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333話:遠い記憶で綴られる昔の思い出話

――うーん。君にイマからボクの昔の思い出話を聞かせてもいいかい?


 先の話に関することなのだろう。うーむと、そう頭の中で疑問に思いながら話を聞かせてくれと答える。


――とりあえずこの話が終わったらさ。よかったら後でボクとカードゲームで遊んでくれない? 最近一人でデッキを組んで遊ぶ事くらいしかしていなくてさ。仕事にも身が入らなくて悩んでいるんだよねぇ。


 いや、仕事と遊びは別だろ。と、俺は即答する。


 アルシェが言っているカードゲームについては追々にしよう。俺が異世界に持ち込んだ数少ない遊びを紹介してみたらエラく気に入ってしまったみたいで。何でも近々にこの街に新しいおもちゃ屋を開く――つまりアルシェが100パーセント出資して建てる予定の店になるな。オーナーになって自分が考えたアイデアが詰まったカードゲームを売り出すつもりらしい。俺もちょっと趣味に困っていたから助かるので賛成している。まあ、俺の知っているカードゲームを参考にした程度のモノだけれど。


――ボクの夢は武器を使わなくても喧嘩ができる競技を流行らせることなんだぁ。決闘なんて銃で撃ち合うくらいしかないこの世界に。ボクはもう一つの選択肢を増やし、そして与えるつもりで考えているんだ。すごいでしょ?


 確かにそれは大事な事で、命を落としてまで何かを得るというのはあまりにも虚しく、そして重い。アルシェが見てきた経験上の事から推察するに。過去に何かそのような心境の変化を得るような体験があったんだろう。そう俺は思った。


 そして今宵となり。昼間の出来事を頭の中で思い出しながらも、目の前に広がるボルカノの夜景を眺めており、いつもここの時計塔で仕事をするのによく落ち合う暗部のメンバーと一緒にいる。今夜はレフィアさんだ。大体裏のお仕事をするときにはロッソさんとかがふらりと目の前に現れて誘って来ることが多い。妹のリリィとは仲良く新婚生活やってるか?――からの、『仕事だ兄弟。今日は中層地区の繁華街で派手に遊ぶぞ』と、端から見れば夜の街に遊びに行く二人組の会話にしか聞こえないやりとりで、暗号によるコミュニケーションを行う事がいつもの様式となりつつある。大方アルシェさんは俺が断れない相手を人選して仕事を振ってくるので正直に困る。ロッソさんは義兄の間柄なこともあって嫁のリリィに気を遣ってしまう。


――上手いことこき使われてたまったもんじゃない。泣けるぜ。


 って、思った。シンプルに。


 そしてレフィアさんとの久しぶりのコンビでの仕事が始まろうとしているのだが。


「レフィアさん。久しぶりで恐縮なんですけれども」

「なによ新人」

「いやもうこの仕事するのに。また新人って呼ばれても違和感しかないですよ」


 久方にみる夜景の明かりに映るレフィアさんの横顔をみて、自身の名前で呼んでほしいと願ってみるも。


「いや、あんたさ。この間にリリィと結婚して子供できたからって組織抜けてたくせに。今更また仕事がしたいからって組織に戻ってきたじゃん。それで一度リセットされたわけじゃん。どういう理屈で私にあんたの名前を呼べっていうわけ?」


 ツンケンとした感じの口調と表情にちょっと気圧される自分。まぁ、最初の時は思えば結構あれで優しかったんだな。


「あー、まぁ。その件ではいろいろと……」

「質問の答えになってない」

「いや仕方がないじゃないですか。自分だって男で」

「男だったらほぼ初対面の女でも……その……」


 自分が喋っていたのに、彼女に遮られてじっと見返す事を続ける。


「ほら、そのなんていうの……」

「なんていうのってなんです? 俺とリリィが初めて出会ったばかりなのにエセックスしたとかあれやこれやと〔自主規制〕したりして。んで、俺の大好きな息子ちゃんが出来ちゃったからその場の流れで結婚。んで新婚であまーい」

