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351話:偽装の恋愛遊戯 3

「…………」

「…………」


 なんだその。


「上手かったなあの店」

「ええ。なんであんな魔人があの店でアルバイトしているわけって思ってたけれど」


 言いたいことがよく分かる話だった。なんせ相手はヴァンパイアの魔人が居る店なわけで。もしかすると店の客は全員が何かしらのひどい目に遭っていたって思ってたのに。そう警戒して客の様子をうかがっていたが杞憂だった。


「みんな上手そうに肉料理を食べてましたね」

「ええ、私も普通においしいって思っておかわりしちゃったわ……。く、くやしいぃ!」


 初めて聞くレフィアさんの悔しいという言葉にちょっと驚く。とはいえルーノ室長の報告要請には応えないといけない。


「どう説明しましょうか……」

「料理の事に関しては報告しなくてもいい。ただの食レポになってしまうわ」

「ですよね。じゃあ、なんですか。魔人がアルバイトで料理屋で働いているって報告するんですか?」

「言いたいこと分かるわ。なんで見つけたのに仕留めなかったんだって横からヤリが飛んでくるわね。じゃあそれに対する回答ってさ」

「ええ。民間人がいる店内でそのような暴力行為を働けば我々の信用が地に堕ちると」


 ラパンが店であれこれと仕事に精を出している事はよく分かった。彼女に視線を送り続けていると。時折俺の視線に気づいて可愛くウィンクをしてサービスしてきたりと。余裕のある動きで店のホールの環境を整えていたのだった。マジのプロのウェイターだったのだ。


――お待たせカリト君。少しだけ時間に余裕があるし話そうか。


「そう話が始まって。まあ一部のラパン目当てで来た客の人たちからの視線は気になったけれど」

「大丈夫だった。声は小さくかといってなれなれしくせずにテーブル席の横に丸椅子を用意して彼女は話しに参加してきた。相当な感じの接客力をもつ人じゃないと出来ないテクよ。詳しく知りたかったらリリィに聞くと良いわ」

「また会えたらですけれどね」

「今から会ったらあの魔人が激怒するなりしてリリィの命が危ないわ」

「じゃあ言わないで欲しかったです」

「さっきの言葉は撤回するわ。今思ったら浅い発言だったしごめんさい」

「…………」


 言葉に出さないため息をつく。そして。


「で、あのときに話してたラパンの言葉。レフィアさんは信じます?」


 ラパンが言ってきた言葉。


『私はこのお店で日中は人に化けて過ごすようにしてるの。そうでもしてないと暇で暇でね。それに生きていくのにある程度はお金って必要だって分かったし。出来るならこの仕事は続けていきたいかなって思ってるの』


 自分にも生活があり、それを支えるためにも仕事をしないといけない。まるでそれはこれまでに多くの人間を犠牲にしてきた魔人の言う言葉じゃなかった。


『それに何かと不便なのって嫌でしょ? あなたもそうやって色んな仕事をして来たんじゃない? においで分かるわ。外の世界に居るモンスターの返り血であなたの体が沢山匂ってるんだもん。この力を得てから血のにおいに敏感になってね。私はそれを嗅ぎ分けることが出来るの。そうやって私は夜の街でおいしく人間を選り好みして頂いているわけ』


 敵である俺とレフィアさんを二人に前でそう話をしていた。彼女の目はどこか愉悦に満ちた感情に溢れていたのを今も覚えている。


「そしてラパンは魔人である自分に自信を持っていて。後悔はしていないと」

「彼女はどうして魔人になったのか。背後関係を洗っていかないと全容がつかめないけれど」

「ラパンが魔人になったいきさつの事ですか?」

「それもそうだけれど。魔薬を全体的に供給してる元を特定しければならないわ」

「犠牲者を増やしたままラパンの悪行を野放しにすると?」

「悔しいけれど今は元を途絶えさせてっていう考え方しかできないわね」

「そんなの……あんまりですよ……」

「いい新人」


 と俺の前に立つとレフィアさんはじっと見据えた目で見つめてきて。


「犠牲を少しでも減らしたいなら元を絶たないといけないの。私も別の仕事でそう強く学ばされる経験をしてきた。この仕事は裏で暗躍する人間達を表沙汰で好き勝手させないために活動する組織でもあるの。ルーノ室長の命令には絶対に従いなさい。私も今は現場の判断で話してるけれども。あなたの意見は全部が通るとは限らない。それは理解しなさい。いい?」


 その話に何も否定する程の反論材料は無かった。論破されてしまった。


「魔人の頭数を押さえる。抑止する。これ以上増やすことを躊躇させる。その維持は大変だけれど。結果的に被害の拡大を防ぐことにつなげることができる。コラテラルダメージ。私たちが行う作戦や活動で民間人の被害はつきものよ。どんなに頑張って魔人を倒しても。その魔人が喰らってきた人間を救えたかといえば答えは否よ」

「人を死なせてなにが」

「なにが?」


 せめて言い返したかった。でもレフィアさんは表情を変えずに語気を強めて俺の開いた口を塞いできた。


「だからこれから私たちが目にするであろう人たちを救いなさい。救えなかったと目の前で後悔するくらいなら。あなたの持つその秘密の力をフルに活用してみなさい。私からのアドバイスはこれくらいにするわ。だって」


 と間をつなげる言葉を使い。


「今日って私たち……その。恋人の間柄で接してるじゃん。だし。私だって女よ。年頃の女がデートしても罰が当たるわけないし」

「いや、俺には嫁がいるんで」

「デリカシーないわねこの頭でっかち」


 と軽い拳で頭を小突いてきた。


「じゃあ続きを楽しみましょう。偽装で作る恋人の時間を楽しむわよ」


 そう俺の手を握って前に引っ張っていくのだった。ふと。


『カリト君……やっぱり私……まん…きないよ……』


 うっすらとどこからかまた聞き覚えのある声と視線がかすかに聞こえたが。振り向くと既にそのような気配はなくなっていた。

次回の更新は8月21日の12時過ぎ頃になります。よろしくお願いします。

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