異世界転移
慣れない一人称ですが、頑張ります。
「ありがとうお兄ちゃん」
「おう、次は離すなよ」
そして俺の元から去っていく女の子に向かい手を振る。
すると、突然俺の背中が衝撃に襲われた。
「楓、おはよ!」
俺は衝撃の元凶である少女に目線を向ける。
俺の幼なじみで名前は桜井 菜乃花。容姿は可愛いのだが、俺に飛びついてくる癖があるのが難点か。
「おはよう菜乃花」
「それよりもさ。楓、今の見てたよぉ、優しいね」
菜乃花が言っているのはさっきの話だろう。女の子が風船を手から離してしまい、木に引っかかったのを偶然見かけ、それを代わりにとってあげたのだ。
「別に普通だよ」
「まぁ、取り方は普通じゃなかったけどね」
「·····そうだな」
木に引っかかった風船を風をあやつりとるなんて真似はそうそう、というか出来ないからな。
「本当に不思議だよぉ。なんであんな取り方できるの?」
「偶然じゃないか?」
しかし、菜乃花は俺の言った事をスルーして考察に没頭している。
俺は苦笑いを浮かべるが、その種明かしだけは出来ないのだ。何せ魔法を使っているなんて口が裂けても言えないからな。
言ったら、間違いなく厨二病認定されるだろう。それだけは避けなければ。
そんな俺の気持ちを他所に未だに、俺の技を考察し続けている菜乃花の頭を叩き、正気に戻す。
「痛いよぉ、なにすんだ! このぉ」
ジト目を俺に向け、そしてやり返すべく俺に飛びつき、頭をわちゃわちゃしてくる。
これが俺の日常だった。
あの時とは違い。楽しいことだらけである。
だが、そんな日常も突然として壊れた。
「ん? なにこれ」
菜乃花の言葉でハッとし、下に目線を転じれば、広がるのは魔法陣。
見たところ転移の術式が組み込まれているな。転移の人数は一人か。
「菜乃花、離れろ!」
「きゃっ!」
一応念の為に菜乃花を突き飛ばし、魔法陣の外にやる。
そして、菜乃花が魔法陣の外に出たのと魔法が行使されたのは同時だった。
◆
青白い魔力の粒子が放出され、それが消え失せた後に広がっていたのは先程までの通学路とは打って変わって、とある一室の光景だった。
だが、部屋というには何もない。ただ真っ白な空間だ。恐らく魔法を行使するために作った特殊な部屋なのだろう。床には先程と同じ魔法陣が描かれている。
もちろん辺りを見渡せば、人影一つない。
「はぁ」
自然とため息が溢れ出る。だが、それも仕方がないだろう。何せまたこの世界に来てしまったのだから
『鑑定終了、一致率99%。この世界は元いた世界と同じであります』
やはりか·····。
今のは鑑定というスキルで、この世界に来たのと同時に発動させていた。
ちなみに、俺のはお手製で電子的な声が聞こえてくるようになっている。もちろん脳内に直接響くようにしている。
「気配が十人か」
同じく俺のスキルである気配感知から、十人ぐらいの気配が感知された。これから起こるであろう出来事を思い浮かべ、再度ため息がこぼれてしまう。
「はぁ」
そして、ドアが勢いよく開かれ、現れたのは金髪碧眼の少女だった。