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341話:陰鬱な気分を札にのせて。

「10エナをつかって召喚。現れろ混沌の邪心ダイダロス! 召還後のリアクションはありますか?」

「うっ、それはリアクションはなしで」

「では優先してダイダロスの出たときに発動できる効果を行使します。相手はカードを3枚まで選んで墓地へ送らなければならない」

「3枚までってマジかよ!?!? ちょ、テキスト確認させてください」

「どうぞー」

「……これは強いわけだぁ。リアクションはなしで」

「では効果の解決作業お願いします」

「はい……」


 互いに面とテーブルを跨いでカードゲームに興じる。最近の陰鬱な気分を晴らそうと昼間に訪れたカードゲームショップで、俺はコテンパンに盤面をめちゃくちゃにされている最中だ。なんだよこのやばいカードは。俺の組んでるデッキに解決できる札は……ない。と内心にお気持ち表明を相手にしつつ。


「処理終わりました」

「はい。じゃあこのままプレイヤーに攻撃宣言をしたいです。リアクションあります?」

「……考えます」


 バトルシーケンスに入った。相手は宣言を抜けていたが任意で了承しておく。ダイダロスの攻撃宣言だ。このままリアクションを宣言して対応しなければ負けが確定する。うむむ……。


「手札は2枚。その様子から察するに。カリト氏に対応する事の出来るカードがないとみた。リアクションはありますか?」

「…………」


 沈黙を貫き続ける。しばし長考を挟んだ結果。


「……降伏宣言します」


 潔く俺は負けを認めた。手札にはウェポンカードと呼ばれる。召喚したモンスターを強化するために使う札しかなかった。最初の段階で初動となるモンスターカードを引けなかったのが痛手だった。対局の始まりで引くトップの5枚すべてがウェポンカードだったのがよくなかった。後手後手の流れになり終局。勿体ない。


「いやあ対戦ありがとうございましたですぞカリト氏。そちらの構築。おそらくウェポンカードを主軸にしたウェポンビートデッキといったところでしょうか?」

「ええ、その通りですアカツキさん。そちらの邪心デッキのパワーにはついていけなかったのでもう少し調整しようかなって思いましたね。学びでした」


 といった感じに対戦後のデッキに関しての一言を述べたりする。俺とアカツキ氏みたいに、ショップに設けられてる対戦ブースでは、個々の卓で談笑をしながら対戦をしている人たちで盛況しており。


「ウェポンカードを主軸にしたデッキはモンスターが召喚できないとその真価を発揮しずらい状況に陥りがちですし。かといってモンスターに重きを置くくらいならカードテーマで統一する横のつながりが強いデッキにした方がいいわけですからね……」


 と親身になって俺のデッキを良くしてみたいと提案を持ちかけてくれている。


「僕もこの構築を考えたとき。もしかすると……と思ってはいたのですが」

「ふむふむ」

「デッキからカードを数枚引くっていうカードがあるといいなぁって思ったり」

「……なるほど。それはこのカードゲームのルールを根底から覆す画期的な何か。つまるところルールを翻す効果を行使できるカードが欲しいということでしょうか?」

「ええ、そうですねアカツキさん。こういった展開を好んで使うプレイヤー。僕みたいな武器をモンスターに与えて戦わせるプレイヤーからすると欲しい類いの札だと思います」


 ふむふむと相づちを打つアカツキ氏。彼は手元にメモ帳と鉛筆を近くにたぐり寄せて書き物を始めた。


「他に必要と思われる効果テキストをもつカードは?」

「そうですね。特定のカードをデッキから手元にもってこれるカードとかどうでしょう?」

「それはまた画期的なアイデアじゃないですか! いい札が思いつきましたぞ……! 感謝感謝うふふふ」


 創作意欲がわいてきたようだ。アカツキ氏こと。TCGデザイナーであるアカツキさんは、俺とアルシェさんが思い描いたカードゲームを実現化してくれる腕利きの職人さんだ。彼をリクルートしたアルシェさんの評価はというと。


――なんか長年培ってきたフィーリング的にいいかもって思って名刺交換しちゃったらトントン。酒の席で盛り上がっちゃって社員になってくれちゃったの!


 うん、よく分からん。採用理由が酒盛りで仲良しになった。ただそれだけ。


――はぁあああっ!?!?


