194話:アテナ都立テイマー学園 その1
「ついたよーカリト君!」
「……で、でかい!」
俺達の居た寮から少し歩いて10分。閑静な街並みの中を歩きながら進んで辿り着いた場所は、とても広大で贅の限りを尽くした校舎のある大学のようなキャンパスがある敷地の前だった。直ぐ側には『アテナ都立テイマー学園』と縦長の銅製の表札がある鋼鉄の門があって。そこの手前で黒い軍服を纏う警備の男二人がおり、首からスリングで下げられた不思議な形の銃が彼らそれぞれに携えられていて、
「あの武器はなんだ……?」
「あれは電撃弾を吐くモンスターの攻撃を再現。人間用に調整して生産されたエネルギー銃だよ」
「エネルギー銃……」
マガジンが懐に位置しているのを見る限り、ブルパップタイプのアサルトライフルなんだろう。撃たれたらどうなるかなんて想像はしたくはないかな。
「ちなみに殺傷能力はなくて。ビリビリーって痺れて倒れちゃうらしいよ」
「どこでそんな情報を手にしたんだ?」
「うーん、パパの部下の人が色々と教えてくれたの」
「なるほどね」
そりゃあそうか。偉い人には必ず護衛要員の人間がつくわけだし。
「まあ、何も悪い事しなければ大丈夫なんだな?」
「うん、あっ。えとね。いまから門に入るまで絶対に変な事を喋ったりしないでね? カリト君はまだ学生証とこの学園の学園徽章をもっていないから」
「ようは身分が分からないから何もせずにお前についていろというわけだな」
とりあえず彼女の言うとおりに、隣について歩くことになり、
「ん、そこの男は誰ですか?」
「今日から新しく入学する同級生だよー!」
「なるほど。でしたらそのままお通りください。念の為にこちらに入退室のサインの記入をお願いします」
自分の身を守るためにも言われたとおりにそつなくこなす。そして、
「では、良き学園生活を!」
「ありがとう!」「ありがとうございます!」
警備員の挨拶を受けてお辞儀で返し、そのまま開かれた門に向かって歩いて行く。
「ようこそカリト君! 都立テイマー学園へ!!!!」
白鳩の群が飛び立つと同時に太陽の差す光に照らされて、ラパンが俺の前に躍り出て歓迎の挨拶をしてくれた。フレッシュな姿はよく似合う光景だと思いながら。
「おう、よろしくなラパン」
「うん! よろしくー!」
「んで、これからどこへ行くんだ?」
学園のキャンパスは広い。今日、ここに初めて来た自分にはどうすれば良いのか分からない。
「まずは購買にいこっか!」
「そこで制服を買うんだな!」
「お腹が空いたからご飯を買いに行きましょ!」
「あらぁっ!?」
思わずその場でずっこける自分。いやその流れでそれはおかしいだろっ!?
「でも、もうこの時間は夕食だよ? 私、君を待つのにお昼ご飯のがしちゃったらかもの凄くペコペコリーンなんだけどー!」
「お腹をさすってペコペコリーンって初めて聞くな。まあ、俺も飯食ってないからな」
「だったら善は急げよ! 早く行こう!」
「う、うん」
どのみちいくあてとか土地勘がないので、言われるがままラパンについて行くことにした。
「とうちゃーく」
「お前けっこう人気者なんだな」
「うん! だって私って可愛くて人当たりがいいでしょ?」
通りすがる殆どの学生がラパンに声を掛けてくる辺りをみると。彼女は相当な学園の顔的な人間なんだろう。その隣におまけでついている俺を見てくる視線が、やや妬ましいという感情が込められてるのはさすがに頂けないが。
「んでここが購買部なんだな?」
「カリト君の住んでいる場所だとそう呼ぶの?」
「ん? まあ、そう言う場合もあるし。売店って呼んでいる場所もあるかな」
「そうなんだー。私、この学園にずっと小さい頃からいたから初めて聞いてちょっと感動してるかなー!」
「ん、そうなのか」
「うん、そうだよー。十三歳の時からずっとこの学園で暮らしてるの。たまに長期休暇がある時はお家に帰る以外はあまり外には出たこと無いかな」
「アテナの外には出たことはないのか?」
「うん。ここの暮らしはとても便利で文明的だし。外の世界は危ないってパパから聞いているから出ることはまずないかなー。野生のモンスターって凄く危ないんでしょ?」
「…………まあな」
「うん。だから危ない事はしないようにずっとこの学園で暮らしてるの」
「見識を深めたりはしないのか?」
「うーん。普段といっても、飼い慣らされてるモンスターと接しているのにわざわざ外に出たりはしないよー」
だろうな。
「そっか。じゃあ、こんど機会があれば外のモンスターの話しでもしてやるよ」
それなりにハンターの仕事をしてきた身だ。教えられる限りの事を彼女に教えてやって。もっと外の世界に興味を持ってもらえるといいな。
