で魔族と関わりを持っているということになる。


「どうかしたのかしら?」

「いや、なんでもない」


 そう言うと彼女は「じゃあ私はこれで」と言って去っていく。


 俺はそんな彼女を見て考えふける。


 顔まで痣が行き届いてないと言うことを見ると、重症ということはないがほっとくとヤバいことになる。


 そもそも『呪い』とは呪術と呼ばれるもので、使い道としては呪殺の他に束縛がある。

 呪いは魔法と違い魔力で発動するものでなく、怨念や憎悪で生まれる呪力を代償に発動する。


  話を戻すが、呪殺とはそのままの意味で呪い殺すこと。つまり、怨念や憎悪の対象となる人物を殺す際に使用する。

  そして束縛だが、例えば『絶対服従』というワードを設定し、呪いを受けた者がそれに反すれば死ぬというものだ。


 恐らくクルムが受けた呪いは後者であり、大方魔族との交渉で『呪い』を受けたと考えて正しいだろう。

 しかし、問題はそこだ。魔女ともあろうクルムが何故魔族と手を組む事となったのか。という点である。


 それは間違いなくユウキが関係していると思う。

 ユウキの『正体不明(アンノウン)』という二つ名に関係する何か·····。


 ――·····さん


 それはなんだろうか。


  ――·····さん、·····ますか?