 当初の俺はこう、アカツキ氏の能力を分かってなくて安直な反応をアルシェさんに返してしまっていたが。今は違う。


「将来的に段階を踏んでいっていろんな種類のカードを増やしていきましょう。いきなり大盛りで用意しても新規参入者の獲得には繋がらないって思うので」

「ですねー。カリト氏の思うところ。自身も共に理解しておりますぞ。ルールが分からない。カードのプールが多すぎて選びずらくて手にとるのが難しい。こればかりは他の業界でも似たような声があがるわけですし。新規事業としては大きな収益になりつつあるのは周りをみてて実感しておりますぞ」


 うん。本当にこのお店がただの物珍しいショップで終わらなくてよかった。アルシェさんの単独での店舗経営ではなし得なかった功績を彼は現在進行形で残してくれている。ちなみにアルシェさんはオーナーとしてのポジションで落ち着いた感じだ。でないとあの人は色々とへそくり欲しさに事業を横に横にと展開している実業家の側面もあり、明らかにオーバーワークになって廃業手続きを街の役所に届ける末路しか見えてなく。


「店長さーん。グラビティレア仕様の『黒き魔姫(ブラック・プリンセス)』のシングルってあります?」


 って、俺がレジに呼ばれたので席を離れる。アカツキ氏には創作の世界に居てもらった方が良いので、タイミングを見計らって気分転換にまた寄せてもらうことに。


「ああ、そのカードはまだ卸してないから販売は来週くらいになるかな」

「あー。お客さんがそれをご所望な感じみたいでして。いいねで買いたいと」


 なるほど。潜在的に付加価値のあるコレクターの顧客が来店した感じかと推察する。レジではなくカウンターの四隅でアルバイトの女の子とやりとりをしており。


「店員さーん。どうでしょう?」


 っと、レジでそわそわと待つ件の男のお客さんが遠くから声をかけて催促してきているので。


「んー、どうしよう。取り寄せ販売はまだやってないからなー」


 お客さんと確実に取引できる取り寄せサービス。まだ実用化のめどが立っていない。そもそも新規で立ち上がったお店だ。そこまでの店舗運営については考えていなかったこともあり。


「申し訳ございません。当店舗ではまだショーケースに並べているカードしかご用意が出来てなくて」


 とお客さんに歩み寄って丁寧に説明。若干口下手なのは致し方ない。


「そうか……。あの美しくも妖艶なカード。この手に納め。我が家の家宝として額縁に飾りたかったのだが……」


 対面のお客さんは中流階層のトップクラスの方とみた。仕立てられたスーツやそれらに併せて整えられている服装は高級品ばかり。金銭的に余裕があり、コレクションに精を出すのが趣味なんだろう。今回、何かしらの縁でカードゲームのコレクションに目覚めたといったところか。


「重ね重ねお詫び申し上げます。来週くらいにはおそらくお客様のご要望とされているカードが当店に並ぶ予定となっておりますので。その時にでもお越し頂ければと。お約束は出来ませんが。そのときは精一杯にご対応させて頂きます」

「そうか……ではまた来週にでも寄せてもらうことにしよう……」

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 っと、寂しそうに店を後にしていくお客さんをお見送りしつつ。


――パックで買い当てるより、大枚をはたいてでもシングルのカードを必要と思い。それらを所有することが目的の客だったか。今後の店舗運営の参考になるな。


 おそらくこのようなお客も後発で多く来るはずだ。そして多様性のあるお店を運営できるように、今後の経営方針を固めなければならないと思った。


「まあ。店長として店に入れるのは数日くらいだし。それからは長期の夜のお仕事がある」


 昼は掛け持ちでいろんな仕事をやっている。最初の頃とは違って大きな収益を得ることができるようになってきた。もちろん、必要とあらばハンターの仕事に集中して活動もしている。こうやって気分転換に別の仕事もできるのは異世界ならではといったところだな。おかげで集会所でよくあう人たちからは『社長さん』って冗談交じりに声をかけてくれるようになった。頑張ったな俺……。


「夜のお仕事ですか? お店は22時くらいに閉めてますよ?」


 まずい。俺の独り言がアルバイトの女の子に聞こえてしまった。取り繕うように笑顔を浮かべて。


「ああ、いや。もしかすると今後の事も検討して。新しいカードパックが出たときのサプライズ営業なんてやってみようかなって思ってたりしててさ。数日間は24時まで営業しますってやろうかなっておもっててさ。あははっ……」


 って言葉を返してみると。


「おぉ、それはいい案ですね! そうしたら夜遅くまで働いているお客さんも立ち寄りやすくなって繁盛するかもっていうかんじですね!」

「おう。そうだな」


 なんかいい感じに解釈してくれたみたいだ。このまま有言実行してもよさそう

……か?

作者個人的にお盆休み突入です。※なお、更新は毎日やります。

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