400話:対峙 機械兵器――シャーマン 5
(正直に……こんなの……一塊の傭兵組織が生み出せるような代物じゃない……。どこかの……そう……機械に精通した頭のいい人間……それも秀でたアイデアを有した科学者でしか実現不可能だ……)
改めて俺達が搭乗する機械兵器『シャーマン』についてくわしく解説をしていく。
シャーマンは履帯走行が可能な4つの足をもつ多脚式のロボット兵器であり、上半身にあたる本体のデザインとしては、現代的な戦車が有している箱形の形状を踏襲している。
横360度に回転が可能な旋回砲塔の上部には、上下に可動する35ミリ機関砲が2門搭載されているのと、小型ミサイルを4基も搭載した垂直発射装置(VLS)が砲塔内部に格納されている。
砲塔左右の側面には、人間の腕と手の形を模したアームが着装されており、携行して使える武器が利用できるかもしれない。
総合的にみれば地対空におけるバランスのとれた申し分のない汎用的で機動力のあるマルチタクティカルロボット――(MTR)と呼ぶ事が出来るだろう。
「まさかここに来てロボット対戦をするとは想いもしなかったが……常日頃に積み重ねてきたアーケードゲーマーのプレイ技術がこんな所で役に立つだなんて……感無量だよ……」
不登校だった時代。暇を持て余していた自分は定期的にゲームセンターに赴き、没入型アーケード機に入り浸る時代を過ごしていた。
そこが自分にとっての居場所でもあったんだ。
戦いと共に、シャーマンの操作を繰り返していく内に思い出す。脳内にて感じる高揚感からくる懐かしさと、死ぬかもしれないという瀬戸際に立たされていても湧き上がるこの闘争的な感情。
(俺の体は覚えていたのか……)
目尻から頬に伝うようにして涙を流さずにはいられなかった。
「カリト君。泣いている所も可愛くて素敵だけれども。あっちの攻撃に当たらないように頑張ってほしいかなっ!?」
「あ――すっ、すまないリリィ……ははっ……」
気を持ち直し、アクセルフットペダルと両腕のクラッチ&シフトレバーを同時に操作。一定の速度で相手のなぎ払ってくる機関砲の弾幕を流れる様にして、砲塔が旋回する向きに合わせて絶妙な調整と共に滑り避けていく。
『その動きはもう見切ったわ!』
「うーん、学習してきているな……嫌な対面だな……」
「どういうこと?」
「あっちのロボットにはパイロットを補助してくれる頭のいい相棒がいてな。AIっていうやつさ」
「えーあい?」
「人間の脳をイメージした電子機械の事さ」
「うーん……よくわからないかも……
シャーマンにはAIが標準搭載されている為、パイロットを逐次にサポートをしており、こちらの戦い方を観察から始まり解析をしているようで、こちらでとれる単調な回避機動にもそろそろ限界がきているようだ。
「リリィ。少し頼みたいことがある」
「あいつ――出来るっ!! ちょっと余裕がない……かも……!!」
リリィが応戦射撃をするも、こちらが放つ機関砲の弾幕軌道に合わせるようにして、敵シャーマンは軽快に掠り傷を負う様子もなくして、こちらに肉迫しつつある。
(こんどは射撃戦じゃなく。近接武器を用いた肉弾戦を仕掛けてくるつもりか……っ!)
取り急ぎ相手の軌道に合わせつつ後退していく。
しかし敵シャーマンは、こちらの安全な退路を遮断する為の妨害射撃を仕掛けてくる。
(避けてるつもりが相手の足並みに合わせて動きが抑えられている……何かこの子にも使える武器とか盾なんてある……のか……?)
ふと、心理的に余裕の無い自分が無意識に見た視線の先に見えたモノに焦点が合う。
「シールドと携行型戦車砲を見つけた! このシャーマンに使える武装と防御兵装だ! それを取りに行くからタイミングを合わせて腕の操作を頼む!」
「やった事の無い操作を今すぐにやれだなんて……ダメよ……」
「強引でもいいだろ。逃げているだけでは勝ち目がないんだ……!」
「もう! 知らないからね!」
「えっと、何でハッチを開けているんだ?」
いきなり搭乗ハッチを開くなり対面のシャーマンに向けて、リリィは自分が身につけているグレネードランチャーに白い弾頭を装填して構えた。
「そんなの決まってるでしょ。女の武器を使うからよ」
彼女が狙いを定めて引き金を引くと同時に弾頭が射出される。
『な、煙幕だと? ちょっと何で止まるのよ。動きなさいよこのポンコツが!』
ただの何でもない煙幕弾の妨害を受けただけなのに、相手の動きが停止している。
しかし相手はAIを搭載した戦車だ。なのに何故、こちらを探す様な素振りを目と鼻の先で見せているのかがよく分からない。
「思った通りになってよかったわー」
「というと?」
「さっきの戦いの時にね。煙幕弾を受けた時は見失ったと錯覚していなさいって催眠術をかけていたの」
この戦いが始まる前の話。つまりリリィが1人でイザベラの駆るシャーマンと戦っていた時の話だ。その戦いの中で、リリィは先を読んだ行動をとっていたという。
「なるほど。やるじゃないか!」
「うふふ……旦那様に褒められて……ちょっと疼いちゃった……」
「後で可愛いがってやるから。とりあえず拾いにいくぞ」
「うん……期待してるよ……」
隙を伺いリリィと協力し、目的としている兵装の回収にとりかかる。
「左右のナックルレバーを引いたり握りしめたりして武器とシールドを手に持つんだ」
「こう……かな……あっ、できた!」
ぶっつけ本番ではあったものの、リリィのおかげで右手に戦車砲と、左手にシールドを完全装備するシャーマンが完成した。
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