190話:ドラゴンと竜人の違い。
――そうじゃの。そもそもわしら。お主のいうドラゴンと竜人は元々互いに同じ祖先をもつ親戚みたいな関係をしておっての。まあ、これはわしの爺様から聞かされた話だから正しいとは限らんから。適当に聞いてくれてよいからの。それよりも、お主その格好で寒くないのか? 他の人間はお主とは違ってぶ厚い皮を纏っておったのに。
話の途中で気を遣われるあたり、俺の見た目って変わっているんだろう。そもそもドラゴンのあんたもその鱗で寒くないかと聞き返してやりたいくらいだな。
――他の人間とは違って鍛えているし。それにあんたの言う皮っていうのは、人間の世界では服っていう言葉があるんだよ。モンスター達とは違って、俺達にんげんは要所要所で色んな服に衣替えをして暮らせるんだよ。
――ふむ。それはそれで興味深い話しじゃな。でもそうなると沢山手に持っていないと不便じゃろ?
――そこは人間の知恵ってやつと文明って言うので何とかしてるな。世の中には何でも収納できるタンスとか。引き出しとか衣装ケースっていうのとか沢山服をしまえる道具があるんだよ。
――なんと! それは賢いではないか。ワシもそれ欲しいぞ!
――いや、あんたが持ってて何になるんだっての。
――…………そういえばそうじゃの。ちょっと寂しいの。
――あんたは人間じゃないから仕方が無いさ。
なんか自分を人間だと思い込んでいたみたいだな。あれ、この流れて大分前に似たような経験をしたような気がするんだけどな……????
――てか話しがめっちゃそれてるんだけど。竜人ってあんた達ドラゴンと同じ祖先っていうところで話しが終わってるから続きを聞かせてくれよ。
――うむ。そうじゃの。うーん。これも爺様から教えられたのじゃが。竜人はその昔。人間と恋に堕ちたドラゴンが姿形を変えて人になり、そこで子供達を育み。そして種族としての地位を確立させてきたという歴史があるそうじゃ。謂わばドラゴンと人間の間にできた子供達のことを竜人と呼ぶみたいじゃの。
――へぇ、なんか面白い話しだな。もっと聞かせてくれよ。
――うむ。最初の竜人達の創世期の時代は皆が兄弟姉妹で仲良くしていたらしいの。だが、人間と交わり過ぎた故に過ちを犯す者達も増えていくわけで。
――悪い竜人が生まれたのか?
――簡単に言えばそうじゃの。悪の竜人達は徒党を組んで部族を組織していき。次第には自身達を選ばれた力のある竜人。混沌と名乗り始めてな。世界のありとあらゆる場所で悪事を働き。そしてそれで得たありとあらゆるモノ全てを我が物にしていった。
――聞こえは悪いけど。なんか俺の知っている時代にそんな似たような出来事があったかな。戦国時代って言うんだけどな。
――ほう。人間達にもそのような歴史が。まあお主の話はあとで聞く事にしよう。
――そうしてくれ。んで、その混沌っていう種族の事については分かったけれど。竜人にもワルばかりじゃないだろ? いい竜人達はどうしていたんだ?
――静観じゃ。
――え? なにもしなくて見ていただけなのか?
――彼らには鉄の掟があったのじゃよ。
――んん?
――竜人はみな1つの大樹の父と母から生まれて枝分かれしてきた家族。同族同士で血を流すことを禁じていたのじゃよ。そしてこの時代は混沌期と呼んでいる。混沌の竜人族達が一大勢力を広げて世界を我が物にしていた時代じゃな。
――てか思ったんだけど。俺達人間はその間何をしていたんだよ?
――あまり詳しくは知らぬが。混沌の竜人族達の悪行に虐げられていたからなのか。ポツポツと勇気ある者達が世界を救おうと果敢に挑んだそうじゃよ。じゃが。
――おい、まさか。
――誰も彼もが正義を貫く事など無理に等しかった。混沌の竜人族の力は強大。そもそも彼らは武闘派としても知られていたからの。か弱い人間達には太刀打ち出来ないのがいつもの定めじゃった。
――ドラゴンのあんた達はどうしていたんだよ。さすがに自分達の住処を追いやられたりして嫌な思いとかはしていただろ?
――うむ。何故か彼らはわしらをみだりに殺そうとはしなかったの。まあ、恐らくわしらの方が強すぎて相手したくなかったのだと思うな。かっかっ。
――わ、わりかし小心者の部族だったのか?
