231話:逸脱した行為
フロント企業の社長が搭乗したサンダーボルトを撃破したその日の夕方。俺は蒸気竜列車の客室で揺られながら座りつつボーッと窓の景色を眺めていた。隣では自分に身を寄せるようにしてラパンがスヤスヤと眠っている。
――仕方が無いよ。あの場でカリト君が戦っていなければ五体満足に生きて帰れなかったんだよ? なのにどうして貴方はそこまでして自分を責め続けているの?
「命のやりとりには責任があるんだよ……」
異世界転生してから命の大切さについて多くの事を学んできた。これからもまだまだ自分の知らない命の大切さのあり方について直面していくんだろう。
――実はね私。幼い時に私を産んでくれたお父さんとお母さんを目の前で亡くしちゃったの。押し入り強盗だった。それもお金持ちの偉い博士階級の息子達の道楽。あの人達の顔を今になってもしっかり覚えている。必ず私がこの手でお父さんとお母さんを殺した犯人達をこの手で粛清するって。それがネメシスに加入した私の理由よ。そして分かってるの自分のこの天賦の才について。
「彼女は生れ持って幸運の少女だった……か……」
押し入り強盗に殺されずに済んだのは彼女の生れ持ってのチートによる能力だと。そしてラパンは自分の幸運のチート能力に関して。
――きっとカリト君を殺してしまう。だって私って生れ持って運の良い女だけど。私の周りで優しくしてくれている人達はみんな不幸になって目の前で死んじゃうの。
「育ての親父さんとお袋さんには何も不幸な事は起きてはいないと思うんだけどな……」
――今のパパとママはね。孤児だった私を心から救って育てたいと思ってくれたから不幸な目にはあってはいないの。むしろ私と出会ってからもの凄く幸運に恵まれているの。
ラパンの育ての親は元々貧乏で名実ともに名の無い学者夫婦だった。夫婦には子供が出来ず。子作りを諦めてラパンと養子縁組になった。
――パパとママにはね。私と一緒になると不幸になって死んじゃうよ? って聞いてみたの。そしたらパパとママは大笑いして。
『今が幸せならそれでいいよ。死ぬ事は人間に与えられた等しい幸運なんだから』
――私ね。その言葉を聞いてからパパとママと色々とお話をしてこの人達なら大丈夫かもって思ったの。
そしてラパンはその夫婦と養子の関係になった。そして今に至るわけで。
「ラパン。周りはお前が不幸を振りまくって言っているけれど。俺は今こうして生きていられている。お前がいなければ俺はこの街では生きていられなかった」
眠る彼女に俺はこっそりと。
「ありがとうな。俺の為にこんなに尽くしてくれて」
そして彼女が想いを寄せてきている事には。
「俺が一途で悪いな。どう考えてもお前の事を恋愛対象としては見れない。どちらかというと戦友と言うべきだろうな」
恋では無くネメシスの為に戦う友としてお前を見ていると意味を込めて伝えた。
「俺が矛盾した事をしているのは分かっている。分かっているさ……。でもなこれだけは言い訳させてほしい」
「よぉ、そこの仲良しカップルのお二人さん。俺達と楽しい事でもして遊ばない?」
俺達の座る席の前に現れた黒いスーツ姿の若いチャラ男集団を見ながら。
「時には誰かが矛盾した行動をとらないと世界は回らない時もあるんだって言うことだよ。それが人間なんだ」
「あぁ?」
「こっちの話しだ」
「あっそ。まあぁ、とりあえずこんな場所で話すのもアレだろうし。俺達についてこいや。あっ、ちなみにこの列車はイカロスグループの提供する公共交通機関だから。おまわりさーんって呼んでも意味ないぜ。あ、ついでにこの列車は俺達が急遽貸し切りにしたから誰も一般市民は乗り込んだりはしてこないから」
完全な人払いを済ませている。用意周到というよりも巨大な権力を使って全て準備をスマートに済ませている。そう受け取れる言葉だった。
「お前達は何なんだ?」
「それはこっちのセリフだぜクソガキ共。よくもあのサンダーボルトをぶっ壊してくれたな。いや、消し炭にしてくれたなが正しいか。よくあんな化け物を相手に生き残れたな。褒めてるんだぜ俺達は」
「よく分からん連中に褒められても嬉しくはないな」
「つれねー。まっ、たまたま運が良かったというべきだろうな。所詮、あの中に入っていたのは三下風情の雇われ労働者だったしな。使う物を選ぶっていうべきだろう。だがな。お前はやりすぎたんだよ。報告だとあーっ、よく分かんねぇ力で出した高出力砲撃が原因でサンダーボルトは消失したと書いてあるなー」
ジャケットの内ポケットから取り出した用紙を見ながら喋るチャラ男を警戒しつつ。周囲の男達にも視線を送り続ける。彼らの手の中に隠し持っているのは恐らく銃だろう。相当な警戒心が感じられるな。むしろこの目の前の男の警戒心のなさが異常なんだろうきっと。
「ってなわけでとりあえずお前達は法律の何とかによって任意同行してもらうからな。問答無用でついてこい」
確信は持てないが。こいつらはこの街の警察機関であるポリゼルの組織の一味に違いない……。どうすればいいんだ……?
「ちなみに拒否した場合はなんだ。ボスからはお前らをボコボコにしてでも連れてこいっていうお達しがでてるから遠慮無くヤらせてもらうぜ? いいな?」
「…………」
あれだけの事をしでかしたなら当然の報いなんだろう。ここで大人しく捕まるワケにはいかない。自分のしでかした不始末は綺麗にしないとな。
「なら、一方的にボコられるのも癪だからこちらも徹底的にヤらせてもらうわ。覚悟しておけよ」
席から立ち上がり、素早い動作でセイバーMk.2を取り出してラパンを抱えながら間合いをとるために後ろに向かって跳躍する。
「へぇ、すっげぇ身体能力してんなー。だったらまずは小手調べとさせてもらうか。おい、お前ら前にでてあのガキの強さを俺様に教えろ」
無言の頷きと共にバラバラと俺の前に立ちはだかりだし、指示を出す男の取り巻き達は手から拳銃を取り出して一斉に構え始めた。
「多勢に無勢……」
「数では俺達に分配があるぜ? 降参するなら優しくしてやろう」
「こうなっては遅いから遠慮させてもらう」
「この後にその口が言い続けられるのかが楽しみだ。やれ」
次回の更新予定日は4月26日です。よろしくお願いします。
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