342話:夜に響く悲鳴
切ない。こんな気持ちにさせるなんて、なんて罪深い。あれは一体何だったんだろうか……。
「怪奇。夜のボルカノに響く女の悲鳴」
「なんだ。また変なタブロイドでも読んでのかよ」
「あ、ロッソさん。いや、その。あれからの事を思い返してて……」
もしかすると彼女がまた人を殺めてしまっているのではないかと思って。
「新人。ロッソもだけれど。あの化け物二人組が現れたことは事実として受け入れるべきよ。とくにロッソ。あんたは新人の目にした事。ちゃんとフォローしてあげなさいよ」
「いいですよレフィアさん」
カドショの店長をする合間。その日の後日になる。俺は身の安全の確保のために、いつものようにネメシスのアジトに身を置いていた。しばらくすればまた別の場所に移動する予定だ。何故かというと。
「氷漬けした旧敵がこじれた恋愛感情を抱いてストーカーになってお前を狙って捜し回ってるっていうの。マジで受けるって!」
「思い出して爆笑してる場合じゃないですよロッソさん。嫁のリリィにも迷惑かかってるんですし……」
一番の気がかりなのがリリィの事だ。ラパンの口ぶりから断片的で判断すると。
「ええ、大迷惑よ新人。あんたが確実にその魔人になる前の少女を殺さなかったが故にこのような事態に発展してしまった」
「…………」
否定出来ない。あの時は俺もまだ未熟だったし。状況というか。
「なにか言いたそうじゃない」
「はい」
俺だって1人の人間だ。生まれ持って好き好んで他人を殺したりするのをやりたいとか思ってない。
「彼女はアテナの街では世話になった級友だった。右も左も分からない俺を側で支えてくれた大切な仲間だった。今でも刃を交えた時の事のことを思い出して思い悩んでいるんですよ」
「だから? あなたが捕縛して生かしたそのお友達の女の子。現に大量殺戮を実行した凶悪犯になっちゃったのよ。そう」
と息継ぎをしたレフィアさんは、眼を細くつり上げて俺に凍てつくような視線を送り。
「化け物になって人間をゴミのように扱い。この街で生きてきた罪のない人たちの命を奪って自分たちの糧にしてる。そんなの許せるわけがないでしょ? あんた。あの魔人に気を許してるでしょ? 舐めてる?」
さらに。
「私たちはこの街で失われた命。あんたも知ってるでしょ。あいつらと出会った直後に起きた惨劇を」
レフィアさんが俺にあのときの事を思い返せと話してくる。
「…………」
俺は沈黙を貫くことしかできなかった。俺は事実を受け切れていないと思う。ラパンが魔人になってしまったという、変えることの出来ない現実からどうにも受け入れることが出来ず。
「困ってるわね。だから甘いのよ。その甘さが死に行く片道切符だったとして。それを手にしてる新人はなんなのかしら?」
「死にたくて持ってる訳じゃないですよ」
「じゃあ、いま新人が目指すべきモノはなに?」
俺の目指すべきモノ。つまり指針だ。いや、ラパンとどう面と向き合うかが正しい言葉だろうな。
「俺には家族がいる。彼女が俺に対してどんな気持ちを抱いていたとして。自分はそれでも過去と向き合わないといけないってそう思う」
「そう。それで?」
相づちとも受け取れるレフィアさんの返す言葉にのせて。
「俺は。俺は……」
少し言いづらくなったが。
「ラパンに俺が思っている想いをぶつけようと思います。たとえ結果がどうであっても。俺が彼女に伝えなければならない言葉がある限り戦います……!」
ラパンと面と向き合って戦う決意をレフィアさんに伝えた。すると冷たい態度をとっていたレフィアさんが。
「じゃあ、それが答えっていうわけなのね」
と軽く言い始めて。
「じゃあその決意が正しいと証明できるならば」
そう続けて話すなり俺の額に銃を押しつけてきて。
「私。いいえ。そこでのらりくらりと仕事をさぼってるロッソと一戦を交えなさい」
「……えっ?」
俺は無反応だ。口を開くことができない。ロッソさんが俺の代わりに答えてくれた。
彼女は俺に決闘を申し込んできた。何故かロッソさんを対戦相手に指名して。
次回の更新は明日の1時から2時の間くらいにさせて頂きます。よろしくお願いします。




