94話:帰還命令
アジトに戻った直後。俺はその場にいたリリィ先輩とレフィア先輩にグリムの紹介をした。
「カリト君の事を強くしてくれる素敵な先生なのね。いいわよー。私はカリト君の意思を尊重するから」
「そうねぇ~。私はぁ、新人の意見には賛成するわぁ~」
「大分出来上がってますねレフィア先輩」
「んなことぉないわよぉ」
「気にしないでカリト君。完全に彼女。やけ酒で出来上がっちゃっているから聞き流してあげてね」
「そっ、そうですね」
あとで覚えてないとか言われてグリムに銃口向けないことを祈るしかないな……ははっ……。
あれから俺達は無事にプラントでの任務を完了することに成功した。まぁ現場にいたメンバーの中でけが人はなくて良かったと思うし。それにロッソ先輩が……。
「なぁチビ。あんた本当に竜人なのかよ?」
「お主に何度説明したと思うのじゃ。わしは正真正銘カースドラゴンの血を引く竜人族の生き残りじゃぞ」
「すっげぇなっ、本当にアルシェさん以外で竜人族を見れるだなんてよぉ。これからお前は俺の妹だ! 大事な家族だからよろしくなっ!」
「なんという傲慢な生き物なのじゃお主……。年上を敬うという配慮がみえんのぉ……」
付き合いって短いが、グリムの表情に面倒くさいという感情がにじみ出している事に気がついた。
「ロッソちゃん。あまり重要参考人の事を妹扱いしないでちょうだい」
「そうよシスコンのロッソォ! あんた新人がリリィと恋仲になるって知ったときもシスコンしてたもんねぇ!」
えっ、ロッソ先輩ってシスコンだったの……? まじで?
「じゃああの時、列車で俺にキツく当ったのも……」
「それ以前にリリィちゃんがジェスタ件でもそうだったわよ」
「もぅ……お兄ちゃんったら……」
「んんっ!?」
えっいまリリィがロッソ先輩の事をお兄ちゃんって呼んだよねっ!?
「……ああ、そうだよカリト。俺はこいつの兄なんだよ」
「なんとっ!?」
気まずそうに照れ隠しな態度を取るロッソ先輩。兄妹でネメシスのスタッフやってたんだ……。
「だからあの時独断専行したんだよ。妹の事が心配すぎて……ついな」
なるほど。ルナ先輩があの時喋っていた話が分った気がするな。カッコいいな。
「だからって初対面で妹扱いするのはどうかなと思いましたね」
実際にルナ先輩と俺とグリムがプラントの出口をでて、ロッソ先輩と合流してグリムを紹介したら、事情は兎も角といった感じに彼女の事を受け止めて、それで現在に至るわけだ。もしかして難しい事が苦手だったから自分で分りやすくロッソ先輩は分別したのかな……? わかんないな……。
「うむ。わしはお前より明らかに年上じゃ。妹ではなくお姉さんと呼ぶのが正しいの」
「おれ今まで妹しかもってなかったからそういうのは慣れなくてね……」
「うむ。そこは慣れなくては上手くやってはいかんぞ」
「だがそれでもお前の事を妹と思って接してやる! さぁ、帰るぞボルカノに!」
「えっ、まだプッタネスカを暗殺できてませんよ?」
「実はねカリト君。ルーノ職長から速達で手紙が届いてね。プッタネスカが行方をくらましてしまったらしいの」
「えぇっ!?」
もしかしてやることがやり過ぎたのかっ!?