 そして魔族だ。何故クルムに『呪い』なんてもんをかけようとしたのか。


「ちょっと! カエデさん?」

「うぉ!?」


 驚いて隣を見れば腰掛けたラナがいた。


「どうしたんだ?」

「いや、さっきからずっと呼びかけていたんですが?」


 そうだったのか? クルムとユウキの事で頭がいっぱいで話を聞いてなかったな。


「すまん」

「いや、まぁいいんですけど。それよりも、です! 1組との勝負があるんですけど?」


 どうやら考えている内に1組が学院選抜戦で勝ち抜いたらしい。

 いやはや時が流れるのは早いものですな。


「分かった。今から闘技場に向かうよ」

「はい。応援してますね?」

「ああ、お前のためにも勝ってきてやるよ。そもそも七魔武闘祭で勝つ為に俺は雇われたんだからな」


 とりあえず、この思考はやめよう。

 しかし、クルムをこのままほっとく訳にもいかん。


「オール」

「ここに」


 魔法闘技場に向かう廊下で、俺が呼びかければ直ぐに返事が来た。

 魔法陣が展開されているのをみて転移してきたのだろう。


「クルムの動きを観察しろ。十中八九、魔族と関係を持っている。転移系の魔法陣が展開されれば――」

「破壊ですか?」

「いや、<思念>で俺に伝達しろ」

「御意に」


 そして姿を消そうとするオールを見て俺はそれを止める。


「その前にぬいぐるみだと色々面倒だろう」

「えっ、いや·····はい」


 この躊躇いは女子生徒に案外人気だからだろう。紳士だと思っていたらどうやら前に変態がつくらしいなコイツは。

 まぁ、その辺の説教はまた今度にして今はぬいぐるみから解放するか。


「これを使え」

「これは同族の死体ですね」


 これはロンと共にエクスカリバーで真っ二つにした魔族の中でオールと波長の合う身体を選んだものだ。

 そしてこれさえあれば、同価値のものつまりオールの元の体を創造できる。


「おぉ久しぶりですね。この体は」


 懐かしいのか己の手をグーパーして感触を噛み締めている。


「それなら魔法も使いやすいだろう」

「はい」

「なるべく気づかれるな。間違っても魔族の侵入を邪魔するなよ?」

「御意に」


 そして姿を消したオール。

 クルムを追ったのだろう。


 よし、それじゃあ代表クラスに2組を導こうじゃねぇか。


 そして俺は魔法闘技場へと向かった。



『それでは決勝。これで代表クラスが選ばれます。1組対2組の対決』


 ハルの実況の声と共に観客席にいる生徒が盛り上がりを見せる。


『大将は1組はシルター先生、2組はあのカエデ先生です!』


 これでまた大きな歓声が湧く。


『それでは偽造世界の展開をお願いします』


 瞬く間に偽造世界が構築される。

 今回のフィールドは草原か。


 あの時と同じフィールドで決勝。面白いじゃないか。


『では、決勝戦。開始!』


 俺は即座に<思念>を発動させる。


『ツーレ聞こえるか?』

『はい』


 よし、1組はどうやら俺らの出方を伺っているらしい。いや、違うな。『影』を警戒しているのか。


 なら、こっちは陽動と隠密の二部隊を作って攻めてるか。


『ツーレ。『影』はそのまま待機させ、二人体制(ツーマンセル)で攻めろ』

『はい』

『それと、部隊を設立する。陽動と隠密だ。キマとナッツを隠密で罠を設置させ、陽動はツーレ、お前が務めろ』

『分かりました。上級や最上級をこれみよがしに1組にぶつければいいですか?』

『ああ、それで構わない。魔力が切れそうなら言ってくれ俺の魔力を渡そう』

『分かりました』

『お前は前回の戦いでシルターにマークされている。傍にメリーはつけろよ』

『はい』


 そして俺は<思念>を切る。

 すると早速ツーレが仕掛けた。


 あの歳で最上級が撃てるんだからやはり優秀だ。

 <火竜咆哮炎(ドラゴニックフレイム)>だな。しっかりと魔法陣の改変もされて、広範囲にブレスのように放たれている。


 さすがだ。


 よし、キマとナッツも動き始めた。

 なら次は、クロムに<思念>する。


『おい、クロム。聞こえるか?』

『は、はい』

『お前らの仕事は今までと少し違う。今までは支援に徹して貰ったが、今回は攻めに出てもらうからな』

『わ、分かりました』

『よし、説明するかよく聞けよ。『影』への警戒を相手は怠ってない。故に前回のような奇襲は通じないかもしれん。しかし、教師であるシルターの警戒に一瞬の綻びが生じさせるのは生徒であるお前には無理だろう。よってその役は俺が引き受ける。お前らは影に潜ってシルターの様子をうかがえ、俺の合図がで次第シルターに攻めろ』

