326話:狂乱神奮の権化 ライオスオーガ
ものの数分くらいにかな。迅速な動きでもって、ライオスオーガを狩るためにエリアの道中を走っていたのだが。突然のーーガァ! という虎の吠える声を後ろから頭上にかけて耳にし、別のモンスターによる不意打ちかと刹那の瞬間に悟り、咄嗟の対応で身を翻すと共に地面に身を伏せて背中を守りつつナイフで応戦する態勢を取りながら仰向けに構えをとった。
ーーカリト。もしもの時に背後から襲われ、その時にしてはいけない事はな。背中から襲ってきた敵に背中を取らせることだ。首を掻っ切られて死ぬぞ。
「ロッソさん。まさかここでネメシスで教えてくれた教訓が活かされるとは思いませんでしたよっ‼︎ って、くそっ――」
相手は誰だ! 俺を背後から音や気配もなく押し倒してくるとは。ナイフの先で刺突して返り討ちにしてやる!!!! 来いよ!!!! これでも俺はネメシスでは下っ端だけど暗殺者なんだよ!!!!
自覚はしたくはなかった。わかってる。生きるか死ぬかの瀬戸際に思ってもいいと思うんだ。だってそれが生きてる証なんだ。と、俺を襲ってきたモンスターに対しては何の意味もない。
最初は人かと思った。だがその目に焼き付けた襲撃者の姿を見て俺はスンとした感情が冷めて引くのを感じると共に、俺を四つん這いで押し倒してきたそいつに話しかけみることに。
「ねぇ、何で置いてけぼりなの?」
「…………」
俺を背後から急襲した犯人はルドガーだった。今は姿を変えて人間でいる。寝癖のひどい白髪を手で解し直してやろうと手を差し伸べると。
「……寝てたんじゃないのかよルドガー」
「………ぐぅ、そうやってご機嫌取りするんだご主人は。ほかの雌にもそうやって色目使って機嫌を直そうとするのか」
「状況的に突拍子もないな」
だれかこいつに余計な言葉を教え込んだのか……?
「ちーがーう。おめえの顔立ちがいいからさ。こうやって整えてやらないと格好がつかないだろ?」
それに風の噂でなんかしらんが。図書館のアイドルがボルカノ市立大図書館に爆誕したとかって聞いてて。ちょっと考えたらあぁ。ルドガーが言葉を覚え始めだしたのと、その噂が流れ始めたのもその時期が同時に合致してるわけで。要するに飼い主の俺。もといい仲間のリーダーという立場上。適当な格好をさせて外を歩かせるわけにはいかない。クランの体面を保つためにもだ。
ここ最近は、待ちでは今時に流行っている町娘の格好をさせている。普通の緑の動きやすいドレス姿に、白とピンクのリボンのデザインが施されている帽子とか。あまりこだわらず、かといって素っ気なくはない普通に町の人たちに溶け込めるようなファッションを心がけている。
とはいえ……普段の狩り。つまりこの場合だと……彼女はもっぱら野生の頃に過ごしてた姿がお好みなようで……。
「がう。マチだとあんなブカブカするものを着させるのはいかがなものかの」
「覚え切れてない言葉で話されてもわからん。ようはあれか。いまはスッポンポンで開放感があってすっきりするのーってか?」
下も上も隠してない姿で不平不満をいいたいようだ。いや、あなた外の野生の生活だったら法もへったくれもないだろうけれどね。てかこいつ自分の体毛で衣服を擬態生成できるのに何でしないんだよ……。ここしばらくはそんな事をルドガーは続けており、もはや人間と同じように習慣的に衣服を着替える事をつづけている。
「そんなに俺のプレゼントする衣服がお好みじゃなかったのか?」
「ううん。いい。あれはあれで新鮮。自分の知らない服がこの世にはたくさんあふれていて楽しい」
「じゃあなんでいまは裸なんだよ」
と聞いてみたら。彼女はちょっと口をとがらせて指同士でツンツンとぶつけ合う仕草をしつつ恥ずかしそうに。
「寝坊しちゃったからそのままの勢いで追いかけてきたの……ぶぃ」
ピースサインでブイっていわない。つまり彼女が俺の背後から押し倒してきたのはこうだ。
単に寝坊して、自分がいまモンスターの姿じゃない事に気づかずに、冷静さを欠いて慌てて服も着ずにやってきたと……。馬鹿じゃん。そう直感的に思いながら反面に感じてたのは。
「カミルさんに専用のインナーを仕立ててもらわないといけないかぁ……?」
寝坊するのはともかく。このこは寝ることが好きだ。自然とモンスターから人間や人間からモンスターに寝ている間にシフトチェンジする事だってある。そこは配慮してやらないと。もしこれが狩場じゃなくて町中だったらどうする?
「絶対に俺が悪者じゃないか……あぁ……」
「がう……?」
首をかしげて無邪気に微笑んでくる彼女の顔を穢すわけにはいかない。
「とりあえず服を生成して擬態するんだ」
「わかった」
ちょっと寂しそうな顔をして彼女はその場で自分の力を使って狩猟用の衣服を身にまとった。
「これなら全然いけるな」
「メスとして見てくれてるの?」
「それはない」
「えー」
彼女の纏う狩猟用の衣服のシルエットがボディーラインにぴっちりとした、ちょっとエッチなスーツなのをみての感想と共に冗談はさておき。取り急ぎライオスオーガを仕留めなければいけない。時間が過ぎた。すでにやつは罠からは自力で脱しているはずだ。俺の見立てだと周囲にいる仕掛け人を探して半狂乱になって手当たり次第にものを壊してはの繰り返しで破壊の限りを尽くしているはずだ。
――――コノオレサマニ ドロヲヌリヤガッタ!!!! ドコノドイツダァッ!!!!
こんな子供だましのイタズラで俺の顔を血まみれにしやがったなっていいたいらしい。あんな罠にかかったのがいけないんだよ。それこそ子供だよ。
「串刺しの落とし穴はさぞ痛かっただろうなははっ」
「聞こえるのあいつのこえが?」
「ああ。とてもお気に召したようだぜ」
嘲笑というべきだろう。思い通りに事が進んだからな。
「ただの落とし穴だと思っているあたり。あいつも深く見ればただの脳筋か」
「頭を使わない筋肉馬鹿ってことだね?」
「ああ。あいつはあの仕掛けがただの落とし穴だと思っているようだ。ハンターの俺がただの落とし穴を掘ったりはしない。引っかかればどうなるのかを体で知ってもらおうかな」
「ご主人は悪いやつの顔をしてる」
「ふふ、そうか?」
これでも普通に笑っているんだよ。強いと言われているモンスターを罠で仕留めるのに楽しみを見出してもいいんじゃない?
「さあて。いくぞ」
「がう」
ウーサに貫徹爆裂《HEAT》矢をつがえ隣接する次のエリアへ。ライオスオーガが破壊行動を繰り返す猟場に向かった。
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