――いいや。真の強者は相手をよく知っているということに限る。ドラゴンが徒党を組んで戦うのはまあそもそも無いが。そのような事が起きれば。奴らはあっと言う間に自分達の築き上げてきた全てを失う事になるからの。野蛮な事はせずに安定を選んだのじゃよ結局のところ。
――なんか難しい話しで整理がつかない所もあるけど。ようはドラゴンと人間の間に竜人の子供が沢山出来て。それで創成期ってい時代が訪れて。んで混沌期で世界がカオスな事になって大変な事になったというわけか?
――大分ざっくりとした解釈じゃの。
――まあ、時代の話しってさ。あんまりゴチャゴチャしてると知りたくなくなってくるしさ。分かりやすい方が万人受けするんじゃない?
――う、うむ。まあ続ける事にしようかの。かくして混沌の竜人族達は名を改めてカースオブドラゴンと名乗りだし。世界はあと少しの所で彼らの支配下になるはずだった。
――だった?
――300年前。勇者が生まれたのじゃよ。
――それは……?
――人間の勇者じゃよ。突如勇者の下に現れた聖賢の竜人によってその秘めたる力を目覚めさせられ。友となり、愛する恋人同士となり、そして共に世界を安寧へと導いた素晴らしき神の申し子。丁度わしが1300の時を迎えた年じゃったな。
――えっ、あんたいますんげぇ年取ってんの……!?
――わしらドラゴンはよほどの無い限り死にはせん。こうして役目を果たし続けているドラゴンは特にのう。死ぬわけには行かぬから神から恩寵を賜っているのじゃよ。
――跡継ぎとかはいねぇの?
――そうじゃの。できればそうは望んでいるのじゃがな。なかなかに後を継ごうと思う息子達に恵まれなかったのでな。
――あっ、なんかごめんな。
――気にするでない。しょせん今の時代の者達にはこの役目の大事さを理解できんのだろう。
――んで、勇者はどうしたんだよ?
――カースオブドラゴンの竜人王と命がけの戦いを繰り広げたと聞く。そやつが諸悪の根源だったからな。
――それだけの勢力を伸ばしてきたって事はそうとうな強さだったんじゃ?
――うむ。一時は勇者が敗北して世が終わりそうになったな……。なんでも竜人王の怒りを買ってな。竜人王は怒りのあまりに巨大なドラゴンに姿を変えて世界にある全てを無に帰そうとしたんじゃよ。コレばかりはわしらドラゴンでも手を出せずにはいられなかった。じゃが時は遅く無力だったから諦めたのじゃ。これが世に広まっている崩壊期というわけじゃな。
――それでその。敗北した勇者はどうなったんだ?
――残された人間達は安息の土地を見つけて集う事になり。竜人王が率いるカースオブドラゴンの軍勢との全面戦争に挑むことになったのじゃよ。そこで勇者も加勢したと聞くの。
――それで戦争はどうなったんだ?
――ドラゴンの姿になった竜人王は誰にも止められず。戦いに参加したものは勇者と聖賢の竜人を除いてほぼ壊滅したと聞くの。
――絶望的じゃないかよ……。
――誰もがそう思ったとわしも考えるな。
――もしかしてまた勇者は負けたんじゃ?
――…………。
――すまん。これを話すと神に怒られてしまうようじゃ。いまワシにお告げが舞い降りての。その者との会話はそこまでにしろと。今はその者が知るべき話しではないと。
誰かが割って入ってきたってどういうことだ!?!? 結末が気になるじゃないか!
――なんかもの凄く良いところで話しを止められて嫌なんだけど……。
――神はいっておるぞ。勇者の器として相応しくない未熟者が知るべき話しでない。全てを知り得てからまたわしに会いに来いと。コレばかりは神の意向には逆らえぬからの。許せ。未来を担う若き勇者サトナカ カリトよ。では、そろそろお主との約束を果たすことにしよう。捕まっておれ。お主が言っていた土地まで送り届けてやろう。
――え、俺が勇者だって!? ちょっとそれ詳しく――ぎゃぁあああああすっ!!!?
俺の話しを遮るようにブリードさん。急発進してここから振り落とそうとして俺を殺しかけてきたぞ!!!? だが、間一髪の所でブリードの角にしがみついて難を逃れて。顔面を突風で押しつけられながら感情共有の力で。
――て、手加減してくれないっ!?!?
――これでも最低速度じゃ。我慢せい。お主勇者じゃろ? それくらいは平気でおれ。
んな無茶な!?!?
――して、お主の行きたい場所はどこじゃ?
――聞く前に発進すんなっての!!!!
意外にもこのドラゴン。おっちょこちょいだった。
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次回の更新は1月3日です。いつもと変わらず更新させてもらいます。
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