328話:狂乱神奮の権化 ライオスオーガ 2
短く感じて長い。体感的にようやくといったところか。俺たちはライオスオーガの気配と痕跡をルドガーのサポートと相まって見つけることができた。
「見るからに激おこしてんな……」
全身に際立つ赤毛の毛並みが逆立っている。四足歩行と二足での直立で猟場に広がる景色を目で見回しているのがうかがえる。気配のというか。周囲に漂う気の流れに変化があったことを察したのだろうか? 深くは掘り下げるつもりもない。なぜならいまからあいつを狩らなければならない。請け負ったこのクエストを責任をもってこなさなかったらアルシェさんにどやされるのと同時に。近隣に点在している村や集落の方たちに多大な迷惑が掛かってしまう。
「はぁ……ふぅ……緊張する……」
「臆したのかご主人よ」
「いいや。ただの武者震いだよ。あんな見るからにサイヤ人みたいなすっげぇ強そうなモンスターがそこにいるんだ。こんなやつと戦わせてもらえるだなんてそうそうないことだ」
「難しいいいまわしはともかく。武器の方はどう?」
「あぁ、この弓か?」
「うん」
弓の弦に爆裂矢をつがえる。引き具合は良好だ。若干テンションが強い方がいいとカミルさんからアドバイスされているので、その言われたとおりの重さに調節してある。使っていくうちになじんでくるそうだ。
「銃とは違って音がでない飛び道具だ。消音性の高さと威力は申し分なし。もしかするとそこらのサイレンサーのついたボルトアクションライフルよりも高性能かもな」
まぁ、弓は弧を描いて地面に突き刺さるし、若干の照準技術は求められる。ライフル弾は直進して加工した後に地面に落ちるので、そこらで差別化されているな。
「じゃあ早速だ。俺の弓があのモンスターに命中して、その後に鏃が爆発した時が合図だ。全力疾走でルドガーはモンスターの姿になって暴れるんだ」
「おぉー、久しぶりの狩り! わくわく!」
目をキラキラと輝かせてうれしそうだ。そうだよな。本来の姿はモンスターなんだから。やっぱ……人間の姿でいるとストレスを感じてしまうのかな……? あとで聞いてみる事にしよう。
「いくぞルドガー。さん、にぃ、いち」
こちらに気づいていないライオスオーガに弓をあげて弦を引き。目を細くして狙いを定める。爆裂矢はその特性上。地面に着地しても半径1メートルに標的がいれば十分な殺傷能力がある。なんならその狙う標的の足下にある地面。様々な形をした石や砂利があるので、それが爆裂矢の衝撃で飛散することで立派な武器へと変化する。手榴弾と同じギミックだ。一応念のためにその手榴弾も10個ほど腰元のポーチにしまい込んでつめているので、緊急時はそれを使って応戦することも考えている。
そう頭の中で次のプランを練りながら、目の前で矢を解き放った。
――チュドンッ!!!!
『がぁあぁぁっ!?!?!?』
突然音もなく自分の右足元で破裂する音と共に爆発が起こったかと思えば、耐えがたいビリビリとした激痛が脳まで全身に駆け巡るように襲いかかり、理解ができずにパニック状態に陥る。そのライオスオーガの様子をみるに理解。
「あいつ。痛み慣れしてないな」
普段は自分より弱いやつらをターゲットにして狩りをするなり縄張り争いをしてきたんだな。そうなると格上とは戦わずに今日までを生きてきたとすればあり得るはなしだ。俺なんか散々痛い思いをしてきたんだ。
「なら。一方的にやられる痛さと怖さを教えてやろうか!」
と、まあ相手にこちら側の台詞を言い聞かせても。俺は容赦なく断続的に爆裂矢を弓につがえては放っての繰り返しをやりながらの話なので。何言ってもわからんと思う。
一方、俺がうちはなった弓の一矢でかけだしていったルドガーは。
「竜巻旋風拳!!!!」
己の拳と拳を使い、風の力を駆使した魔球弾を打ち放つことをしている。うん、申し訳ないがどっかの格ゲーみたいな必殺技をいわなくてもいいよ。俺が教えたのがまずかったかもしれない。でもキラキラと目を輝かせてやっちゃっているので。その心意気に免じてよしとしたいな……。
「俺も負けずに遠くからサポートをせねばな」
猟犬の援護を全力でするのもハンターの仕事のうちだ。ライオスオーガの状態をよくみる。
「うーん。ただの榴弾系の爆裂矢だといまいちか」
最初は痛かった。でももうその痛みはなれた。アドレナリンでどうにでもなると。ライオスオーガの心境を感情共有で感じ取り。そして狙うターゲットは目の前で奇妙な行動をとるメスの人間だと。
「ルドガー。取り急ぎモンスターの姿になって戦うんだ。いまおまえをタゲってるぞ」
柔軟に対応してこその戦いだ。
「がう。わかった!」
その言葉と共に彼女は空に向かって跳躍して宙で目にも見えぬ早さでモンスターの姿へと変身した。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ライオスオーガは突如目の前で人間がモンスターになったのを見て驚いたようだ。一瞬のたじろぎの後に間合いを開けて対峙する構えをとっている。
「いまは横やりを入れないほうがいいか」
矢を命中させて相手の集中を乱してこちらにタゲが移ってしまえば面倒だ。あいてが動きを鈍らせているほうが好都合。その隙に俺は狙撃位置を探すために移動を始めた。
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