95話:闘技場へ
「ふむ人間の作る物は不思議なのが多いの」
俺に背負われて興味津々といった感じにグリムが話しかけてくる。現在、闘技場方面に向かって屋根伝いに隊列を組みながらニンジャランで向かっている所だ。
「ニンジャランって呼んでるんだけど。ようは身体機能を一時的に向上させてくれるんだよこのスーツは」
「ほう、スーツと呼ぶのか。なるほどの。今後のわしの研究に何か役に立つのかもしれんな。もしかするとお主の求めるモンスターテイマーの力になれるかもしれん」
「それはいい話だな。また後で聞かせてくれよ」
「うむ。ただし、今はお主の求めてるモンスターの亡骸を回収してやるのが先決じゃ。わしの説明はよく長くなるといわれる」
「ようは段取りが悪くなるから後でってことだな」
「そうじゃ。何事にも事前の用意が必要不可欠。時間を割くタイミングを間違えてはいかんからの。そうなればいかんことになる」
「誰が上手く言えと言った」
「面白いじゃろ?」
「えぇ……」
こんな時にそんあ事を言われても困るって。
「ははっ、妹のジョークだ。面白がってやれよ」
「そう言っているロッソ先輩はどうなんですかね」
「おっ、そろそろ着くぞ。見えてきた」
タイミングいいのやら。まったくだ。
「ぱっと見ですが周辺に異常はない感じですね」
「うむ。気配もないようじゃの。どうやら警備の者はおらぬかもしれん」
「かもしれんは危険っていいません?」
「よく知ってるなカリト。そうだ。現場でかもしれんは通用しないぞ」
「用心深い事はいいことじゃ。心して掛かることにしようかの」
そして闘技場に通じる広場に跳躍して降り立ち、周囲の安全を確認してグリムを降ろしてやった。直ぐに俺は銃を取り出して構えて簡易的に偵察を行ったが。
「クリアです」
「こっちも気配はなし。虫ひとつなしか。警戒は怠らずにじわじわと浸透していきながら潜入していくぞ」
「了解です」
連携はおそらく大丈夫だろう。とはいえロッソ先輩が俺の慣れない動きに合わせてくれている感じが否めないが……。足手まといにならないようにはしないといけないか。ただ、グリムはどうだろうか。
「わしは遠目について行くぞ。安心せい。わしはお主よりもつよいからの」
「ほう、妹に負けたのかよカリト」
「あっ、あれは初対面で初見だったからですよ!」
「言い訳はいかんぞ。戦士でありモンスターテイマーならば、それ相応の身を守る術を身につけて行かんといけないのじゃよ」
「そも寿命を延ばすための延命っていうわけですか?」
「講義をするのはあとじゃ。いまは目の前の脅威に集中せい」
「えっ?」
さっき安全だったのになんで? そう思って前を振り向くと。
「敵だぁ! こっちに敵が居るぞ!!」
歩哨に見つかってしまっただとっ!? 俺達を発見して直ぐに相手はアサルトライフルを遠距離から構えて容赦なく攻撃を仕掛けてきた。
「こっちだ2人とも!」
「うあっ!?」
「うむ」
ロッソ先輩の怪力で、俺は首根っこを掴まれたまま建物の角に連れ込まれてしまった。
「あっぶねぇな」
「ま、待ち伏せだったのでしょうか……」
「十中八九そうだろ。事前に警備ルートを把握していなかったのが不味かったな。まぁ、俺的には好みなんだけどな」
「ただ欲の力で暴れたいだけですよね?」
「そうだ。というわけで予定変更だ。お前と妹はそのまま闘技場に向かってくれ。ここで俺が派手に暴れて敵を引きつけてやる」
「だっ、大丈夫ですか!?」
「あったりまえだろ。俺はネメシスの中で暴欲の力を司る男だぜ?」
「天賦の才の事じゃな」
「おう、略して天才といってくれよな」
「素養のなさげな話し方をする者が天才を自負するのはいかがなものかのぉ」
「ありゃっ!?」
「だっ大丈夫です……?」
ロッソ先輩がグリムに言い負かされてその場で地面にずっこけてしまった。痛そうだなぁ……。よくやるよ。
「いてて。大丈夫だこれくらいは。と、とにかく俺は天才だ!」
「うむ。能天気な天才じゃの。ある意味で」
「もうそっとしてあげても良いと思います」
「おっ、おう。じゃっちょくら暴れてくるわ! うぉおおおおおおおお!!」
無鉄砲に角から飛び出していくロッソ先輩。それに応じる形で銃弾の雨あられと怒号が戦場に響き渡り始めた。
「いくぞお主。やつの覚悟を無駄にしてはいかんからの」
「ああ、いこうかグリム」
ロッソ先輩とは正反対に進路を取り、俺とグリムは静かに戦場から離れていくのだった。
次回の更新予定日は9月5日です。よろしくお願いします。




