383話:ハウンドウルフ作戦 5
人の更衣室に身を隠すのもいいが、傭兵達の集団戦闘能力の高さには少し気圧される。
『あれ……?』
『どうした?』
『いや……ここの更衣室に変な匂いがするっていうか……』
――銃火器の火薬の匂いに気づかれたか? いや。傭兵は常に銃を使っている職業だから匂い慣れはしてるはず……。
『んなもん決まってるだろ?』
『あぁ……またドヴィか……』
知らない人の話で何か納得がついたみたいで、2人組の迎撃兵達の足並みが遠のいてゆく。
――オッケー。匂いの件については触れないでおこう。おっさんのプライバシーには関わらないのが一番だ。
「さて、この部屋の階層も……迎撃部隊でいっぱいみたいだし。あとは上階層のルートをどうやって通過してゆくかだな……」
亜熱帯地域に生息する中型のモンスターである『カメレオス』の生態を模した迷彩服であっても、鼻息が掛かる距離までになれば存在がバレてしまう。
――直近で2メートルの距離まで接近していた。隊列を組む迎撃部隊5人組にもバレなかったし。以外とこの迷彩……出来るな……。
異世界だから出来る技術。カメレオスは地形の情報を瞬時に目で視認した後に、皮下組織へ脳信号を通じて適時に体温調節をしながら擬態形態に入るという。つまり、その場で見た地形の環境に合わせて同化ができるらしい。
そのステルスを人為的に再現するために、俺とアルシェはお互いの知識を持ち合って考案して服飾化に成功した。
――構造はシンプルに軍用的な仕様が望まれるから。カメレオスの素材を使用した戦闘服と、それにくっつけて使う専用の機械デバイスのふたつだけで機能するようになっている。
目で見た情報とデバイスが同期して、電気信号に変換された視覚情報が迷彩服に流れる事により、複写現象技術による反映がなされる仕組みだ。
あの時のプレゼンで、電気信号で迷彩服が変色すると説明すればよかったと思い出す。
「この技術を利用した迷彩服のプレゼンには苦労したんだよなぁ……これ以上のわかりやすい言葉が見つからなくてカミルさんの頭がパンクしたもんなぁ……」
愚痴をこぼしつつ仕事を再開する。
現状は強襲作戦による陽動がうまく作用しており警備の厚みがない。
『HQ こちらパトロール。現在、所属不明の強襲部隊による攻撃を受けており被害甚大! 大至急……1階大型兵器格納庫に応援を送ってくれ……あいつら全員バケモノ……だ……』
『応答せよ……だめか……』
傍受している無線からは現場で銃撃戦をする傭兵の疲労がうかがえる。
「このまま進めば傭兵施設の制圧が出来そうな気がしてきたな」
とはいえ、先輩達の持ち弾にも限りがあるわけで。
「先輩のみなさん。そちらの陽動のおかげでこちらの作戦は絶好調です」
『その調子で任務を遂行しなさい!』『姉御の言うとおりだぜ兄弟!』『さっすがカリトちゃん!! あたしが見込んだ男ね!!』
「うっす……」
個々で同時に無線が返ってくるので返事に困ったが。
「では、これで失礼します」
とだけは言っておこう。とはいえ……
「さて、目の前のボスみたいな相手に何をすればいいんだ」
事前に見ていた地図では、目的地の手前にあるとされる広い正方形状の区画について議論があったが。
ここは地上階とは別に設けられた格納庫のようだ。
その格納庫の中央に胡座を掻いて何かを座して待つ存在に視線を送る。
『ようやく、来たか。暴れ牛に紛れてコソコソと這い回るネズミよ』
「…………」
こちらの存在に気づいているようで、迷彩服の効力が無意味だと理解した。
なのでデバイスの機能をオフにして姿を露呈させる。
「ネズミじゃないな。キツネとでも言って貰いたいものだ」
『双方で小賢しい事に変わりは無い』
機会音声に生身の肉声を掛け合わせた言葉を返すそいつはサイボーグだった。
『さあ、貴様の度胸を買ってこのイゾルデが迎え撃とうではないか』
左半身に取り付けられた蛸のような機械仕掛けの触手でもう片方の半身を浮かしつつ、右手で持つP90サブマシンガンを巧みな手さばきでガンアクションしつつ己の強さを披露してくる。
――機械人間には睡眠耐性があるはず……ならこちらでとれる最善な戦い方は……。
その立ち振る舞いを前にしてライフルを構えつつ、弾倉を殺傷用に変更して戦いに望むことにした。
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