330話:狂乱神奮の権化 ライオスオーガ 4
「くそ、どうすればいいんだ……?」
『ご主人。いまはルドガーがあいつと戦うから。その間に場所を変えて狙撃をして』
緊迫したときに流ちょうな話し方ができるらしい。俺と比べて冷静さを欠いていない彼女の助言が感情共有の力で頭の中に伝えられてくる。
「……いまは相棒の指示に従うしかない。そうだ。俺はハンターだ。こんなところでやられてみっともない死に方なんてごめんだ」
大きく深呼吸を繰り返して気持ちを徐々に落ち着かせていく。あの子とリリィが帰りを待っている。いつか俺が大金を稼いで。そして大きな屋敷を建てて。そして暖かい日常を送るその時まで。俺はこの仕事を辞めるわけにはいかない。
「歯を食いしばれぇ……!!!!」
弱気な自分にけりをつける。
「ルドガー。全力でおまえの風の力でライオスオーガを苦しませるんだ!」
突風っていうのは顔で直に受けると息が詰まって呼吸ができなくなる事がある。ものすごい量の空気が鼻腔に入ってきて。肺から排出されるはずの二酸化炭素が滞留して起こる現象だ。俺はそのイメージを彼女に送りつけてみた。
『がう。でもルドガーは旋風の使い手。切り裂くことに特化してるから難しいかも』
「どうしてだ?」
こんな状況で意見をいうなといいそうになった。
『狙ってやれるような代物じゃないの。そういうのは水の使い手が得意とする狩猟なの』
「……ならおまえの得意な旋風の技で傷つけてくれ。いまから狙撃をする場所を替える」
あぁ、俺って指揮系統についてはからっきしか。こんどミステルさんに教えてもらわないといけないか。
――シュゴンッ!!!!――ガァアアアアッ!!!!
ルドガーの旋風の技の一撃とそれに対する受け答えとして吠えるライオスオーガの咆哮。ルドガーの一撃はスパイラルランスを模した風の投擲槍。それをいくつも宙に生み出しては前置きもなくしてライオスオーガにめがけて射出していくことを繰り返している。投げ技で間合いをとりながら牽制をかけつつダメージを与えていき、じわじわとその体力と命を奪っていくという戦い方だ。
『効いてるよご主人! あいつルドガーの風をうけてるけど。抵抗できないみたい!』
なるほど。それはいい攻略情報だ。なら……風となにかを組み合わせた攻撃で戦況を優位にできるか?
風と組み合わせられてかつ、その一撃を強力なモノにすることができる属性……。事前に調査をして置くべきだったと少し後悔する。
「試してみるか」
俺は矢筒から赤と黒で塗られた壺のような形状の的矢と呼ばれる鏃がついた矢を一本取り出した。
「ルドガー。タイミングを合わせてその投げ槍と俺の矢をライオスオーガに命中させるんだ」
『がう?』
俺は彼女にいまからすることを感情共有の力でイメージ映像という形で送りつけた。しばらくの間合いを経て返事がかえってくる。
『そのご主人がつかう弓矢にはとても強い火の力が込められたモノが詰まっていると』
「ああ。カミルさんの特製。名前はたしかナパームだ。ボルカノ地方で産出される原油からとれる高濃縮燃料を使った火炎矢だ。銃では再現が難しくて困っていたところを」
『うん。ご主人がもつそのウーサが武器屋の主の悩みを解決した』
「ああ、普通の銃だとそもそも火薬を発火させて銃弾を撃つからその時点で暴発して阿鼻叫喚の地獄絵図にっていってたしな……ははっ」
銃撃っただけで人が丸焼きになるだなんて。しかもその火が燃焼できるモノがなくなるまで消火できないから。通常の狩猟では場所が限られるわけで。今回はこういった岩山の目立つ草木の少ない場所だったこともあって持って行くことができた。
そしてその性能のあまりに強力なためコストが高く。数も少数に限られている。
「さあ。やるぞルドガー」
ライオスオーガ。おまえを確実に仕留める方法を見いだしたぞ。覚悟するんだな。
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