「あっ、あった! これこれ。これが無いと1日過ごした気分にはなれないよー!」
「ん、それは?」
彼女が店内に入るなりに直行したのはお惣菜コーナーだ。手には透明のパックに詰められた揚げ物があって。
「彩鳥の唐揚げだよ! これ凄く美味しいの! カリト君も食べてみなよ!」
と言われてもう一つ陳列されていたそれを受け取ると。ほんのり暖かく、パックから漏れてくる香ばしい臭いが俺の胃を刺激してくるわけで。
「あー、お腹がなったー!」
「お、おう。とりあえずこれ買おう」
「うん! あ、ちなみにパンは別の陳列棚にあるからそっちに行こうよ!」
「おう」
食欲には勝てない。当初の目的とは違う寄り道を満喫することになった。んで、
「ごちそうさまー! はぁーおいしかったー!」
「ごちそうさん」
キャンパスに設けられているフードコートで、購入した物で今日の夕食を終えて。
「んじゃあ、制服をもらいにいこうか!」
「ああ、いこう。ちなみに今からどこへ向かうんだ?」
「総務部だよー! そこで制服とか備品の受け取りができるから急ごうよ! もうすぐ閉まっちゃうから。明日君が制服じゃないと大変なことになっちゃうかも!?」
「具体的には?」
「入学初日でいじめられっ子になっちゃうかも!?」
あーっ、なんとなく言いたいことに察しがつくな。まあ、それは置いておいて。
「いくぞ。そんなくだらない事にならない前に」
「ほーい!」
とりあえず俺は総務部に行かなければならないことが明確に分かった。んで、そこから5分ほど歩いて二階にある総務部の職員室に入り。
「はい、これがサトナカ君が今日からきる制服一式と。学生証と徽章ね。どちらも無くさないように気をつけてね。特に制服に関しては消耗品なので破損とかは気にしないでね。最低限の気遣いだけはするように」
「ありがとうございます」
眼鏡の灰色の学者服のお姉さんに受付け越しから手渡されたそれらを受け取った。
「そのほかの備品に関しては授業の中でもらえるから。今日はそれだけね」
「わかりました」
「じゃあ。もう閉める時間だし。今日はもう寮に帰ってゆっくり身体を休ませるように」
「はい」
という感じに話しが終わり、そのまま俺はラパンと一緒に今日の所は学園を出て寮に戻ることにした。
「にしても学園の校舎はすごい綺麗で豪華な感じがしたな」
「うん。慣れたら変哲も無いけど。初めて来た子は殆どそんな感じに感想をいってくれるね」
「ん? 俺以外にも転入してきた奴がいたのか?」
「当たり前だよー。うん、私ってこうみえてお世話が大好きだったりするから。よくこんな感じのお仕事を請け負ったりしてるの。公私関係なしにね!」
だから人と接するのが好きなのか……。俺のラパンに対する印象が変わった。
「あ、そうだ。なあラパン」
「ん、なにー?」
「この周辺にシャワーとかお風呂って使える施設ってあるか?」
一応、寮の自室には備え付けられているのはうろ覚えに把握はしている。だが、今からだとなんか面倒くさい気がしてて……。
「んー、この第七区画にはないけれど。少し放れた場所にある第十三区画に労働者用の入浴施設があるよ」
「おおっ! だったら直ぐにでも「行かない方が良い」えっ?」
「行かないほうが身のためだよ」
ラパンの表情に無が訪れる瞬間を俺は目の当りにしてしまった。何がいけないんだろうか……?
「どうしてだ?」
「あそこは行っちゃダメ。君がネメシスの人間であっても近付いちゃいけない場所なの。君が学生である限りは行ってはいけない。これはどの学園の生徒であっても校則には記されている禁止事項。君は将来が約束されている身。その君が気安く訪れても良い場所じゃないの」
「…………」
彼女の言っている事が何を指摘しているのか、俺にはその意味さえも分からなくて。
「わかった。俺が軽はずみな事を言ったみたいだ。今日は大人しく寮に戻って過ごすよ」
「うん。間違っても二度と同じ事は言わないでね? 約束してよね?」
「ああ、わかった。約束するよ」
「うん! ありがとう!」
「だからって急に抱きついてくるなってばぁっ!?」
彼女の巨乳の弾力を顔面でしっかりと受け止めながら、俺はこの学園都市アテナの事について少し興味が湧いて。
――しばらく適当に滞在するつもりで学園生活を凄そうと思ったけど。どうやら退屈しなくてすみそうだな。
と、これから始まる新しい場所での生活にワクワクがとまらなかった。
明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。
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