373話:引き籠もり聖竜は驚嘆する。7
今まで自分はそうした言葉の意味を持つ経験を目の当たりにしたり、実際に他人の手によって自分が差別的な危害を受けたりするような事なんてなかった。
「俺は……アルシェがどのような差別を受けたかなんて分からない……。当時の場所でアルシェが差別を受けてどう思うようになったかなんて。面白半分で聞いたりはしない」
『……賢明な考えじゃな。我も1度だけ同情心を抱いて問いただした事はあるも。奴はこう言って一蹴しよったのじゃよ』
「それは?」
ただ、ヴラドの言葉を介して聞かされるなら思うことも変わる。
――私には居場所なんてもうこの世にはないんだよ。
「それってどう言う意味で……」
『文字通りの意味じゃよ。あやつはこの世界にあった唯一無二の居場所を無くしておったのじゃよ』
――唯一無二の居場所?
「その居場所はなんて」
『教えてくれなかったの。胸の内にしまって大切にしてゆきたいと語っておったから。我もそこまでにしておいた。あやつも世のため人のためにと努力を重ね続けゆき。最後は王家の圧力に屈してしまい。幽閉の身に堕ちてしまった。我が今に話していたアルシェの言葉はな。民の反乱によって王政が瓦解した時に救われた際にの。我と出会ったときに言った言葉なんじゃよ』
となると、もう直接にあって自分で聞くしかないかと思いつつも。アルシェのプライバシーに触れるような真似は支度は無いと、考えをヴラドに示す前に頭の中でその言葉が浮かび上がったので。
「そうなら仕方が無いな。俺も嫌な過去なんていくらでもあるし」
話の中で俺は思い出話をする事にした。
――自分に嘘をついていたな。
「俺の居た世界。つまりヴラドの目で見て異世界に居たときに。俺は学生の身分を放棄して家に引きこもっていたんだ。こんなにも話せるほどに舌の回る人間じゃなかった。何も話せるような言葉なんてなくて。一緒に勉強をしていた仲間からは変な奴だと思われていたし。話してもつまらないと言われて避けられてた」
集団生活の中で生きるには『言葉を話せる人間』が支持される。
そう出来ない人間は部屋の片隅に追いやられるようになって、可愛そうで孤独な人であると演出させられて。最後は……
「陸の孤島で最後の瞬間までその場に居続けるか。望まない島での生活を終えて立ち去るか」
……逃げる事に負い目を感じながら、みんなとは背中を向けて別の道を歩むことになる。決して横から交わることの無い。終わりの無い暗い夜道を歩かずにはいられない立場の人間となってしまう。
「それが俺の異世界に転生する前に経験した引き籠もり人生が始まる前の話だ」
『…………』
話す事に夢中になって周りを見渡せていなかったが、もう少しで輸血が終わりそうなようだ。
『お主を独り者にさせた人間達は少なからずとも。お主に興味を持つようになり。自分と彼はどう違って共感できて支え合えるかと考えたことはあったじゃろう』
「…………」
『そして結論にたどり着き。お主は相容れぬ存在だと思うようになり。結果的に共感できる者同士で集まることが正しいと思うようになったのじゃよ』
「集団の中で生きることが辛かった……。分からないだろう……俺は上手く人と話せることが出来ないから嫌がられて独り寂しい思いをするようになったんだ……」
――ヴラド。お前の理屈を聞くことが出来ても。理解する事までは出来ない。
『もし、お主を導ける者が居たとすれば。少し先の未来は変わっていたかもしれんの』
――そんな都合良く居てくれるような人なんて……。
もし、そうだとすれば。俺を一番に気に掛けてくれていた『家族』だけだと思う。