「ああああああああああああああああ聞こえなーーーーい!!!!」

「……うっさ」

「あんたが勝手にそんな事を聞かせてくるからよ! んもう、こう話してるとこっちもやりづらいじゃないの……。あたしだってもうそろそろで……」


 ちょっと羞恥を隠した言動ににやけつつ。眼がなんかアラサーっていうの……? 哀愁が見え隠れ


「大丈夫ですよレフィアさん」

「え?」

「正直。個人的にレフィアさんって美人だなって思ってますので。多分。努力すればいい人が見つかると思いますよ」


 殺しのために仕立てた黒いスーツ姿じゃなければ、彼女は赤毛ショートの艶やかな髪を下ろした美少女として街の男たちが愛を囁くために跪いて近づき、そして彼女のためにある。男たちによる花道が出来ていたはずだ。        


 目の前に立って俺を見つめている彼女の目。


 その目からは今にも人を殺したいと訴えかけてきている。


「ふぅ、まあいいわ。将来の事を見据えてもこの仕事はつづけてないと困るし。魔人になったイケメン達を救済するのが私の毎日の日課っていうの。とりあえずストレス解消にはうってつけの相手だしころそー」


 今日の魔人さん。ご愁傷様です。

 とりあえず。


 今回の夜の仕事は魔薬売買の取り締まりだ。案件が案件なわけで、普通の人には対応ができない。魔薬に染められてしまった人間――つまり魔人との死闘になる。そこで俺が所属するネメシスにおはちが回ってきたわけだ。怪人には超人をぶつけろの論。


「最近の仕事なんだけど。どれも魔薬絡みの仕事ばかりで退屈だわ」

「僕達が本格的に夜の社会に介入しだしてからはこの街の治安にも変化が起きましたから」

「それもそうね。アルシェもそれを望んでるし」


 魔薬の流通による裏社会における市場に対し。アルシェは憂慮という言葉を用いて撲滅せよと命令を下すのがいつものセオリー。


 異界から来訪した月の幻獣『ワスプ』による影響力は、言葉に表すことの難しさを感じさせられる程に、この世界に多大なる悪影響を及ぼすこととなった。魔王アルテミスの科学者としてのスキルが、さらなる悪い方向へと導かれていき。最終的にワスプとアルテミスの野望は俺とシャーリーとの共闘により打ち砕かれたものの、


「魔薬で人が魔物に変わり果ててしまうだなんて。許される分けないでしょ」

「……えぇ、そうですねレフィアさん」

「だからこの仕事は辞められないのよ。ねえ知ってる新人」

「なんですか?」

「魔薬によって汚染された人間が魔人になってしまったらどんな事をすると思う?」

「どうって。欲望のままに暴れるとかですか?」

「ひとり寂しさのあまりに仲間を増やそうとするのよ」


 また次から次へと新たな悲劇の物語が生み出されていた。間接的にワスプとアルテミスが考えていた野望は死してから叶えられていたとも考えることができる。


「仲間を増やしてどうって……」

「ええ、そうよ。個体で感じていた寂しさはやがて群を成して大きな集合体へと変化していく。その怨念ともとれるその感情が世界へと広がればどうなるか」

「この世界に人がいなくなる……」


 それはまさにこの世界における人類の破滅へと序章ともとれる。寂しさで満たされた世界なんて……いやだな……。


「だから私たちは復讐の神ネメシスの名を拝する組織の人間。悲劇の犠牲者達が復讐に赴く前に。代わりに私たちがその執行者として。この手を汚す事で彼らを救済する。アルシェが言わなくても古巣に居続けてる私がわかるんだから」

「アルシェさんは復讐を望んでいると????」

「さあね。あの人が考えていることなんて数十年を生きてきただけの私なんかには到底理解できない領域なわけね。だからこの仕事をする上で思ってるの」


 と言って肩をすくめて話し終えると、


「だからあんたもよく考えてこの仕事をやりつづけなさい。色恋にほだされてばかりいたら足下すくわれて。もう二度とあなたの好きな人に会えなくなるわよ」


 スーツに隠しもっていた二丁の回転弾倉式拳銃をそれぞれ手に取り、はにかんだ表情を浮かべて微笑んだ。

もしこの作品を『面白い』と思って頂けたり、『続きが気になる』と思って頂けたならぜひ広告下にある『☆☆☆☆☆』の所を押して頂きますようお願い申し上げます。今後の作品制作の励みになります。



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