90話:爆破任務 その4
「三等兵。俺はここから別のエリアの巡回に回る。お前はそのまま居住区画と研究区画の巡回に回れ。くれぐれも先生達を怒らせるなよ? お前、いつも女先生達にちょっかいかけるからな」
「了解です」
「お前、いつもそんな風に返事してくれたら良いんだけどなぁ……はぁ……」
そう言って部隊長の警備兵はそのまま別のエリアに通じている回廊へ歩いて行ってしまった。三等兵と呼ばれている男はよほどのヤバイ奴だったようだ。
「あっぶねぇ……口癖で普通に返事してしまった……」
声でバレてしまうかと思ったが、あまり気にする感じがなかった。しゃべり方も日頃の行ないがモノを言ったようで、特に疑問に思われずに済んだ感じだった。とりあえず言われたルートに向かうことにしよう。
「へぇ、居住区画ってこんな感じなんだ」
まるでSF映画に出てくるような鉄だらけの空間。壁や天井までの全部が鉄で出来ているみたいだ。統一感がありすぎて殺風景だこりゃ。おまけに住人達全員がむさ苦しいったらありゃしないぜ。
「おうごくろーさん」
「うっす」
「ん……? 声がいつもの奴と違うが……誰だ?」
唐突に声かけてくる髭親父の男に怪しまれてしまった。タンクトップ姿に筋骨隆々ときた時点で強そうな感じが漂ってるな……。もしかしてここ、警備員達の寝床だったのかな……!?
「あ、あの今日から配属されたばかりの新人です! よろしくお願いします!」
「なーんだ。おめぇ、新入りだったのか。……隊長の奴そんな話し朝にしてたっけなぁ……」
「えぇ……」
やっべ、完全にベタな返答が徒となった感じがするっ!?
「そ、そのバイトと言うべきでしょうか……ははっ」
「……バイトか……。だったら仕方がねぇな。まぁ、ここの現場はやたら奇妙な物ばかりがおかれてるから。くれぐれもみだりに触ったりすんなよな! あと、学者の連中も奇妙な者ばかりだから気をつけろよ!」
「うっす! じゃあ、仕事があるので失礼します!」
「おう。ちなみに……なんで三等兵の服なんか着てるんだ……?」
「あ、あの……間に合わせでこれ着とけって言われて……」
「それはどこのどいつが言ったんだ……?」
やべっ、これ絶対にミスったらアウトな会話じゃないかっ!? しかも選択肢がないときた。
「その……隊長さんでしょうか……」
「…………」
男の顔が険しくなっていく。勘づかれたのかな……?
「わかった。とりあえず。そのまま仕事に戻れ。隊長には言っておく」
「りょっ、了解です!」
そのまま俺はそそくさと立ち去ることにした。
「あっ、あれでよかったかな……?」
あの人が隊長に話しかけたらまずいような気もするんだけど……。それまでがタイムリミットか……。いまは任務に集中しよう。
「研究区画はどこかな……?」
プラントと聞いて広々とした空間を連想していたのだが、かなり狭い通路ばかりで繋がった感じの建物の構造をしている。区画自体は正方形な感じの間取りで構成されていて、人が快適に過ごせるくらいの広さは確保されているようだ。そして。
「普通にあるいて着いたな」
迷路みたいなのかと思ったのだが。あっさりと研究区画に辿り着くことができた。ふと。
『各員戦闘態勢。侵入者だ!!』
「――ッ!?」
突然のアナウンスと同時にサイレンが響き渡る。俺が偽物だとバレてしまったのかっ!?
