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352話:本物で狂気のアイ

「カリト君が口をつけてくれた。やっと結ばれた感じがする……はぁ」


 使用済みの食器であるナイフとフォークを片手に恍惚とした表情で眺める。彼女の目にはカリトの料理を食べる姿しか見えておらず。周りが忙しく働いている事さえお構いなしに自分の時間を過ごしていた。


 そんな彼女に対して誰も注意をしない。単純に忙しくて忙殺されてるから。そして彼女のその立ち振る舞いに対して。


(可愛いい……)


 艶めかしいくも目を奪われるほどに愛らしい少女の立ち姿に男も同性である女でさえも魅了されていた。とはいえこの店主である料理長は。


「ラパン。上手く行ったみたいだな」

「あ、料理長さん。……うふ。すみません顔に出ちゃってました?」


 また思い出して喜ぶラパン。その反応を見て。


「手作り料理をお客に提供したいってお前さんが言ったときは正直に驚いたよ。でも、その感じから察するに。お前さんの好きな奴に料理を振る舞ったって感じなんだろうな。出来上がった料理をみてすぐに感じた」


 と間をとり。


「恋する女のつくる料理だと俺は率直に感じたな。よっぽどお前さんが好いている男が働いている店に客として来てくれて。その期待に応えたいって思いで作ったんだなって」

「料理長……」


 彼の褒め言葉を聞いて気持ちが綻んだようだ。ラパンはその場で頬に両手を添えてこう言葉を返す。


「やだ、うれしぃです。私も彼の為に喜ぶような料理を作りたい。ハンバーグの調理は大変だったけれども。彼があの時に話してくれた料理を作りたいって願って。そして実りがついたって。美味しそうに食べてくれている姿を見ていたい。だからいつも以上に時間をかけてお仕事を頑張りました」

「気になるもんなやっぱ。自分の作る飯でどう反応してくれるかってさ。俺も若い頃からずっと永く考え続けてきた事だった。お前さんも将来はそいつと実りのある生活を送るんだろうなと思うと。料理長としてお前さんに見込みがあると感じてオーナーに雇わせて正解だったと思う」

「もー、そうやってまた口説こうとするんですからー」

「はは、いや。単純に恋する乙女の従業員の姿を見ちまって。ついつい年寄りの小言を言いに来たかっただけさ」

「ぷっ」


 当たり障りのない笑い話になり、気にして聞き耳を立てていた周りの人も釣られて笑っていた。

 彼女は笑顔を浮かべてこの雰囲気を楽しんでいた。このまま終わらない時が流れてほしいとも考えた。


 その反面。


「そろそろ食べ頃かしら? うふふ……」


 彼女はとてもお腹が空いていた。喜びに満ちた血の匂いに鼻がくすぐられて胃が疼いていく。そう体で感じながらも。


「でもやっぱり。もう少し熟した方が美味しそうかも?」


 と表面には出さずに思考の中で1人で会話を楽しんで我慢する事を選んだ。


 とはいえど彼女は思い。


「でも、やっぱり私はカリト君の血が呑みたいなぁ。だって」


 と、言葉を紡いで彼女はキヒッと口角を歪めて嗤い。


「だって、私の血を混ぜた。想いの結晶が込められた料理を口にしてくれて。それがいま。君の体の一部となっているんだから。もう」


 彼女の気持ちが爆ぜる。


「もう踊るしかないじゃないの♥」


 その後。店ではちょっとしたミニライブの催しが行われる。ラパンの目には沢山の流れ動く♥マークが浮かんでおり。


「みんなー! 私の愛を聞いて!」


 客に大きく声で想いをを伝えた。

 今さっきまでテキパキと働いていたはずの給仕が突然として壇上に登って踊り出した。その愛を込めた踊りを前にして、そこに居合わせていた客達は、最初は戸惑いを隠しきれずにいたのだが。徐々に彼女の愛らしい姿や歌声や踊りに魅了されていき、気づけば店内は熱狂的な反応を示す客で大騒ぎになり大盛況。

 さらに外からラパンのライブの話を聞きつけて、興味を持った人間達が殺到してきた事もあり通常では考えられない客数が押し寄せてパンク状態になってしまって大混乱に陥り。


――いいぞぉおお!!!!


 訪れた客全員がラパンに魅了された結果。彼女は客にとって象徴的な存在へと昇華していた。まさにここではない世界で呼ばれているアイドルという存在に彼女は見られる事になり。


「名前を教えてくれ! 俺たちは君をなんて呼べば良いのか!」


 と、ついには名前を聞かれてしまう始末にまで発展する。そう聞いてラパンは小首をかしげて顎に指をあてがう仕草をしながら考え込む。その挙動ひとつにも歓声が沸き上がるのはさておき。


「そうね。ラパンって名前で呼んでくれていいよー」


 そう、のらりくらりとした感じに。問いかけてきたファン君に言葉を返す彼女。

 そう答えられたら溜まらないのが男性ファンの心理と言うべきなのか。


「これが誰かに恋する気持ちか……。ラパン……俺はお前の事を愛するよ……」


 恋におちてしまった。


「あぁ、オーナーを押し切って雇って正解だったなみんな……」

「料理長! そんな事を言ってる場合じゃないですって! はやく盛り付けの補助の指揮と調理の主導お願いしますってば!!!!! ひぃいいいいいまた大口の注文がぁあああああああ!!!!」


 馬車馬のように仕事をする調理場内の人間達を差し置いて料理長はラパンの事を眺めていた。


 彼の中で抱いている気持ちはというと。


「病気で死んじまった娘の晴れ姿をみている気分だった」


 後に彼は酒の席でそう話をした。どこかラパンの姿を料理長は娘の面影を重ねていたのかもしれない。そんな出来事だったと回顧する。


 そして当の注目の的となっているラパンはというと、アンコールに応える形で歌と踊りを披露しファンを歓ばせた。その最中で彼女は。


「あぁ、私のお腹を満たしてくれる人間がひとり……ふたり……うふふ♥」


 自身の養分となってくれるファンを増やすことに成功し、悦びを噛みしめていた。

 愛らしいウィンクと手振りでファン達を熱狂的な信者に仕立て上げていく。彼女はその事に快楽を感じているようだ。


「魔人にならない人生以外の天職みつけたかも」


 と思いつつ。


「まっ、どうせ今こうして愉しんでいるんだしいっか」


 と、そう割り切ることにして考えが落ち着いたようだ。


次回の更新は8月23日です。よろしくお願いします。※作者が電撃文庫に応募する作品を製作中のため投稿時間が前後するかとおもいます。

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