398話:対峙 機械兵器――シャーマン 3
2024/09/05 大幅な加筆修正をおこないました。
『見つけたぞ! 喰らえっ――貴様にはミサイルで爆死するのがお似合いだっ!!』
「んっまじがよっ!?」
(砲塔の中にミサイルハッチが隠されていたのは知らなかった)
一発のミサイルが飛翔する音が聞こえてくる。しかし、こちらの足並みと相手の飛ばしてきた飛翔する誘導ミサイルとの間で差があり――
『嘘だろお前っ!?』
「まっ、これくらい。いつもモンスターと相手してるし。軌道だって。こんなのドラゴン系のモンスターがやりそうな一撃だったしね」
『……お前は何者だよ?』
「ただの雇われ崩れの傭兵ハンターさ」
『まるで意味が分からない……』
そりやぁ……そうだろうな。ハンターが家業で、二毛作に裏家業の仕事をやらされているわけだしな。この仕事が終わったら絶対に辞めたい。
「とりあえず今からお前とかくれんぼさせてもうぞっ――」
あと、お前に拒否権は無いぞと言いかけた寸のところ。無言の容赦のない機銃掃射を浴びせかけられてそれをサッと避ける。
「物理的に対話拒否するなよ」
『戦いに会話など不要でしょうが』
どうやらお互いに武器で殺し合う方がお好きならしい。
『これ以上の何が必要っていうのよ』
他に安置されている仲間の戦車をなし崩しに引き倒していく光景に躍動感を感じながらも。
「ちょっ、プラモデルは大事に飾りなさいってお母さん――言っていなかったかしらぁっ!?」
『テメェのママの話なんて。どうでも良いでしょうが!』
「……あぁ、だよねぇ……」
残念な事に、自分のお気持ちは相手には伝えきれずに事は全て終わってしまった。
深くため息をつき憂鬱な気持ちになりつつも、肩に背負うロケットランチャーを構えて応戦し、着弾した弾頭の煙幕から覗く、相手戦車の装甲板に与えた傷の耐久具合を確認する。
『言ったでしょ? 何故。お前はバカみたいに無駄な弾薬を使って無敵の装甲を持つこの戦車に攻撃してくるわけ?』
「決まってるだろ。無抵抗に蹂躙されるくらいなら。男らしく腹くくって戦うのが正義じゃないか」
『その威勢の良さは評価したいわね。でも、そんな事で女の私には何も口説ける話の材料にはならないのよ!』
(口説いた覚えなんて1ミリもないですよーおねーさーん)
遥遠くのどこかから飛んでくる嫉妬の視線にゾクッとした感覚を覚えながら。
「リリィが……見てる……のか……?」
『何を意味の分からないことをまた……』
これは……きっと……ニ○ータイプっていう超常的な能力に俺が目覚めたというワケに――
『そんな宇宙的でテレパレスな感覚なんてこの世には幾万とあるでしょ』
「んんっ!?!?」
聞き覚える甘い撫でた声。間違いないこの感覚と気配は……!
『そこに居るのは誰だ……てか、いつの間に……』
「うーん。何時くらいにいたのでしょーか」
『登場してきたあんたが答えるべきでしょ……』
だめだ。まさかの飛び入り参加で現れた彼女に動揺が隠せない。
「な、なんでここにいるのっ!?」
「あいたかったよー旦那様♥」
鉄のガラクタが積み上がる頂上で、黒服スーツ姿で立つリリィがグレネード・ランチャーを肩に担いで俺を見下ろし、愛の言葉を投げキスと共に送り届けてきた。
雑然とした戦場の風景には似合わず、その愛らしいピンクの嫋やかで艶やかな長髪が横風で靡いている。
「リリィお前。育休はどうしたんだよ」
と話しかけると、彼女は戦車のがれきの山から飛び降りて自分の元へと歩み寄り――
「ダーリンが一生懸命にお仕事をしているのに。妻の私がご隠居な奥方様をしている場合じゃ無いよ」
「子供はどうしたんだ……」
「村の人達に預けてもらってる。母もなんだかんだで初孫に会えて喜んでいたし。それに父もあの子にデレデレしちゃって始末がつかないっていうの」
「あー」
初孫あるあるを人生でこんな場所で聞かされる事になるとは想いもしなかったが。
『なによ……あたしだって……上手く出会いがあったら婚期逃す事なんてしなくて……こんなふざけた汚れ仕事とおさらばが出来ていたのに……よくも……あたしの前で幸せな茶番劇を見せつけてくれたわね……っ!!』
「あぁらぁ。適齢期越えのおばさまの悪口ですかー」
『ふざけるな小娘』
「えーっ、こう見えて子持ちの人妻ですけどー。そんな事も理解出来ないから男に逃げられて残念なその、鉄の棺桶でヒステリックになってお掃除屋さんみたいな――」
「ほどほどにな……」
久しぶりに側で聴くリリィの饒舌煽り節がだらだらと続き――
『…………わるかったわよ。あたしがまともに努力なんてしなかったのがいけなかったのよ……どうせ……あたしなんて……女としての価値なんて……ないのよ……』
(ダメだこりゃ)
安定の論破で人のメンタルをへし折ってしまった。
(とりあえず……家に帰ってからの事が心配になってきたなぁ……)
女だけに係わらず、俺にもその饒舌な言葉掛けはふりかかるわけで。
「ねぇねぇ旦那様ぁ」
「あっ、はい」
「後で沢山愛して欲しいかなって♥」
「んー」
上目使いに腕組みで身を寄せ、張りのある胸を押し当てると共に上目使いなり、ころころとした口調でおねだりしてくるのが嫁の特技なので。
「とりま。あの戦車をどうにかして片付けてからどうにかしよう」
「あたしに嘘はつけないって知っているでしょ?」
彼女は人の心を読む特殊能力者だ。そして色欲の権能をもっており、彼女に絡みつかれた対象者の心は、甘い蜜に漬けられて溺れていきながら、もう後戻りの出来ない領域でメンタルが死んでいく事になって、彼女の良いなりのお人形さんになる。
「俺はお前に嘘をついている自覚なんてないよ」
「ふふ、知ってるー」
「じゃあなんで今さらになってきいてくるんだよ」
「だって……本物の旦那様なのかなって……確かめたくなっただけなのー」
彼女に指で自分の胸元にハートのマークを描かれるのを受け入れつつ、大人の表情になり平静を取り繕う。
「ふふ、じゃあ。あの鉄で出来たよく分からないガラクタを壊せばいいわよね」
「その前にやりたいことがある」
俺は身につけているポーチから工具を取り出す。
「時間を稼いで欲しい」
「どうして工具なんか取り出したの?」
「いまからあいつを倒すのに必要な作戦を始めたいんだ」
「ふむむむ」
俺はリリィに詳細なプランを簡易的に説明をする。今にも相手の戦車が再起しそうな予感がしているからだ。リリィの精神操作で言葉巧みに相手の足止めを少しだけして貰えばいい。
『もう……生きてて何が楽しいんだろうね……あはは……』
(あっ、これなんか自分でナニな事をしそうな……)
「あの中に居る人にどんな言葉責めをされたのでございます……?」
「んーっ、適当に遊んであげようかなと思って頭の中をイジってあげただけよ。私が自害しなさいって諭してあげたら。やっちゃうかもねー」
(聞いたままの鬼である)
人の頭の中をイジるにも限度があると思います。
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