正体不明《アンノウン》
三人称です
「どうだったかしら?」
女性の声がユウキの耳を貫く。
一言、一言に込められる圧はユウキの肩を震わせる。
合同戦闘訓練が終わり、ユウキの体が回復してきた頃に彼女は尋ねてきた。
学院の医務室は病棟みたくベッドや機材が完備されており、医務専門の魔法使いまで揃っているのでユウキの狂化の反動による痛みは消え去っていた。
「強かった」
ユウキはいつもみたく無表情ながら、彼女に見せる感情とはまた違うものを胸に抱きながら脳裏にある青年を思い浮かべる。
ユウキの成績は勉学が足を引っ張っており上位にその名は刻まれてないが、戦闘だけなら学院一を誇る。
それもこれも全てはこの女性のお陰である。
「師匠、随分と彼――カエデに興味がある?」
ユウキの師匠である彼女は微笑を浮かべるだけで肯定も否定もしない。
ユウキも無表情のせいで感情が読み取れないが、彼女も彼女で心の内が分からない。
「しかし、まぁ私の一番弟子を倒すなんてさすがというべきかしらね」
彼女はユウキの質問には答えず、話を逸らす。
「でも師匠も負けてる」
「まぁ私の魔法で滅せなかったのは彼が始めてね」
そして彼女は微笑をやめ、真剣味の帯びた顔となる。
「彼の剣いや刀かしらね、あの素材は『魔力記憶変形鉱石』に間違いない。そしてあの魔法技法――同時発動も含めて彼の正体は『魔王』で間違いないわ。それも史上最強と名高かったエヴァン」
彼女はステータスの職業のせいか寿命が長い。
彼女の姿は二十歳のそれだが、実際は計り知れない。
「まぁでも彼の心臓を貫けたのだからあなたは善戦したわ。それにあなたの力はアレじゃないでしょ?」
「でも、狂戦士としての本気で負けた」
依然無表情のままだが、心なしか暗い。
そんなユウキに彼女は笑って頭を撫でる。
「大丈夫よ。それに私のシナリオでは彼の実力がユウキ以下だったら崩れてしまうわ」
「·····私、いつか彼に勝ちたい」
戦闘は学院一であったユウキにとって敗北という二文字は知らなかった。
しかし、今回の合同戦闘訓練を経て、ユウキの心には悔しさで一杯である。
「あなたはいつか彼を超えるわ、それに私も·····なぜならあなたは何者にもなれるのだから·····」
優しく語りかけてくれた彼女にユウキはコクリと頷いた。
「師匠、また私を鍛え直して」
「ふふっ、分かったわ。妖刀・政宗共々私が鍛え直してあげる」
そして彼女は病室を出た。
「本当に今年は楽しみだわ。学院選抜戦でユウキの真の力に彼はどう対抗するのか、そしてあのイベントをどうやって潜り抜けるのか。ふふっ、今考えただけでもゾクゾクしてくるわ」
赤髪をなびかせ、彼女は踵を返した。
◆
場所は変わって同時刻。
場所は王都サクリの中心部にある、とあるレストランにて二人の男女がグラスを持ち上げる。
「それじゃあ改めて2組の勝利を祝って乾杯!」
「乾杯」
そんな男女の正体はカエデとラナである。
先程まで2組を連れてパーティーを開いて、その二次会みたいなものを開いている。
と言っても生徒たちは帰らせたが。
「それにしても1組に勝っちゃうなんて凄いですねカエデさん」
「あぁ、俺も驚いたよ。ある程度の策とアドバイスを授けたが、勝ったのはアイツらの力さ」
「ふふっ、謙遜はしてはいけませんよ」
運ばれてきた料理を口に運びながらラナは笑う。
(やっぱりラナは普通に綺麗だな)
今は時間も遅く、レストランでは夜景を眺められるが、空に浮かぶ月の光がラナの青みがかった髪が反射し実に美しい。
それに相まって彼女の料理を食べて満足そうな笑みを見たら確かに男子生徒から告白されることも頷ける。
「ん? どうしたんですか? カエデさん」
「いや、普通にラナに見蕩れていただけだよ」
「んにゃっ!」
聞いたことない声を出し、頬を紅潮させるラナ。
「も、もうお世辞はいいですよ!?」
「いや、お世辞じゃないんだが」
「·····」
ラナはカエデにジト目を向けながら、言う。
「それだからサナさんの件で私やアマサさんに勘違いされるのですよ」
カエデの脳裏に浮かぶのは無視問題。
あの時、慣れないことはしないと決めたはずなのだが、学習せずラナに同じことをしてしまいカエデは反省する。
「悪かった」
「ま、まぁ気分は悪くないんですけどね」
素直に謝罪を述べるカエデにあたふたしながらラナはフォローする。
