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最弱認定


「あなたが勇者様でございましょうか?」


 勢いよく入ってきた金髪で碧眼の少女の俺を見て、第一声がそれだった。


「勇者かどうかは知らないな。というかお前だれ?」

「き、貴様ぁ! 無礼であるぞ!」


 俺の発言に一人の兵士が殺気を放ち、腰に差した剣に手をかけるが、それを金髪の少女が止める。


「やめなさい、失礼しました。私の名前はサナ・アラン。このアラン王国、王女で今回あなたをここに呼びつけた者でございます」


 凛とした顔立ちに、堂々とした姿勢。さすがと言うべきか、王女であってもここまでしっかりしているのは賞賛できる。


「そして、私に名乗らせたのなら、そちらも自己紹介してくださいますね?」

「ああ、俺の名前は佐藤楓だ」

「サトウ、カエデ?」

「そう、呼びづらかったらカエデで良い」


 久々に使う言語に少し不安を感じたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。


「分かりました。カエデ様ですね? では、ご案内しますので私たちについてきてください」


 踵を返し、部屋を後にするサナ。もちろん、俺もその後に続きたかったのだが、さっきから囲んでる兵士たちの殺気がやばい。


 まぁ、俺にそんな殺気なんて通用しないけどな。


 すまし顔で、兵士たちの間をすり抜け、サナの後を追う。

  道中、目線を巡らせれば、広い中庭に、通り過ぎるメイドたち。俺の後ろに続き歩く兵士たちも含めてやっぱり、あの世界なのだと強く思わせてくる。


「ここでございます」


 突然サナが止まったかと思えば、目の前には豪勢な扉が設置されており、魔法であろう力が行使され、ギギギっと音をたて徐々に開いていく


「ほぉ、すごいな」


 思わず、感嘆してしまった。何せ、扉が開かれ、目の前に広がったのは俺が知ってる中でも一二を争うほどの高価な物の数々、天井には金でできたシャンデリアに、床にはこれまた金の装飾が施された赤のカーペットが敷かれていたのだから。


「良くぞ来てくれた。我が名はトウタ・アラン。このアラン王国の現国王である」


  俺が、部屋を見渡していたら、トウタと名乗る老人が自己紹介してきた。


 宝石がはめ込まれた王冠に、赤のマント。高価なものが装飾された装飾杖。まぁ、いかにもって感じだな。


「俺の名前はカエデだ。よろしく頼む」


 俺の不遜な物言いに、揃って兵士が殺気立つが仕方がないのだ。だって今までこの喋り方しかしてこなかったしな。


 まぁ、正直な所、敬語の一つや二つ覚えていない訳でもない。だが、こいつらに使う気は無いというだけだったりするが。


「そうか、カエデか。では、カエデよ。混乱していると思うが、落ち着いて聞いて欲しいのだ」


 俺のタメ口を混乱しているからだと思ったのか、トウタが話し始める。


「この世界はクロッタと呼ばれる世界である」


 知ってる。


「この世界には、我ら人間が魔王と呼んでいる者たちがおるのだが、その一人が我らに宣戦布告を言い渡してきた。魔王となると我らも下手な交渉は出来ない。故に魔王と同等の力を持つもの勇者を召喚したのだ」


 まぁ、そんなとこだろう。


「それがお主、カエデというわけなのだが、手を貸してはくれないか?」


 もちろん、俺の答えは決まっている。


「やだ」


 さすがのこれには、兵士たちが剣を抜き、俺にへと攻めよってくる。だが、その剣が俺を斬ることはなかった。


「やめないか!」


 トウタの物凄い気迫に押し負け、兵士たちがその剣を仕方なしにしまい込んだからだ。だが


「し、しかし」


 先程、サナの時にも俺を斬ろうとした兵士が食い下がる。


「こやつは、先程も姫殿下に対し、不遜な物言いを――」


 だが、トウタはそんな兵士の言葉を遮り怒鳴る。


「だまれ! 我らにとっては客人だ! しかも、突然呼び出したこちらに非がある。動揺や混乱もあるのだろう。命をかけろと言われ、かけられる人なんているわけが無い。それは分かっておろう?」


 どうやら結構な人格者のようだ。俺の知っている人間とはかけ離れているな。

 このトウタの言葉にはさしもの兵士は悔しいのか、歯噛みし「失礼しました」と剣をしまい、引き下がっていく。


「では、話を戻そう。本当に無理なのか?」

「ああ」

「理由を話してもらってもかまわないだろうか?」


 理由、理由か·····。もちろん、ちゃんとしたのがあるが、そんなことを言っても信じては貰えないだろう。

 適当にでっち上げるとするか


「俺の力では救えないと思ったからだ」

「どういうことだ?」

「とても、俺にはそんな力があるとは思えない」


 そもそも、あの時魔法陣が広がっていたのは、菜乃花の方であって俺では無いからな。まぁ、この世界にはきたくなかったが、菜乃花が巻き込まれるのなら話は別だろう、背に腹はかえられない。


