327話:魔獣教団の思惑。
――さて、諸君。今回の作戦。実に見事な働きだった。これで我々魔獣教団が目指す救いの道への一歩が開かれたわけだ。とはいえ、これはあくまで細やかながらではあるが、自身を愚かにもモンスターテイマーと自称する不届き者に対する宣戦布告状。人心掌握術を用いて間接的にやつの動きを阻害する工作を実施したまでだ。相手は何も気づいていないと報告も上がっている。やつは気づくことなく、ただただ竜人族の女が仕掛けた罠だと思い込んでいると。そして竜人族の女の方も我々が動いている事も察知してはないというわけだな?
「はい。これで我々潜伏者も水面下で動きやすくなるでしょう」
降りしきる火山灰の混じった雨空の元。黒ずくめの女が、歓楽街の裏路地の片隅にてなにやら黒くて奇っ怪な形をした手鏡を用いり、光る鏡の中にいる人物と話をしている。この出来事は狩人がライオスオーガをルドガーと共に討伐している最中に起きている光景だ。神の私はただそのやりとりを異界の術を用いて眺めている。
――うむ。してだ。そのおまえが報告にあげた武器はどこに保管されている?
「ご安心くださいマイバッハ――」
マイバッハ。なんだその意味のない呼び名は……? そう思いながら備え付けのテーブルに置いておいたポテチの袋の封をあけてボリボリと中身を食す。うん。冷たいミカンの果実水がとても美味だ。
「――可能であれば手配をしてと考えておりますのでご安心くださいマイバッハ」
――楽しみだ。あのモンスターテイマーがもつ叡智でもって生み出された。伝説級にも匹敵するであろう武具の数々を我らが掌握することができるとは。それが何においても代えがたい。ゆく将来においても必要となる。福烙の儀を完遂するにも必要となるものだ。くれぐれもあの竜人族の女には感づかれるな。
「はい。あの者は隠者ながら。この街では陰の支配者として名の知れた者ですので。裏社会では『名を明かしてはいけない隠者』とも呼ばれておりますし。……あまりやりたくもない相手です。それがモンスターテイマーと自称する青年を手中に収めて。いえ、配下にしているようですし」
――ネメシスか。復讐の女神の名を拝する秘密組織。ふん。所詮は落ちこぼれどもの受け皿に過ぎない最期の居場所。我々魔獣教団の敵ではない。
「殺人。汚職。不幸な死別と底が見えない下り坂の人生。名前も記憶も忘れてしまった青年が所属するには適した居場所でしょう」
――ふっ。それにしてもだ。その青年。もしかすると我々がうまく手込めにしてしまえば大きな戦力になると他の幹部連中が声を上げておる。
「やめといた方がよろしいかと具申いたします。自身をモンスターテイマーと自称する頭のおかしな人間を教団で迎えるのにはリスクが大きいですよ」
その頭のおかしな人間にその力を授けたのは私じゃぞ? うん、チーカマうまい。まぁ、与えた力のうちの1割しか使えておらんようだし。ちょっと損な気分がするの。神様の苦労をこやつらに説いてやりたいものだ。
――しかしだな……。私としても立場の関係上。ある程度の意見は言えるが。他の連中。何を馬鹿な事をいいだすか。その青年は神の生まれ変わりだと申して戯れ言を話し出しておるのだ。実に嘆かわしい。
「……心中お察しいたします」
察するも。この私の神力であれこれしたからの。じゃが、あやつは神ではない。姿そのままで生まれ変わりを体験した一人間にすぎんからの。
「ではそろそろ表の仕事に戻らないといけませんのでこれにて定時連絡は終了とさせてもらいます」
――ああ、では神のご加護を。
「神のご加護をこの身に。そして陰と共に」
そう奇妙な祈りの言葉を言ってその女は交信を終え、表通りの方へと進み歩き。その姿をさらさないように人混みへと紛れていき、風景の一部へと溶け込んでいってしまった。
「んー、まあ。ちょっとした面白そうな映画が見れそうじゃの。あ、ポップコーン用意しておかないとな」
神様も人の子のように退屈しているのじゃ。……いや。退屈は後になりそうじゃの。
「ぁあーなんでこんな時に仕事が入るのよもう!!!!」
どうやら新たな転生を渇望する者が私の元に迷い込んできてしまったようじゃ……面倒いのぉ……。
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