344話:夜戦ドクトリン 2
世界に居るのは俺とひとりの敵である男だけ。どちらかが勝たなければこの世界からは抜け出すことが出来ない。
「……いないな」
ロッソさんが居そうな居場所を探索しながら、訪れた場所に丁寧なクリアリングをしつつ。
「ここは手つかずみたいだし。痕跡が残らないように気をつけて回収しよう」
無人のビルには沢山の支援物資が個々に散乱しており。弾薬や銃などの武器が転がっているのが確認できる。戦うには困らないだろう。そして俺はあるモノを探していた。
「狙撃用のライフルがあるといいが」
武器や弾薬は素で野ざらしにおいてあるわけじゃない。ストレージボックスにしまわれており、その中身を目視で確認してから入り用かを判断する事になる。とりあえずここのビルの階層には目当ての武器はなさそうか。
「とりあえず遭遇戦になった時の事を考えて対応力のある銃をもっておくか」
銃にも色んな種類がある。
「コンパクトアサルトライフルにでもするか」
市街地戦で小回りが良く威力的にもバランスのとれた小型のアサルトライフルだ。今回のゲームで用意されたと思われるのは高速弾頭型の汎用弾を仕様するタイプのモノが用意されている。名前は『416C』で。Cはコンパクトやコマンドを意味してるらしい。使う分にはコレクション要素となるのであまり興味はない。
「あとは拳銃。とはいえ……ロッソさん相手に通用するのか……?」
ロッソさんは確か近接戦闘が得な戦闘員だったはず。しばらくあの人の戦いを見てなかったから物覚えが悪く。
「通用するかなんて面と向きあってやってみなっての兄弟」
「…………」
不覚をとられた。背後からロッソさんの気配と共に殺気が漂っている。
「おちたもんだな。リリィとの生活でなまっちまったのかよ?」
「おかげさまで。最近はゴタゴタがもつれてご無沙汰ですが。それまでは甘い生活が送れてよかったですよ兄さん」
「俺の前でようしゃべれるもんだ。こうやって銃を突きつけられて平然としゃべれるお前さんがよ。どの口きいてるっての」
チャキと小さく金属がかみ合って動く音が鳴り響く。撃鉄が下がった音だ。
「どうしてここだと分かったですか?」
「フィールドの規模から測定してってレフィアなら理論的に言いそうだが。残念ながら俺は育ちが悪くてな。スラムの世界に身を置いてたときからずっと自分の直感を信じてきてここまでのし上がってきたんだ」
要するにフィーリング。勘でモノをいわせて生きてきたと。さすがロッソ兄さん。それでリリィを守ってきてくれたんだ。心から感謝でいっぱいだ。
「こんな状況でかける言葉じゃなくて恐縮なのですが」
「なんだ? リリィには良い言葉で飾って死んだよあいつって伝えてやっても良いぜ?」
「そのときは本気で願います。ってそうじゃなくてですね」
改めてといった感じに会話に間をあけて。息継ぎ。
「リリィを守ってくれてありがとうございます。おかげで僕の人生に幸せの色が生まれてなんていうかその。幸せってこうだったんだって知ることができたのですから」
異世界転生してからの事はこれまでの事を振り返れば良い。それ以前の事に関しては……あまりいい生き方なんてしてこなかった。したくても出来なかったが正しいか。思い返せば長くなるので。
「とりあえずしみったれた話はここまでにしましょう。俺はハンターだ。人間であり、数多の生態を持つモンスター達と対等に。いや、それ以上を心がけて出し抜いて狩ってきたんだ。気配を悟れなかったなんて思います?」
「そうだろ実際にこうして背後に銃突きつけられてるんだからよ。てか人間と外のモンスターじゃ規格が違いすぎるだろ」
「ええ、そうですよ実際に知能的な面ではこちらが上回っていたりもしますし。ですがそれを言えるのは自然の凄惨さをしらない人間が話す言葉です」
おそらくロッソさんは自然界では生きていけないと断言できる。外のモンスターに出くわせば五分五分の生還率で生きて帰れるか。
「ああそうだぜ兄弟。俺は人間社会の世界で生きてきた。お前の知る大自然にはかてねぇよ。だからわきまえてんだよ」
――パンッ!
「調子のるなよ」
「なるほど。兄さんの本音を聞けてよかったです」
撃鉄がおちると共に響く乾いた銃声。俺は死んでなんかいない。銃弾が頬をかすめていった、ひりつく感触を痛いと思いながらも、背後に顔を向けて言葉を紡いで言葉を返した。
「これでもくらいなってのロッソさん」
「ははっ、さすがリリィが惚れて子供作った男なわけだ」
その、してやられたと笑う反応に思わずにやっとほくそ笑む。
「これが俺の自然界で学んだ戦い方です」
手に持っていたスタングレネードを地面にカランカランを転がして落とした。
「10個も使うとか馬鹿すぎだろ」
次回の更新は明日の12時すぎには間に合わせようかと思っております。どうぞよろしくお願いします。