「そうか、実感が湧かないか·····なら、ステータスという物を見せようではないか」


 俺が自信がないと思ったのかトウタは、ステータスの話をし始める。


 もちろん俺はステータスを知っている。ステータスとは己の力を示すものであり、五つの分類がされている。


 一つ、体力 《ライフ》


 二つ、攻撃力 《アタック》


 三つ、防御力 《ディフェンス》


 四つ、魔力 《マジック》


 五つ、幸運力 《ラッキー》


 と、この五つだ。


それぞれ、呼んで字のごとくの力を表す。プラス、スキルというものがあるが、これは先程の鑑定然り、気配感知然りだ。ゲームの能力という感じ方で良い。


 そして、これに加え、ステータスは己の身分の証明にも使われていて、名前と性別、年齢に職業、後はレベルが記されている。


 職業は、ステータスや己の才覚で勝手に示されるもので、正直ガチャで決めるようなものだ。時には最底辺職を引き、絶望するものもいる。


「そして、カエデのステータスは、我らよりも強くなっているのだ。分かったな?」


 もう、俺が知っていた事だからな。とりあえず、勇者は強いってことを見せたいのだろう。


「ステータスは己で念じ、願えば、その場に出現する。このようにな」


 そして、ゲームの画面みたいなものがトウタの前に写し出された。


「では、やってみてくれ」


 仕方なしにステータスを願う。そして写し出される己のステータス。これこそが、俺が勇者を嫌がった原因で、そして地球で魔法が使えた理由でもある。


  ◇◇


サトウ カエデ 17歳 男

職業 魔王

レベル 999 《カンスト》

体力 EX

攻撃力 EX

防御力 EX

魔力 EX

幸運力 EX

固有能力 《スキル》

転生 魔王 鑑定 気配察知 神殺し 竜殺し 破壊 創造 偽造


 ◇◇


 見てわかる通り、俺は転生して地球人となったのだ。元々はこの世界で魔王をやっていた。


 レベルなんて神や竜を殺した時からカンスト状態で、ステータスのEXなんて、表記出来ませんとか書いてあったのを無理くり、変えたのだ。


 転生した理由なんて、争いがめんどくさくなったからであって、もう二度と来ることはないと思ったが、まさかまたここに来て、更には魔王を討伐してくれって同じ魔王である俺に頼むなって話である。


「どうだ? 見れたか?」


 トウタやサナが心配そうに見つめてくる。もちろんこんなステータスを見せるはずもなく、偽造を発動させ、ステータスをいじる。

 ちなみにEXとなっているのも偽造のおかげだ。


「見れた。多分だが最弱と言っても過言じゃないんじゃないか?」


 驚く、トウタとサナプラス、野次馬 (兵士たち) が揃って俺の偽造されたステータスを見る。


  ◇◇


サトウ カエデ 17歳 男

職業 魔法使い (見習い)

レベル 1

体力 E

攻撃力 E

防御力 E

魔力 E

幸運力 E

固有能力 《スキル》

言語理解


 ◇◇


「どうだ?」


 俺の問いに全員が沈黙する。だがそれも一瞬のこと。


「ど、どういう事だぁ!」


  トウタの叫び声が木霊する。


「どうもこうも、それが事実だ」


 他の奴らは、トウタみたいに叫びはしないが、軽蔑な目線を向けてくる。サナは少し絶望したような顔で前髪で目元を暗くさせている。


 すると、先程の兵士が好機と思ったのか、トウタに口を挟む。


「これでは、魔王討伐なんて無理でございます。しかも、これから魔王との戦いに備えて、このような者に割く食料も時間もありません。最悪、王都に連れていけば多少は生けてはいけるでしょう」


 困惑している内に話をつけたいのか、兵士は矢継ぎ早に意見を出していく。


「私がお金を渡し、生きていけるように最低の免除を施しますので、どうでしょうか?」


 アイツの下卑た笑みは動揺と混乱でトウタには視認出来なかったのだろう。疲れたのか、ぐったりとした様子でトウタは渋々許可を出す。


「分かった。金なら渡そう。幸い、王都には魔王のことを伝えてはいない。決戦の日も二年と結構後に控えているからな、それまでに強くなっているといいが·····」


 そして、金が入った袋を兵士にへと渡す。


「この役目はお前に一任する。よろしく頼むぞ?」

「はっ!」


 俺を他所にどんどんと話が進んでいるが、まぁこっちとしても好都合だ。


「こっちだついてこい」


 金を受け取った兵士が、俺の右腕を引っ張っていく


「ほら、これが例のものだッ!」


 兵士に連れられ、城門の前まで来た俺に、兵士が金――ではなく、剣を突き出してきた。


 まぁ、そう来るわな。もちろんそんな攻撃は全てのステータスがEXである俺に通用することも無く、俺の右ストレートが兵士の顔面に決まった。


「ほげっ!」


 フィギュアスケートの映像でしか見たことがない、四回転を決め、地面にへと叩きつけられる兵士。


 殺さないように手加減はしたが、ありゃあ顔が変形してるね、これ。·····まぁ、良いか。


 そして、腰に差された鞘と転がっている剣を拾い、聞こえるはずもないだろうが、一応、一声かける。


「ついでに剣も貰っていくよ」


  別に今みたいに、素手でも問題はないが、あるに越したことはない。鑑定してもどうやら市販のものだったので盗んだ事はバレないだろう。


 さて、王国に最弱認定されたけど、どうしようか·····。

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