『はい』


 よし、これであらかたの指示は終えたな。

 シルターが狙う、勝利条件は俺の戦闘不能。なら、あの三人の三人体制(スリーマンセル)が来るはずだ。


 シルターの警戒を壊すにはこれしかない。


 そんな時だった。


「来たな」


 俺はその場からジャンプして回避。

 すると、俺がいた所に一瞬にしてクレーターができる。


 今のは<彗星>やはり、1組も優秀らしい。


「はぁ!!」


  アマサがナイフを手に俺に切りかかってくる。

 速い。エンチャントされてるな。


「<水流五月雨(ディニッシュ・ダル)>」


 アマサの頭上に魔法陣が展開され、物凄い勢いで水の弾丸が地に刺さる。

 それを見事な身のこなしで回避。


 すると、突然風を切る音が聞こえた。

  これは、【縮地】だ。


 案の定、目にも止まらぬ速さでユウキが俺に突っ込んできた。


「<刹那>」


  淡々とした声で、俺の心臓に向かって突きをかましてくる。

 障壁じゃあこれを防げんな。


「<転移(ルーザー)>」


 俺は転移でその場を回避、そして遠くでユウキにエンチャントをかけていたサナの後ろに移動。


「<紅蓮爆裂(エクスプロージョン)>」

「<脚力強化>――エンチャントっ!」


  既の所でサナは<紅蓮爆裂(エクスプロージョン)>を避けた。

  1組の力も侮れないな。


「さすがですね。御主人様」

「お前らに負けるわけいかんだろ」


 アマサが話しかけてくるが――


「<武具顕現>」

「くっ!」


 後ろから切りかかってくるユウキの政宗を魔道・神楽で受け止める。


「俺にそういうのは効かんよ」

「ありゃあ」


  てへっと舌を軽く出すアマサ。

 その後ろではサナがアマサにエンチャントをかけている。


「ほう、<高速移動(マッハスピード)>か」


 俺がサナがかけたエンチャントを言い当てた瞬間。

  アマサが俺の寸前の所まできてた。


「<威圧>」


  俺が一言言えば、アマサの顔が一瞬歪む。

  俺はそこへ蹴りを入れる。


「きゃっ!!」


 バランスを崩したアマサに俺はあの技を撃つ。


「奥ノ形<天翔破月>」


 高出力の魔力が三日月を描いてアマサの方へ飛翔する。

 しかし、アマサを切り裂く前に<天翔破月>は打ち破れる。


「ユウキか·····」


 ユウキがアマサの前に立ち、妖刀・政宗で<天翔破月>を斬ったのだ。

 やはり、この妖刀・政宗·····。


「ユウキ、お前のその妖刀。クルムの呪いが込められているだろ?」


 俺の問いにユウキは無表情を貫いたが、俺は見逃さなかった。ユウキの眉が少し動いたのを。


「·····そうか」


 これで分かった。

 あの時顔まで痣が侵食していなかったのは、妖刀に己が受けた呪いを込めていたからだ。

 それでギリギリまで侵食を食い止めているのだろう。


 しかし、今はそんな思考にふけることは出来ないらしい。


「<筋力強化><脚力強化>――エンチャント!」


 サナが二人と自分にエンチャントを施す。

 その声と共にユウキはある固有魔法を発動させる。


「<憑依>」


 チッ、やっぱ使ってくるか。

  神官の固有魔法である<憑依>。神と対話できる聖女や神官は揃ってこの<憑依>を得意とする。

 簡単に言えば自らを依代にして神を降ろす技である。


 すると、突然黄金にユウキの体は光り出す。

 <憑依>が始まったな。


 ものの数秒で光は収まる。<憑依>の使用時間は他者によって異なるが、最長でも一分。

 人間に神の力は強すぎるからだ。


 恐らく一発に込めるはずだ。


「<障壁>」


 いつも通りの五重構造だ。

  しかし、これで神の一撃を受け止められない。


 だが、もう時間が無い。


 しょうがない。発動させるか。


 ユウキも神の一撃を放つために詠唱を開始している。なら、俺も発動させるか。念の為アマサとサナを束縛(バインド)してから開始する。


「《顕現せよ我が最たる力》《龍を滅し神をも下すその力は我が魔王たる所以》《我が声に反応しその力を此処に示せ》」


 魔法陣が俺を中心に抜き去っていく。

 そして俺の容姿は前世である魔王エヴァンとなる。


「《魔王装束》」


 そして俺が魔王装束を纏ったのとユウキが一撃が放たれたのは同時だった。


「死んじゃえ! 《神雷一撃》」


 雷神の技か。

 しかし、魔王装束を纏った俺の前ではそんなもの――


「《消え失せろ》」


 塵芥とほかならない。


 いくら魔法がすごくても、いくら<憑依>が出来たとしても、術者によればそれはゴミにもなりうる。

 ユウキ、お前が使うには早すぎだ。


「う、そ·····」


 ユウキがペタンと座り込む。<憑依>が解けたのだろう。

 アマサの前だから渋ってはいたが、魔王装束を発動させなければ神の一撃を破壊することは不可能だからな。


「そ、その姿は·····?」


 サナが尋ねてくる。

 見るとサナやアマサは俺の発している魔力にあてられて顔色が悪い。


「我の真の姿だ」

「その姿はまるで――」

「魔王。その通りだ。我の前世は第七代魔王エヴァンだからな」

「「――ッ!」」


 俺の姿は偽造世界越しの観客たちには見えない。なぜなら俺が偽造世界を少し弄ったからだ。違反だが、この際やむを得ない。


 よって、この姿を知るのはここにいる三人のみだ。遠くで戦っている2組や1組、シルターにも俺たちの姿は見えない。

 遠目からは見えないだろうし、<遠見>を用いて除いても、俺の魔力が邪魔して正しく発動されないからである。


「ふぅ」


 そして俺は魔王装束を解く。

 長く使っていれば誤魔化しがきかなくなるからな。


 これで<遠見>が正しく発動され、俺の周りの出来事が見えるだろう。


「シルターの驚きにまみれた顔がよく見えるな」


 今、ユウキは一撃必殺を破られたことにより戦意を喪失。サナとアマサは驚きのあまり倒れた。

 まぁ半分は俺の魔力のせいということもあるが、とりあえずシルターの目にはコイツらが俺に負けたことが見えただろう。


『クロム今だ』


 俺の言葉と共にクロムはシルターの喉元にナイフを突きつけ、


『勝者2組』


 俺らの勝ちが決まっ――


『主、クルムが魔法陣を発動させました』


 どうやらまだのようらしい。

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