314話:家族の話
お待たせしました! 新章突入です。よろしくお願いします!
――先の出来事から数か月後。世界季節は温暖期に入る。
「では行ってきますね。あなた」
両腕に抱える我が子を大事そうに、白の明るいバケットハットにオレンジのワンピース姿のリリィがニコッと微笑んで出かけるとあいさつをした。行先は彼女の両親がいる少し離れた場所の村落だ。彼女は以前とは違い、少し大人びた、落ち着いたしゃべり方をしている。若さっていうと俺が年下なんだけどな。とはいえ。
「以前みたいに俺の名前で呼んでくれてもいいんだぞ?」
「うふふ。一児の母の私がそんな若者の言葉を使い続けるわけにはいきませんよ。いずれこの子が自分の目で見て学ぶときに。私が汚い言葉を使っていたらこの子は不幸な思いをすることになるわ」
俺なんかと比べて彼女はもうひとりの母親になっていた。そばにいて気づけなかった自分が恥ずかしく思う……。とはいえ。
「道中気をつけてな。体にはくれぐれも気を付けてな……」
「なに少し泣きそうになってるのよまったく。今生の別れじゃないんだし」
二人が遠いところに行ってしまうと思うと胸がキュッと締め付けられる思いがする。思わず服を片手で掴んで握りしめてしまうほどにだ……。
「じゃあ行ってくるね」
「奥様。ささこちらの方へお越しくださいませ」
最近になって共にするようになったヘルパーのおじさん。初老の男性で。彼女にはとても親身になって尽くしてくれている。この異世界では産後の女性に対してこのように年老いたヘルパーが付き添って支援をしてくれる制度が王国を中心に福利厚生の一環で設けられており、彼は俺たちの執事のようなかただ。もともとはどこかの貴族の住む館で執事の仕事をしていたらしいが。その主が不幸にあっていなくなり、職を求めて転々と就職先を探していたところ、この仕事に巡り合い。こうして助けてくれている。ハンターである俺が忙しい身になり始めて、彼女のことを思って心配になり、俺と彼は利害が一致してといったところだ。
そして彼女はヘルパーのおじさん。ヤモリさんが操る竜車に乗せられて出発した。ゆっくりと進んでいく。その後姿を名残惜しく思いながら手を挙げて振り見送った。
「あーあーリリィとちびっ子行っちまったな」
「ちびっ子ってな。明人って名前があるんだよ」
「アキトってか。ご主人の言うイセカイで明るい人っていう意味のある名前だっけ。よくわかんねぇや」
頭の後ろで手を組んで退屈そうに喋りかけてくるサンデーに思わず、頬を指で掻くしぐさをしてしまう。
サンデーには信頼を寄せており、俺が異世界人であることをカミングアウトしている。話のしやすさを優先して。まず彼女から理解をと思ってだ。まぁ、多くは話さないでおく。その方がいいこともあるからと思ってのことだ。別にこの世界で異世界技術でなんかする生活なんてするつもりなんてさらさら……まぁ、オリジナルの銃を作ってもらったくらいは罰が当たらないはずだ。
――それに。
「いいんだよ。俺とリリィで考えて名付けた名前だ。将来はきっと立派な俺の跡取りとして頑張ってくれるだろう」
「まるでハンター業インタイみたいな話し方だな」
「後何年ハンターでいられるんだろうな……って言ってられる年じゃねぇよ。これから育ち盛りの息子に食わせる飯代を沢山稼がないといけないんだからさ」
今後の事を思うと。あの子には普通の人として平和に生活して欲しい思いがある。なら今の生活環境ではだめだ。幼少期からモンスター牧場で育ちましたっていうのは都会では話が通じないかもしれないからだ。仕方がない。ここは異世界だ。元の世界のようにそのような倫理観のない人が大半を占めている世の中だ。ならそこにどう適応させていくかは俺とリリィにかかってくるわけで。
「でっけぇ屋敷をさ現金一括で買えるくらいにはならないとなって思うんだ」
「ふーん。お前も子供をもつオスになろうとしてるんだな」
「オスって。まあ男だからそうなるか」
「んでどうやってその屋敷っていうのを買うんだ? 獲物をたんまりと狩ってお金を稼ぐのか?」
「そうだな……。昨今の狩猟環境をおさらいして情報を集めないとな。もしかするといい金になるような狩猟依頼があるかもしれないし」
「まーた難しい本がある場所にいくのか? だったらサビと一緒にいくか言葉のキョーシツ中のルドガーを連れていけよー」
「私は勉強きらいなのでいやですって言っているようなもんだなそれ」
「うっせ。んで、ご主人のさ銃の事なんだけれど」
「…………」
まーたその話かよって昔はそう言えたかもしれない。だが今となっては話が違うわけで……。
「ギルドに指定禁止武器にあたるって言われて摘発受けてアルシェにぼっしゅーとされたんだろ。どうするんだよ。これじゃあご主人の手で狩は出来ないし。まぁ、私たちが前に立ってボッコボコにしてるからセーケーはできてるけれど」
アルシェが憎い。クヤジイィ!!!! あの気まぐれババめぇ……!!!! 最近俺より周りにいるヒロインが目立っているから、俺の唯一のアイデンティティであり異世界の特権的武器を使って無双してたのに。乱獲し過ぎる恐れのある。狩猟環境を乱す恐れのある武器なので禁止に指定します。開けろボルカノ市警だ!!――って楽しそうにドアバンをするアルシェに警察の真似事をされて没収……はぁ……思い出しただけで怒りが込み上げてきた。
……細かい事のいきさつは追々にしておこう。今はお供縛りで狩猟生活なうなわけだ。周りから美女を顎で使っているクソ野郎だと同業者の先輩や後輩や同世代のやつらに絶賛罵られています。ハーレムでちやほやと楽にしやがってって……うぅ…なにそれ知らないよ……こいつら美女じゃなくてモンスターたちです誤解なんですって大っぴらに言えるはずもなくただただ日々を耐え忍ぶ毎日を送り続けている。てかそう言ったらお前頭おかしくなっちまったのか?ってなるし言えない。
「おーいご主人。また一人で頭の中で考え事してるのかー」
「あ……すまん。とりあえず腹減ったし集会所の食堂で飯でも食いに行くか。今だったらサビが給仕のバイトをしているだろうしな」
「うしし、冷やかしにいくか……!」
ということで次の目的は腹ごしらえをすることになった。
お待たせいたしました。新章に突入です。とりあえず今回からは路線を変更して裏仕事はまったくノータッチ。作品のタイトルにある異世界ハンターで狩猟生活のお題目通りにやっていこうと思います。←なんで今までまともに主人公がハンターの仕事をしているところを書かなかったんだろうと後悔の念がこもっております。
チート武器である主人公のアイデンティティがとあるいきさつにより(ギルドから摘発を受けた)、それが災いして狩人は仲間のモンスターたちを使って狩猟をする羽目になったところから物語は始まります。かき回し役のアルシェは今日も楽しそうに狩人達を荒らしてご満悦。なにかの目的があってのことだ。うんそうだきっとね。もしかすると主人公はいずれ魔物使いのハンターに転身……????
次回の更新は7月25日です。どうぞよろしくお願いいたします。




