ウォーミングアップ
あれからこっぴどく叱られた俺らは、速やかに風呂に入り速攻で上がってきた。
それはもう迅速に、シャンプーで頭を洗おうものなら高速で擦りすぎて泡立ち過ぎるぐらいに焦りを感じながら――
「御主人様」
風呂場での出来事を思い出していると、アマサから声をかけられた。
「なんだ?」
「あの、これはどういう状況ですか?」
疑問符を浮かべながら隣に寝ているアマサはこちらを見つめてくる。
現在俺らは添い寝とやらをしている。
もちろんこれには色々な出来事がありこうなったのだ。
まず、アマサの存在がバレてしまったのだが、今から一部屋開けるのは難しいとの事なのでこの部屋で泊まることにしたのだ。
しかし、ここで問題が生じた。ベットが一つしか無かったのだ。
そこで、俺は風呂場での一件を含め一つしかないベットを譲った。
すると、あちらは奴隷というのを言い訳として俺の厚意を無下にしたのだ。
こちらも意地となり、譲り合っていたらいつの間にかこうなっていたという訳だ。
断じて故意ではない、ないったらないのだ。
「お前がわがままだからだろ」
「そうですが·····ああ、もう。分かりました、おやすみなさい!」
怒気を強めた声を放ちながらそっぽ向いて寝てしまった。
·····そういえば、今コイツから放たれているのは怒気で、殺気ではないな。
多少なりとも心を開いてくれたという訳か、それなら良かった。
そんなことを考えながら俺は明日の予定に意識を切り替える。
明日は五日後に行われる婚約披露宴のためにアマサの強化を行う。
だが、竜人というのは十二分に強い、俺も言葉だけだが、竜人の強さは知っている。
曰く、火系統魔法に長けており、竜化というスキルを持っているということ。
曰く、火系統の強さは常人よりも強く、特にブレス攻撃は一騎当千の強さを秘めている。
曰く、その瞳は万物全てを視れるという一種の魔眼であること
曰く、曰くetc·····
上げたらキリがないが、しかし今回必要なのはそういう実力ではない。
式をぶち壊すのなら別に構いやしない、それなら俺だけでも充分だ。
しかし、式自体がクレアにとって同意の元であるか、嫌なら連れ出さなければならない。それは、あの真実を伝えるのと同時にできる最大限の恩返しと言えよう。
だからこそ明日はダンジョンへ向かおうと思うのだ。
ダンジョンとは世界に五つと存在している言わば迷宮である。
ダンジョンには宝箱などが配置されている。それにたどり着くにはそれ相応の危険が伴うわけで、ダンジョンにはモンスターが生息しているのだ。
そこで今回、アマサには隠密を学ばせる。
そもそも、モンスターは殺気に敏感である。風呂場みたいに殺気をダダ漏れすると、格好の餌と成りうるのだ。
だが、竜人にとってモンスターは恐るるに足らないだろう。
なので、アマサには一日でダンジョンを攻略でもしてもらおうでは無いか。
俺なら一時間もあれば事足りるが、それは裏技があるからして成せる技だ。追追アマサには裏技も教えよ、う、か·····
そんなことを考えているうちに俺も睡魔に意識を刈り取られていた。
◆
翌日、冒険者ギルドにダンジョンに行くという申請をして、今は王都の南門に来ている。
「よし、アマサ! これからダンジョンに向かう」
「分かりました」
そんなことを今更するの? と言わんばかりのすまし顔のアマサ。
しかし、竜人とは誇りが高い種族だと聞いたことがある。
そんなアマサに、俺は昨夜考えたプランを話す。
「これからダンジョンの一つである『真実の迷宮』という所へ向かう。場所は把握しているな?」
「はい、存じております」
ダンジョンの名前を聞いても平然としているな。しかし、たかが中級者向けのダンジョンならそのような態度は分からなくもない。俺もそうだからな。
そんなアマサの平然とした顔を崩すのもまた一興じゃないか。
だから俺は意地の悪いことを言ってみた。
「じゃあそこにお前は五分で辿り着け」
「は? いや、少しお待ちください。徒歩で五日かかると言われるのを五分ですか!?」
彼女が言った通りここからダンジョンまでは徒歩で五日かかるのだ。それを五分と言ってのける俺にアマサは目を見開く。
正直、転移を使えば一秒ぐらいでつくのだが、それでは体が温まらない。ウォーミングアップという奴だ。
しかし、アマサは納得がいかないのか、抗議の声を上げる。
「さすがにそれは竜人と言えども限界がありますので」
別に転移を使わなくとも、身体強化さえ使えれば行けなくは無いのだがな。
しかし、ここは余裕そうな顔を崩せただけでも収穫と言えよう。慢心は時に危険を及ぼすからな。
では、五分が無理なら――
「じゃあまけて一時間だ」
「はっ!! いや全然まけてないです。せめて一日で――」
「お前、五分から一時間に変えたんだ。行ける。というか、行けなければさすがにダメだろ」
「えぇぇぇ」
「身体強化を使えば案外余裕だぞ?」
そうさなぁ、俺が知ってる中で行けるのならばクレアならいけるだろう。地力で王都の外壁を飛び越える程の脚力があれば、身体強化を使えば余裕で到着できる。
というか、こと戦いに置いて体力や筋力などの身体能力は必須だ。この時代は俺がいた時代よりも衰退している。
この時代にはもやしっ子しかいないのか? 魔法発展期では、そこら辺の兵士ですら格闘技の一つや二つを覚えなければ死んでいたぞ。
しかし、アマサにこんなことを言っても通じないと思う。
だが、さすがにこれをクリアしてもらはなければ今後のダンジョン攻略では身が持たないだろう。何かと理由をつけて交渉すれば――
「分かりました」
渋々だがようやく決心がいったようだ。一応竜化の使用は禁止とだけ伝えておく。
――しかし、大丈夫か?
僅かばかりの心配が過ぎるが、俺は先に待つため脳内に魔法陣を描く
「じゃあ俺は先に行ってるわ」
「へっ?」
「待ってるぞ<転移>」
そして、俺は一足先にダンジョンにへと辿り着いた。
さて、竜人の力を見せてもらおうか。
魔王にとって徒歩五日を五分でいくのは当たり前でウォーミングアップなのです。アマサのために一時間にしましたがね。




