313話:二兎を追うも得られるものはない
「はぁ……。まじかよ」
地下格納庫に入る入り口のスライドドアを解錠して中に入るなり、俺は目で見た目の前の光景に対して大きく嘆息していた。もぬけの殻だ。何もない。なんで?
「アルシェ。地下格納庫に到着した。何もない。敵も。お前が言っていた二足歩行の巨大兵器とやらもな」
――なんだって? 一体それはどういうことだい? 情報に間違いはないはずだ。
どうやらアルシェの口ぶりからするに頭の中でぐるぐるといろいろな考えが巡りすぎて混乱しているようだ。初めて聞くしゃべり方だ。どんな表情をして語っているのだろうか。
ともかく。銃口を前に構えて周囲にまわしつつ、あたりの警戒をしながら中央へと移動していくと。
「……どうやら敵さんは俺たちのことをわかってたんじゃないのか?」
――それはどういうことだい? 君がテロリスト達に覚られるようなことをしてなければこんなことにはなってはいないはずだ。それ以外になにがあるっていうんだい?
「タバコだ」
――タバコ?
「地面に紙タバコの吸い殻が落ちてあるのを拾った。いま手にとって確かめてる」
吸っていた人物を特定するのは簡単だ。男か女かなんてハンターをやっている俺には簡単なことだ。
「この吸い殻の性別は男だ。唇で強く締め付けるようにフィルターの部分を加えてる。女だったら口紅の跡がしっかり残るからすぐにわかりやすい。それと銘柄のモリスはボルカノの特産品タバコで知られてる。量産品とは違って専門店で取り扱われている品物だ。値段も20ダラーからだ。客の注文に応じて職人が手作業で20本入りのケースで売ってくれるんだ」
――君。未成年だよね? この王国で10代の喫煙は禁固刑に該当する違反行為だよ?
「知り合いのハンターのおっさんが腕利きでそれなりに儲けてるんだ。武器も全部しかりで徹底して職人に作らせてるんだ。既成の量産品は信用できない人がいっていたんだよ」
――なるほど。それで聞きかじったことをボクに開設してくれたんだね。じつに勉強になったよ。隠居の身なボクには実にありがたい話だ。
「だったらなによりだ」
――知ってたけどね。
馬鹿にしてるのかこいつ?
――ともかく。これで僕たちは二兎を追うも何も得られることはなかった。テロリストも巨大兵器もね。とりあえず任務は終了したことによう。そこを脱出して無事に本部に帰還するように。あとのことはロッソか他の暇そうなのにまかせるよ。君は普段の生活に戻ってくれるといい。
「リリィはどこにいる?」
それを聞かなければこの任務は終われない。
――それなら安心したまえ。つい先ほど君の大切なモンスター達と一緒にクエストから無事に帰ってきたと、ギルドの方から連絡があったよ。騙してごめんね。君。そうでもしないと動いてくれないってわかってたから。
「…………。嘘ついてまでこの仕事をやらせたかったのか?」
そんなの俺のことを最初から信用はしていないと同じじゃないか。なら何故この任務をやらせたんだ? さらに、
――それともうひとつ君に謝らなければならないことがあるんだ。
といって彼女は申し訳なさそうにいいつつ、
――この任務。いや。この作戦はすべて演習だったんだよ。ロビアなんとかの秘密兵器や、魔獣教団。まぁ、後者は実在するテロリスト教団なんだけれど。そう、これは君のネメシスにおける作戦遂行能力を確認する為の仮想訓練ーーVR訓練だったんだよ! バカンスで訛ったかもしれない君のカンを取り戻してもらうために。王国の軍部特殊部隊との全面協力でバックアップを受けて行われていた訓練だったのさ! 君のみたものすべてはデジタルに巧妙に作られた仮想の出来事でそれぞれが役割を行って演じてきた現実だったのさ。どうだい緊張したでしょ? 君が言っていたなんかちょっと伝説の傭兵っぽく役割が演じられたよね?
とまくしたてながらオタクモード全開でペラペラペラペラとしゃべりだしたので思わず!!
「ふざけるな!」
ぴしゃりと怒ってやった。
箸休めといったところでしょうか。気分転換にと思って書いてみた短いストーリーです。次の章に移るのにちょっと困っていたのでオチを作りたかったのです。結局のところ詰まってしまって最後の更新からかなりの間をあけてしまい。読者の皆様にはご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。体調の方はぼちぼちです。ちゃんと小説が書けなくてノイローゼ状態だったのがとてもつらかったのを覚えております。
さて、次回の更新は7月22日に設定させていただきます。ちょっとずつでも毎日更新をできるようにここで書き溜めていこうと思います。




