371話:引きこもり聖竜は驚嘆する。5
血の副作用は兎も角。安全な方法での治療に漕ぎ着ける事ができて良かったと思う。
ヴラドの提案を受けて、自分は部屋のベッドで横になり彼女の指示を受けつつ対話をしている所だ。
『では、そろそろ始めるかの。この輸血液の入った瓶が空になるまで施術は終わらぬ。場合によっては途中でお主は我の聖竜の力で生み出される瘴気に充てられて適合できずに蝕まれ。最悪の場合は死に至る』
「瘴気?」
『この世界には瘴気と呼ばれる概念が存在しておる。聖なる存在や邪なる存在であっても。生まれ持って備わった瘴気があり。等しく互いに相互でバランスを取りながら均衡を保っておる』
『うーん、それってつまり。俺の生まれ持って備わる瘴気が少なければさ。ヴラドのようなでっかい竜の瘴気に充てられたとして。その場合って、俺。死ぬわけだろ?』
「うむ。お主の持つ生まれながらの力量が物を言うわけじゃ」
――要するに、俺の世界で例えるなら『魔力』に値する概念に辺るわけか。
話の意図はわかった。
「それでも構わない。俺は何があっても前に進んで歩いて行くって決めてここまでたどり着いた。死ぬなんてとうの昔に忘れた事だ」
『戦うモノの目をしておるの。今のお主からは溢れんばかりの紅き炎のような瘴気が、お主の身体を流れるようにして纏っておるのが。聖竜である我の目でも見て判る』
「そうなのか? まあいい。あまり長話もよくないし。そろそろ頃合いにしておいて始めよう」
『わかった。では施術を始めるとしよう』
――意外と上手くできるものなんだな……。
最初は大げさな事をされるかと思ったのだが、ヴラドが俺の肌に触れて動かす手指の動きはプロだった。
――下手なナースだと、変な箇所に針を刺したりしてきて。痛い思いとかさせられてきたからな……。
前の世界でのトラウマが脳裏によぎる。
「あまり言えないが。熟練した腕のナースみたいな動きでよく出来るな……」
『我は聖竜じゃぞ? 死を司る竜であると同時に生命を操れる存在でもあるのじゃからな。これくらいは嗜んでおるし。安心して輸血を受けるがよい』
あいわかったと返事しておこう。
そこから暫くして古い血液と、新しい血液の循環をするための作業工程が始まった。
「俺の目には見えないが。何かの装置で血を巡らせているのか?」
『うむ、その概念はこの世には存在せぬから。端的にはお主の言っている事も間違いでは無い。我の手で動かす。お主には見えていない。我の目の前にある装置を使って。適切な加減で調整しながら難しい作業をしておる所じゃ』
「あぁ、なら邪魔したかな」
『いいや、ただ寝そべって時間を待つのも退屈じゃろ。どうじゃ。よかったらこの機会にお互いの事を話してみてはどうかの? 縁があってこのようにして交流を深めておるわけじゃし。我は後でも構わぬ。お主について何か話してみてはくれぬかの』
そういえば、俺とヴラドは互いに初対面だった。
「そうだな。俺の故郷の事でも話すか」
それは異世界に来て久しく自分の事で話をする機会でもあった。