(容姿だけじゃなく、性格まで良いんだからそりゃモテるよな)
それなのにラナはリア充のことを恨んでいるのだから人の心とは分かりにくいものだ。
ラナにとってカップルは禁忌だと思い、カエデは話を逸らす。
「そ、それにしても、1組の奴ら――いやシルターはなんでサナやアマサを戦わせなかったんだ?」
あの戦いでユウキの為に、あえて逃げ道を塞ぐ役目に徹したのは分かるが、ユウキがやられて彼女たちは戦うのではなく逃げた。
サナの戦い方やアマサの成長ぶりを見たかったカエデとしては残念だった。
「あっ、それはなんでも学院長がシルター先生にお願いしたらしいです。というか、アドバイスですね。『学院選抜戦』までサナさんとアマサさんの手の内を明かすなって」
ここでもクルムが関わっていることにカエデは考えるが、しかし今考えたところでどうこうなるものじゃないのでその思考は捨てた。
「そして代わりにユウキを戦闘させたと?」
「はい、ユウキさんは二つ名として『正体不明』と呼ばれていて手の内は探れないようなので」
ユウキの二つ名であるこの『正体不明』という名前は、性別以外全てが不明ということで生徒たちが呼び始めたのだ。
なんでも職業、固有能力、適正も全て閉ざされているらしいのだ。
「『正体不明』か。俺が戦った時は <狂化>を使っていたが他にもあるのか?」
「はい、<エンチャント>や<竜化>、<召喚>に<憑依>まで使えるんです」
「·····」
カエデはラナの言葉に耳を疑った。
(全てが別の職業や種族にしか使えねぇ代物ばかりじゃねぇか。付加魔術師に竜人、召喚魔術師に神官の固有能力や固有魔法が使えるだと?)
「ユウキは何で入学した?」
「どういうことですか?」
「ユウキは入学試験の点数を何点で入学した? 模擬戦闘試験は? 保護者は?」
「え、えっと·····試験の点数は、戦闘試験含めて500点中250点とギリギリの入学だったはずです。保護者はなんでも幼い時に両親を無くしたらしくいません」
「ユウキの入学金と学費は誰が出してるんだ?」
「ユウキさんは冒険者を幼い時からやっていてそれの報酬で学院に通っています。しかもゴールド級なのです」
そこまで聞いてカエデは顎に手を当て考える。
そんなカエデをみてラナは尋ねる。
「どうかしたんですか?」
「えっ? いやなんでもない。ユウキが強かったのでな。少し気になっただけだ」
「そうですよね。ユウキさんってゴールド級の冒険者なのでそんな人に勝っちゃうカエデさんもカエデさんで凄いですよ!」
「ありがとうな」
すると、ラナは突然顔が暗くなる。
「それなのに私は冒険者としても弱いし、かと言って教師としてもダメダメです。モンスターと戦わせなければ生徒は強くなれないのに、私は生徒を信じられずに遠征も行かせず、ずっとモンスターの危険性と魔法を教えていました。カエデさんに言われてハッと気づいたんです。教師失格だなって·····」
ラナはやけ気味にグラスに注がれた酒を飲み干す。
「そんなことねぇよ。ラナはモンスターの危険性を学院の誰よりも知っている、冒険者だからな。だから生徒たちを守ろうとしたんだ。それは間違いじゃないむしろ正しい事だ。しかも、ようやく気づいたんだろ? 自分に足りないものを。なら、もう大丈夫だ。きっと良い教師になれるよ」
いつかのパーティーみたくカエデはラナの頭を撫でる。
すると――
「うわぁぁん、カエデしゃぁぁん」
突然号泣した。
とりあえず、防音の魔法を辺りに張るカエデ。しかし、次は突然笑いだした。
「カエデしゃんがやさしいぃ、しゅきぃ、だぁいしゅき!」
酔っているのだろうが、ラナの言葉にドキリとしながらカエデは店員に金を払い、肩を担ぎ宿へ戻る。
そして道中もご機嫌になったり泣いたりするラナを見て強く思う。
「ラナに酒を飲ますのやめよ」
そして、宿に帰ってから一悶着あったのはまた別の話。
当初、ラナはそこまで絡ませるつもりはなかったのですがここまで来るとヒロインじゃないかと思ったりしてます。
後、ユウキの師匠である彼女の正体は、もう既に察している方もいるかもしれませんが、というかモロバレですね。まぁ元々そこまで隠す気はなかったので、どちらかと言うとユウキの方を気にしてください。
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