元魔王の授業
最初一人称で三人称に変わります
「いいか? 改変にはある古代文字を用いる。それは『ルーン』と呼ばれるものだ。もちろんこれは、お前ら知ってるよな?」
俺の問いに生徒たちは揃って首を縦に振る。
よし、『ルーン』を知らないとなるとアレだが、やはりこの辺は優秀だな。
「ルーンを用いて魔法陣に付け足す要素は三つ『持続時間』『威力』『範囲』だ」
これがあるから俺は手加減ということができる。
「これをすることによって魔法をより明確に、そして複雑に改変することが出来る」
そして俺は後ろにある黒板に新たな魔法陣を描く。
「これが魔法陣の改変が施されたものだ。魔法名誰かわかるか?」
「はい」
俺の問いに真っ先に手を挙げたのはメリーだ。先の授業でも思ったがコイツはツーレとは違い、解析と分析に長けているな。
「なんだ?」
「水系統初級魔法<水流>です」
「正解だ。まぁ改変しても今みたいに解析されればバレるが、戦いになるとそうはいかない。魔法戦闘に必要なのは『冷静さ』と『情報』だ。お前らなら出来ると思っている。だが、今のお前らにそれは感じられない。故の評価が『ダメ』という訳だ。分かったか? ツーレ」
「うぐっ」
わざと名指ししたのは、自覚させるためだ。ラナも言っていたが傲慢になると敗北を招く。そこをしっかりと分からせたい。
「そうだな。今のお前らの実力はラナよりも下ぐらいか?」
「「「――ッ!」」」
全員が驚愕するが、
えっ? コイツらラナよりも強いと思っていたのか?
「ちょっとカエデ先生?」
急に名前を呼ばれたラナが驚きながらこっちに圧をかけてくるが、ここはスルーしとこう。
「いいか? いかに詠唱省略できようが無詠唱できようが解析されればそれは無駄になる。その点ラナは杖での魔法行使しか行えないがしっかりと魔法陣の改変をしているし、何より丁寧だ。冒険者としての知識と潜って来た死線の数々を含めれば魔法戦闘において大切な二つの条件を満たしている。分かったか? お前らは『弱い』。相手をどうとか見下す前に分析しろ、己の技を磨け、自分は『優秀』だと思うな」
長々と喋ってしまったが粗方の伝えたいことは伝えた。後は俺の教育とコイツらの努力に任せるとしよう。
「以上で俺の授業は終わりだ。宿題として一つ、魔法陣の改変と実行まで出来るようにしとけ。明日テストを行う」
ここでチャイムが鳴り、一時間目の基礎魔法の授業が終わりを告げた。
◆
カエデの初めての授業から数日後、学院室に勢いよく入っていく教師が一人。
「が、学院長! なんですか? あの授業は!?」
クルムはそんな教師を見てため息を吐き出す。
どうやら一瞬で彼女は教師が動揺している原因が分かったようだ。
「またですか」
このように学院長室まで来て文句を言う教師がこの数日で十件以上、そのいずれも原因は同じだった。
つまり、数日前に来た特別講師であるカエデに対しての批判の声だった。
「あの講師の授業は目にあまります! 現学院の授業を全て否定しているんですよ!」
この教師が言っている事は正しい。
カエデが教えているのは戦闘に必要な知識と魔法なのだ。
一介の生徒がまず知ることの無いようなものを平然と教えている。
「いいですか、シルター先生。確かに生徒に教えるのに必要でない知識もありますが、彼が教えているのはそれが全てとは限りません。逆に新しい考えた方を教えてくれる良い講師ではありませんか」
「しかし――」
「そこまで食い下がるのならば彼の授業を見に行きましょう」
シルターという教師の言葉を遮り、椅子から立ち上がったクルムはシルターと共にカエデが担当しているクラスである2組に向かった。
近づけば男性講師の声が聞こえてくる。
もちろんカエデだ。どうやら魔法属性の授業をしているようだ。
扉を開き、クルムとシルターは授業風景を眺める。
カエデも二人が入ってきたことは視認したが、特に気にすることも無く授業に移った。生徒たちも同様である。
「いいか。適正属性があると前にツーレが言っていたがそれは正直あってないようなものだ。例えばだが――キマお前の適正属性はなんだ?」
「火と木それと闇ですね」
「では、瞬間発動魔法は使えるか?」
「もちろんです。瞬間発動魔法と遅延魔法は魔法戦闘において重要なので」
「はい、この時点で矛盾が生じている。みんな分かったか?」
カエデの言った矛盾に全員が答えられず、むしろ困惑している。
「まぁそうだよな。正解は適正属性では無い属性を使用している点だ」
やはりこれでも分からない。
「いいか? 魔法発展期に生まれたこの二つの技法――瞬間発動魔法と遅延魔法は複合魔法によって生まれた技法で、瞬間発動魔法は光属性の魔法、遅延魔法は闇属性の魔法を利用している」
「「「――ッ!」」」
全員が目を見開き驚きを露わにする。
しかしそれも当然、彼が言っていたことが事実なら本当に適正属性はあってないようなものなのだから。
「お前らは魔法について知っているようで知らない。故に瞬間発動魔法と遅延魔法に使われている属性も知らんのだ。どうだ? これを知ったら適正属性って言葉がないように思えてくるだろ? これが魔法の面白いところだ。人間は思い込めばそうなってしまうんだよ。適正属性って言葉を知ったら自分にはそれしか出来ないと思い込んでしまう。すると、当然それしか出来なくなるって訳だ。魔法は試してなんぼの物だ。試さなければそこで止まってしまうんだ分かったか?」
カエデの授業は魔法陣の改変やらをやったことにより、学院長に批判が殺到するのだが改めて授業を聞くと、新たな発見が見えてくる。そういう授業だった。
そこから二人は最後まで授業を見てから学院長室に戻った。
「どうでしたか? 決して必要のない知識だけでは無いのです。あなたにも分かったはずですよね?」
「·····はい」
試してみなくては始まらない。そうカエデの言っていた事は一つの考えとして正しいものなのだ。
「私は今回の七魔武闘祭に本気で勝とうと思っています。ですが私のシナリオでは2組を代表にする気は今のところありません」
「えっ!?」
カエデを講師として迎え入れたのは2組を代表にするためとばかり思っていたシルターは驚く。
「カエデという講師をカンフル剤としてあなた方教師陣にもやる気を出させるようにするためです。いいですか? 私は2組だけを贔屓するつもりはありません。あなたは1組の担任ですよね?」
「はい」
「1組に転入した体験入学の子とあの子たちを存分に育てればあなたのクラスがもしかしたら代表になるかも知れません」
1組に転入したのはアマサである。
登校初日から彼女の実力は学園中に知れ渡るものだ。それは竜人としての力もさることながら個人の才能も相まって学院ではトップクラスに割り込めるほどである。
「それを踏まえてよくお考えください。あなたが今いるべきはここではないはずですよ?」
「·····そうですね。すみません。カエデ先生たちに負けないよう私たち1組としても精進しようと思います」
「はい! ではあなたの教師としての腕を存分に奮ってください」
「分かりました」
そう言って去っていくシルターを見て、クルムは一人誰にも言うわけでもなく静かに呟く。
「今年の七魔武闘祭が楽しみです。頑張ってくださいカエデ先生·····1組は強いですよ·····」




