331話:狂乱神奮の権化 ライオスオーガ 5
ここから窪地の地面までやく150メートルまでの距離がある。そこから見下ろすようにして俺は陣とっており、ライオスオーガとの狩猟においては地形的な有利を得ている状況だ。そしてああ言われてるが。ライオスオーガは怒りに身を任せて理性をなくしているようなので。こちらの存在については未発見。もといい。ルドガーが眼中にしかなくて、しかも彼女が自身と同等かそれ以下あるいは以上未満の強い存在としてライオスオーガが認識しているようで。
『ご主人。あいつルドガーの事を強者と呼んでる』
風の投げやり攻撃を波状的にしつつ俺に感情共有でそうルドガーが伝えてきている。言葉を交わさないモンスター同士なのに。なぜかルドガーとライオスオーガの間には会話が成り立っている。俺が近くにいることで何かしらの力が及んで干渉……いや、いまはその事を解明するよりも先にする仕事がある。とはいえ。
「そういえばあいつ人間っていう言葉を知ってたな」
以前にどこかで俺たちみたいなハンターと対峙した事がある個体なのだろうか?
「…………」
思考を巡らせても答えがないと意味がないな。
「ナパームアローの準備」
ナパームの鏃を取り付ける準備をする。あと5本は追加で作ろう。
「よしこれでいいな」
クラフトは簡単だ。鏃と矢の本体をねじ込んでくっつけるだけだ。こうする事で鏃がターゲットに着弾したのと同時に、反動で矢の本体が信管となり、鏃の内部にある点火スイッチにガツンと衝突する事で起爆。そして的であるモンスターに対し高熱の炎によるダメージを負わせる事ができる原理となっている。小型のモンスターだと即死するだろう。実際は大型のモンスター相手に使うことをカミルさんからは推奨してきている。
「ルドガー。いまから先の伝えていた作戦をやるぞ。俺の矢の合図と共におまえの風の力で燃焼能力を高めた炎の竜巻を生み出すんだ」
通称、火炎旋風。呼んで時のごとく、火炎を纏った竜巻である。その現象を引き起こして。事前に調査しておいたライオスオーガの弱点属性である火を使った攻撃を仕掛ける。
「まず俺が矢を撃つ。そして命中したらすぐに強力な力をもつ竜巻をライオスオーガに放つんだ。そして様子をうかがいながら俺が追加で矢を放つ」
『がう。まかせて』
準備は整った。俺は左手にもつウーサをあげてライオスオーガに向ける。ナパームアローを2本右手にとりつつ弦を引き絞る。レベルは3でいいだろう。重い鏃を使っているので空気抵抗も考慮してみるとそうなる。そして照準を狙い目に重ね合わせた後にスッと呼吸をして。
「いくぞ」
『がう! 神風の大竜巻!!!!!!』
ルドガーの体が緑に縁取られて発光する。そして彼女の頭部よりすこし前に目でも見えるくらいの白い渦が立ちこめていく。
渦は小さい。しかしそれが秒単位でその規模を大きく拡大していき。大きく吹き荒れる大竜巻へと姿を変えていった。これが彼女のいう神風の大竜巻なのか。素晴らしいじゃないか。こんなにも未知の力を駆使した芸術的にも例えることのできるその力。
「ならばこの一撃で終わらせる!!!!」
――ヒュィィィィィィン。
矢が飛翔していく音が遠のいていく。そして次の矢を同じように放つことを5度繰り返した。
――ォアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
悲鳴と猛々しい雄叫びの混じったライオスオーガの怒号が猟場全体に響き渡る。その声量に思わず耳を塞いだ。一瞬のすく身をとってしまったが気を持ち直してライオスオーガの方へと向き直る。
「……綺麗だ」
目の前でライオスオーガを焼き尽くすまで。その命を終わらせるまで巻き続ける火炎旋風の情景に思わずポツリと言葉を漏らした。まるで俺は火葬に立ち会っているかのような感覚にも感じられる光景だ。
「楽に死なせてやれるならどれだけ苦労しないだろう。おまえはこの場所全体に甚大な被害を与えてしまった。許せ。そして安らかに眠るんだ」
転生前の事を少し思い出した。野生動物が人間に襲いかかるという獣害事件。今回はこの地域のモンスターたちの命が奪われてしまう結果になってしまったで留まった。しかしこれが人里で起こった獣害事件だったらと思うと胸が痛くなる。
「命の重さを人が言葉で伝えても。モンスターにはその言葉は届かない。ハンターはその命を体で向き合ってるんだ」
『ご主人。なにを黄昏れてるんだ? この世は弱肉強食。弱気モノは死ぬ定めにある。今回のあのモンスターは弱者を狩りすぎた結果。ルドガーとご主人という強者に狩られてしまった。ただそれだけの事』
俺よりも大人びた事をいわれると思い直すところも出てきたな。
「さあ、後片付けまで炎を絶やさずにやるぞ」
ライオスオーガの生命反応もといい。感情共有の力でやつの気持ちが伝わってこない。おそらく絶命か意識をなくしたのだろう。火炎旋風の中は絶えず酸素が燃焼し続けている。言わずもながら普通には生きていられない。
俺はライオスオーガに心の中で祈りを捧げながらハンターとしての仕事を最期までやり続けた。
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