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339話:低音かつ渋い声質の魔人

2023年8月9日 ストーリーの末尾に文章を追加。

「なんとも落ち着かないものよ。人間が興じる演劇というものは」


 低音かつ渋い声質が特徴の男が、そうボルカノオペラ大劇場内に設けられたバルコニー席のソファーでゆったりとくつろぎながら独り言を語る。階下の演目には退屈さを感じる視線を送っており、暇を持て余していたのだろう。


「ボルカノオペラハウス。アテナに居たときには聞いてて憧れていたけれど。ここも彼と一緒に夜デートで行きたかった場所だった。貸し切りのお部屋でお酒を片手に良い感じのムードでオペラを観劇しながら甘い時間を過ごす。それが夢だった」

「夢とは儚い物よ。いずれ終わりを迎えたときに現実を知り。そして誰もが幸せになれない叶えられない。同じ者同士で集まったとして。自分がこの中で唯一無二の夢を叶えられたと言えないものだ」

「私は夢を叶える。カリト君がくれたこの気持ちすべて。夢の中で思い描いていただけの愛を本当の意味で教えてくれた」


 男の座る席の背後から暗闇に身を潜める様にして女こと。吸血の魔人であるラパンが音もなく姿を現すと後にそう男に語りかけた。これが意味する事は魔人同士の会合。個々での面談ともとれる話が始まろうとしていた。


「先に話してたカリトという人間。我ら魔人戦線におけるネットワークを通じてしかと把握するも。その者の存在が如何なものか朧気と聞く。かつてブラッティーが初めて出会った街での彼の言動を我に教えろ」

「かしこまりましたザード。あなたの仰せのままにお話しいたします」


 しばらくしてラパンによるザードと名乗る男の間で執り行われた情報共有は終わりを迎えた。ザードは後に手をあてがう仕草をして思考すると。


「神獣と共生する能力。アットの報告で上がったモンスターを人型にして使役する力。そしてブラッティーの見た武器を虚無から取り出す力。その者はいずれ我々を導く存在になるやもしれん」

「それって……」

「我が永遠の力がそう未来を予知してこの頭の中に刻み込んできているのだ。だが、我ら魔人戦線は将来が約束されている事に変わりはない」

「永遠の流れる世界……」

「そうだ。この世界は実に脆く儚い。故に失うのは実に惜しいのだ。世界が永遠に続く。これこそ全人類が進むべき道。永遠を司る我がそれを実現させることの出来る唯一の存在であり。ブラッティーよ。お前が望む夢も永遠にかなうことの出来る夢に昇華するのだ。手からこぼれ落ちてしまった夢。再び生まれ変わった姿でもってその手ですくい取る。そうなりたくはないか?」


 その問いかけに対しラパンは。


「……絶対にこの手にカリト君を取り戻す!」


 拳を強く握りしめて目の前に掲げて、終始ラパンに背を向けて顔を見せなかったザードの姿は、その魔人がもつ独特の紫煙を帯びたオーラによって不鮮明で判別が出来ない。

 こと永遠の魔人に対してラパンは誓いの言葉を告げる。


「あなた様から頂いたこの新しい命とこの体。全身全霊をもってお仕えさせて頂きます」


 その事に無言を通すザード。その後ろ姿を眼に残し、ラパンは暗闇に溶け込むようにしてこの場を立ち去って行った。


「愛を抱く者よ。いずれか訪れる永遠の悲哀を前にして平静を保つことができるというのか? はたして……」


 永遠の魔人の語るその言葉に心配という感情が含まれている。


「サトナカ・カリト。果たしてお前は我を殺せるのだろうか」


 オペラの演目が終演すると共に響くスタンディングオベーション。まるで永遠の魔人の言葉に合わせるかのような拍手喝采に、永遠の魔人はほくそ笑むと。


「皆の者。よくぞ集まった。この演目は実に素晴らしいものとなるだろう」


 永遠の魔人の言葉に更なる拍手が送り届けられる。



 会場に座していた観客達は皆。異形の容姿をした魔人達だった。






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