『現在プラットホーム前にて戦闘が発生中。うごけるものは直ちに現場に急行せよ』
「プラットホーム前ってルナ先輩とロッソ先輩がいるんじゃ?」
今は分らない。2人の無事を祈るしかない。
「急がないと!」
俺は学者達を退避させる素振りをしながら周囲を回り歩くことにした。
「いそげ! 今すぐ研究を止めて避難しろ!」
「なっ、なんだよいったい!?」
「知るかよ! 直ぐに敵が来るぞ!」
こうここにいるけどな。
「わっ、わかった! くれぐれも辺りにあるモノに触らないでくれよな!?」
眼鏡をかけた学者の男は周囲に合わせてそのまま避難経路を走って行った。
「警備員さん。主任が奥の研究室から出たくないと嫌がってて……」
「任せろ。俺がなんとかする。お前は避難するんだ」
「はっ、はい!」
通りすがりの女の学者に声をかけられたかと思えば、主任と呼ばれる学者が避難拒否をしているという話を持ちかけられた。
「ったく、どこにいるんだよ……」
らしくいいつつ辺りを警戒する。あとは、
「そうだな……。人が居ないついでに爆弾をしかけようか」
焼夷爆弾と呼ばれる破壊道具を今回持ち込んでいる。俺は服を脱ぎ捨てて元の姿に戻り、ジャケット裏にある隠しポケットから分解して小さくしていたライフルを背中から取出し、両手で素早く組み立てて携えた。
「あとは」
腰元のポーチから焼夷爆弾を取り出す。サイズは手のひら程度で、持ち込めたのは5つだ。原理はよく分からないけれど。このポーチ1つでそれくらいのモノが詰め込めるようになっているようだ。変装してもかさばらずに済むのはいいな。
「ここの研究区画を効率よく焼却処分するには……」
周囲は鉄で出来た建造物。爆破するにも難しいところがある。だったら燃やしてしまえばいいな。一応爆発するタイプも用意はしてある。それは温存しておきたい。本命と思われるモノに使いたいからだ。
「これでいいかな……?」
若干不安はあるけれど。退路を考えて出来るだけのことはした。研究材料と思わしき物、資料、器材全てを1箇所の部屋に集め、そこにタイマーを設定した爆弾を設置し、部屋を締めきって起爆するのを待つだけだ。そして。
――ボンッ!!
「眩しっ!?」
突然の閃光と共に部屋中に業火が舞い上がる。眩しさのあまりに一瞬だけ目潰しをくらってしまった。中にあった全ての物が炎で燃やされていく光景を目の当りにしながら。
「学者の命は奪わないけど。あれら全部はあってはいけない物なんだ」
モンスターは生きているんだ。悪意で接していいもんじゃない。
「あとは炎が勝手に綺麗にしてくれるだろう」
まだ探索していなかったある部屋に向かうことにした。物を集めるときに見つけ、入ることの出来ていない鍵の掛かった『学者主任研究室』と呼ばれる場所だ。
「主任と呼ばれているということは……」
おそらくプッタネスカが抱える配下の幹部に違いない。モンスターを狂わせる薬を考案した人物のはず。気を引き締めよう……。
「……爆弾をつかうか」
目的の部屋の前に辿り着き、解除方法を考えた結果。爆破による侵入を試みることにした。
「――ッ!」
爆弾を使う案は成功だった。あっさりと室内を隔てていたドアは木っ端微塵になり、冷たい冷気が漏れてくる中に入ることができた。うす暗がりの中、青白い光に照らされる室内でライフルを構えながら俺は目の前に広がる光景に唖然としてしまった。
「……なんだよここ」
室内にあるのは部屋の端に並べられた大中小のサイズの培養液の詰まった水槽。その中には様々なモンスター
狂気の研究室と言うべき場所に俺は辿り着いてしまったようだ。そして部屋の奥には。
「えっ、男の人……?」
人間の身体が培養液の詰まった円筒の水槽に収められていた。
「どうだい。ここは素晴らしい景色だろ?」
手前奥。幼さの残る女の声が暗がりの中から聞こえ、思わずビクッとしながら声のした方に振り向く。
「初めまして。私はここのプラントを統括する研究主任である」
「女の子……?」
そこに現れたのは白いローブ姿の魔女のような女の子だった。
「そう思うだろう。こうみえて280歳だったりする」
「あんた名前は?」
「グリム・カースドラゴン。混沌種の血を引き継ぐ竜人族の末裔じゃ」
「混沌種……竜人族の末裔……」
まるでアルシェさんみたいだ……。
「かつての大戦で没落し。いまはこうして人間の男に仕える落ちぶれた憐れな女竜人じゃ」
話と共に俺の下に歩み寄ってくるグリム・カースドラゴン。明りと共に見えてきたのは。
「か……かわいいな……」
「はっ……?」
その顔立ちはまるで、ファンタジーに出てくるダークエルフの様な可愛らしい銀髪の女の子だった。あ、女性だったか。まぁ、いいや。ロリばっ――いや、なんでもない。うん、かわいいなー。
「お主。いまこの私を愚弄するような考えを持っておらんかったか?」
「え、いや。別にそんな事は考えておりませんよ?」
「……そうか」
「ええ」
ちょっと癖のある竜人と知り合いになったような気がする。ふと。
「……お主。まさか神賦の能力をもってはおらんか?」
「シンブ……?」
何の話だろうか……?
次回の更新予定日は8月31日です。よろしくお願いします。