「カリト君が思っているとおりよ。私達は派手にやり過ぎたわ。それに伴って都市の治安がより悪くなってしまったらしいわ。手薄になった場所を狙って多くのプッタネスカに派閥する組織が彼に宣戦布告をして。都市を舞台に戦争を引き起こしているの。悪人同士が自滅してくれるのは歓迎だけど。都市は王国の所有物よ。勝手な事をされては困るわね」
「じゃあ、俺達はどうするんです? 戦争に介入して鎮圧とか……」
「無理ね。私達は派手にやり過ぎた。ルーノ職長からの命令よ。直ぐに身支度をしてここから脱出するよ。残念だけど。仕事だから」
「…………ひとつお願いがあります」
「なに? 言って」
「闘技場に残されているゴルドデュエルベアの遺体を持ち帰りたいです」
「それはどういう意味かしら?」
「あいつをあんなとこで置いていきたくは無いんです。俺はモンスターテイマーです。モンスターと共に生きる自分が命を奪ってしまったんですよ。だったらせめて丁重に弔ってやりたいんです。俺が身近にあいつの事を感じられるように……せめて……」
俺はその場で頭を深く下げた。
「お願いします! 責任は自分でとりますから。もう1度、あの場所に行かせてください!」
「それをするにあたって何か考えがあるの?」
「外で待機してるモンスター達と協力して外に運搬する算段で考えてます」
そう周りに説明すると。
「うむ。お主の言い分は分った。モンスターテイマーの力を持つ者として命の尊さを感じさせる言葉じゃった。わしはお主の立場についてやろう。手助けしてやる」
「あ、ありがとうございます!」
「私はカリト君のやることに賛成するわ。だって私の大好きな人の言葉だもん」
「リリィ先輩……」
「おっ、おう。リリィが言うなら俺も賛成してやる。お前には色々と悪い思いをさせたからな」
「ありがとうございますロッソ先輩」
「べっ、べつに俺の事をお兄さんとよんでもいいからな……?」
「いえ、まだそういう所まで来てないので遠慮します」
「けけっけっこんまで考えてくれていたのぉっ!?」
「えっ」
「あーんもう大好きぃ!」
「うわっよっとリリィ先輩! 俺の顔にキスしないでって!?」
「ふんリア充がー! あんたらのいちゃつく所みせつけられてムカつくけど。まぁ、生き物を大事にする人間に悪い奴はいないから肯定するわ」
「いや、なに急にしらふ顔で流ちょうに話すんですかレフィア先輩」
本当にやけ酒で酔ってんのかなぁ……? 顔を赤くしてキリッとした顔で話されても困るな。いや、嬉しいけどね。酔って話しているのがどうも……。まぁ、いいか。
「ルナ先輩。どうですか?」
「…………私はサトナカちゃんの事を一目置いているつもりだから賛成するわ」
「ありがと――」
「ただし。やるからにはそれ相応の責任を持って作戦に挑みなさい。協力者が必要なら遠慮しないで。私は残念だけど今回の作戦には参加できないわ。色々と準備に取りかからないといけないから。あとレフィアちゃんを置いてはいけないからね」
「私は酔ってないけど」
「だめよ嘘ついちゃ。臭いで分るわよ」
「…………ちぇ」
まるで親子みたいな会話をしているレフィア先輩とルナ先輩である。
「カリト君。私は戦闘とか不向きな人だから」
「ええ、自分の帰りを外で待っていただくだけでいいです」
「うん。頑張ってね」
リリィ先輩が俺の両手を包み込むように握り締めてくる。それに答える形で俺は彼女の額に自分の額を重ね合わせた。
「この仕事が終わったらデートしましょう。1日だけの恋仲で楽しく過ごしたいです」
「ふふっ、まるで今から死地行こうとするナイトみたいな言葉に聞こえるわね。寂しいけど待ってるから。ちゃんと五体満足で帰ってくるのよ」
「分りました」
そのまま俺はリリィ先輩の下から離れて立ち、アジトから出ることにした。
「まてお主。このわしを置いていくとはありえんじゃろ」
「えっ、あんた。重要参考人なのに何でついてくるんだよ」
「ルナ嬢からお主のお守りを預かったのじゃ。それと」
「おいおい俺を置いていくなってカリト君!」
「なんで俺の名前を呼ぶときだけリリィ先輩のモノマネするんですか。意味不明ですロッソ先輩」
「おいおいノリが悪いことするんじゃねぇよ。お前は俺の弟だ」
「弟って……」
「そう嫌そうな顔をしなくてもいい。カリトのやること全部手伝ってやるっていう俺なりの挨拶さ」
「ストレートにそう言って頂けたら嬉しかったんですけどねぇ……」
こうして俺とグリムにロッソ先輩というメンツで、この都市で行う最後の作戦に取りかかることが決まった。
次回の更新予定日は9月4日です。よろしくお願いします。




