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340話:その眼に映る執念

2023年8月10日 全体的な文章に加筆修正を行いました。

 会合から立ち去ったラパンはカツカツと、自身が履くヒールを回廊に鳴り響かせて歩く。永遠の魔人の影響下から及ぶことのない領域から一刻も早く逃れようとしていた。《《永遠の回廊》》を歩き終えるまで、その歩みは止まらない。


「離れなきゃ」


 自分は魔人だ。ヴァンパイア魔人と呼ばれる存在となった自分だ。この力を得てしばらくが経つ。自身の力の糧となる人間達をこの手で殺してきた。


「私のこの唇はカリト君。君だけのモノ」


 獲物に噛みつき経口で対象の血液を吸い尽くして力を得る。本来の私の魔人としての。生命と呼べるか分からない自身だけれどもお腹は空く。生きるためには吸血しなければならない。でも、


「この唇は君に触れるために。大事にとっているから」


 そっと指で撫でるように触れて彼を思う。また胸が疼いてしまう。


 カリト君と再会した直後。私は眷属を使い、目に見えない形で衛兵達を殺させた。私がそうしたように見せかけるために自分は演技をしつつ命令を下した。痕跡となる噛み傷も丁寧につけさせて念入りに。そうすることで人間達は私を恐れる。むやみやたらに殺しにくることは無いとふんで念入りに計画を立てた。


 そんな私でも恐怖を感じる対象がいる。


「ザード……あいつには逆らえない……」


 唇をかみしめる。いつになればこの回廊からでられるの? そう心で問いかけてもザードは答えない。


「まあいい。私の好きにさせてもらうから」


 とつぶやいてみたものの。


「聞こえてたかしら?」


 ザードの領域から出られたようだ。次第に目の前の景色が移り変わっていく。そして奥から回廊の壁に寄りかかる人影。魔人の陰が見えてきた。飄々として煩わしい相棒が私を待っていた。


「お疲れさんお嬢。どうだ、おっさんの様子は?」

「久しぶりに会ったけど。相変わらずってとこ」

「お得意の吟遊詩人みたいな言い回し。いけ好かねえ奴だっての」

「そういうあんたも人の事言えるわけ? あんたの話。散々耳にしてきたから断言できる。うるさいのよ」

「へいへい。俺は生まれてこの方こういったしゃべり方しかできねぇからな」

「1歳時がそんな口の開き方して。さぞ親はびっくりしたでしょうね」


 って冗談交じりにそう言い返すと。


「俺には親なんていねーっうの。お前もそうだろ?」


 と真面目に答えてきたので。


「さあ? どうだったかしら?」


 不適な笑みを浮かべてはぐらかしてやった。そんな過去の事なんて今になって思い出したってね。


――暫くそこで反省してろ。


 私はカリト君との闘いで負けた。彼の力で私は姿そのままに氷像となってしまった。意識が途切れる中で、凍てつく氷の牢の中で聞こえたその言葉。今も覚えてるよ。愛が詰まってた。


「君こそ私に対して反省すべきじゃないかな。うふふ」


 と思い出して笑っていると。


「お嬢ってさ」

「何かしら?」


 端で見ていた相棒が思ったことを話そうとしてきている。その彼に眼を細めてクスクスと一瞥する。


「あの男の事になると」

「ふむ」

「いい顔してるぜ」


 と、彼が私の事を否定すると。そう思って疑っていた自分が馬鹿らしくなり、思わず不覚をとられて笑いましたとさ。


――カリト君。君が最期に言ってくれた言葉。私、檻の中で反省してみたよ。


「今からここで話す言葉は私の独り言。いい?」

「ああ、いいぜ。お好きになっと」

「じゃあ遠慮なく……」


 と言われたらもうこの胸の高鳴りと衝動を押さえられなくなっちゃう♥


「ぁああああああカリト君好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きぃ!!!! もう君を見ていないとこの気持ちが抑えられなくなっておかしくなっちゃう♥」


 私の目の前がおかしくなっちゃった♥


「醒めないねぇ」


 なんて、隣でむかつく反応が返ってくるけれども気にはしない。目の前に居なかったはずのカリト君が会いに来てくれた。彼の手を取って小躍りをして彼にせいっぱい愛を表現していく。この気持ちが彼の心に届くことを祈り願って。


「どんな姿になってもボクの事を愛してくれる。そんな君でいてほしい。君のために頑張るよカリト君。君のすべてをボクが手にするまで」


 そう、ボクの哀を愛に形を変えてくれた君とこうして踊り続けていたい。そして。


「ボクのすべてを君に捧げたいの……。そしてそのときがボクの初体験」


 君の首筋に唇を触れて初めてを捧げちゃうっていうボクの素晴らしい計画。


「君の血はどんな味がするのかなぁ……はぁ……はぁ……♥」


 と、体中を手でなで回してると。

 

「鉄の味じゃん」

「やっぱデリカシーなくて嫌いだわあんた」


 味覚音痴の相棒に横やりを入れられて興が醒めてしまった……むかつく奴だ。とはいえ。


「さて、今日の日課も済ませたし。行くわよビリーム。狩りの時間だわ」

「仰せのままにってか。いいぜ、付き合ってやるよ」

「あ、間違っても私の隣に並ばないでちょうだい。この隣にいる事ができるのは」

「はいはいあいつの特権だろ? わぁかったっての。俺は背後で金魚の糞みてぇについていきますよっての」

「分かればいいのよ。うふふ」


 今、会いに行くよカリト君。愛してる。

 

あ、愛ってなんかすごい……。書いててそう思いました()

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