182話:出発に向けて
あれから俺の周りで無能にも絡んでこようとしてくる輩は居なくなって、とりあえず気持ちを切り替えてサビと一緒に楽しむ事ができた。もちろん先輩達も同席してのちょっとした壮行会が行われて、ルナ先輩からはリリィとの恋の進展はどうなのかと揶揄われたりして、隣でそれを聞いていたサビがなんだか知らんがむすっとしてしまって、俺にビリビリ攻撃で意地悪をしてきて困った事になったり、ロッソ先輩は兄貴ということもあって。
「弟よ、現地で羽を伸ばすのは構わん。ただし、妹を泣かすような羽の伸ばし方をするなよ?」
「わ、わかってますよロッソ先輩っ!?!?」
そういえば思ったのだけど。ここ二日程リリィの姿を見ていないな。彼氏として気になるし心配だ。
「ちなみにリリィは今何してます?」
「んー、俺もあいつが何してるかわからねぇな。街で姿を見せない時は大抵あれだな」
「あれとは?」
「こそこそと俺たちに知られないように動いているんじゃね?」
「かなり大雑把な推測っすね」
「兄だからなんでもわかるわけじゃねぇからな。こればかりは目にしていないとなんとも言えねぇんだよ」
「あたしもリリィちゃんが何をしようとしているか。ちょっとわかるかも」
「教えてくださいルナ先輩」
佇まいを正してルナ先輩に教えを請うと。
「恋する乙女の一番の敵はね。ふふ、時間よ」
「んん?? 時間……ですか……?」
「なんだそりゃルナ姉ぇ? どういう事だよ?」
「男のあんた達には分からない言葉よ。いづれ二人にはわかる話かしらねぇ。ねぇーサビちゃんもそう思うでしょ?」
「ええ、全くもってその通りですわ」
女子2人にしか分からない会話の内容に俺は首をかしげて疑問に思うも、いたらその時にでもいいかと思って考えるのをやめて、四杯目のエールを飲み始めつつ、テーブルの上にあるスルメみたいな干物のつまみを口にして噛み潰していく。
「教えてと言った手前でしたけど、まぁいいです。自分で答えを見つけてみる事にしますわルナ先輩」
「まぁ意地悪な答え方をしたけれど、その方が貴方らしい答えが見つかると思うし、見つかるといいわね。リリィちゃんを大事にしなさいよ」
まるで今生の別れ的な物言いだなぁ……。別に別れるつもりもないし。
「ありがとうございます。んじゃぁ、そろそろ帰って寝る事にします。明日もよろしくお願いします」
「私は今日で最後の任務になるかしら。また帰ってきたら色々と面白そうな土産話を聞かせてちょうだいね! んじゃぁ失礼するわね」
「じゃあな弟。俺もお前の護衛につくの今日で最後だからしばらくのお別れだな。楽しそうな夜のお店。あったら手紙で教えてくれよ? 義兄と弟の仲だ」
「行きませんからねっ⁉︎ 俺、あくまで向こうには学生の身分で行くんですからねっ!?」
本当に分かって言ってるのかよ……? 突っ込みを入れて苦笑いを浮かべる俺に対して、ロッソ先輩はニヤァッと笑って手を振り、ルナ先輩の後を追って立ち去って行った。
賑やかな飲み会が終わった。残された俺とサビは静かにして隣同士座っている。
「あのですねご主人様」
「ん、なんだ?」
ちょっとシリアスな空気を感じる。だけどそうでも無さそうな感じもしている。そう曖昧な流れを感じながら、
「ご主人様はこれからも私の好きなご主人様でいてくれますよね?」
「おう、それはそうだな。なんだ? さっきの話を聞いて思う所でもあったのか?」
「あるのはありますわ。羽目を外して変な事。特に向こうでの生活の中で何か事件に巻き込まれたりしなかったりと。私の本音はこのままずっと私たちのそばにいて欲しくてたまらないんです!」
ん???? サビって前々からこんなに積極的に話してきたっけな???? いやいや俺がそんな事を本気で望んでいる訳ない……かな? 頭がぼーっとしてて上手く思い出せないや。てか彼女も相当な量のお酒を飲んでいるような……? そう思いながら彼女と面と向き合ってると。
「うぅ……私は気づけばもう王女とか女王様ではなく。1人のメスとしてご主人様の側におります。モンスターの私とご主人様との間には越えられない壁があって、私のこの気持ちはどうやっても叶わぬ願い。だから――」
酔いに任せて小泣で話をして、彼女は一拍間を開けて。
「――私もご主人様の命を守る剣になりたいんです‼︎」
「それはどういう……」
「私もホワイエットちゃんやサンデーみたいにご主人様のお役に立つ剣になりたい!」
いつもの喋り方をする彼女とは一転とした喋り方を前に、違和感を俺は覚えながらサビの手に触れた。……なるほどね。
「サビ。いえリリィ先輩はすぐそこにいたんですね。会えなくて寂しかったですよ」
「ヴェッ!?!?」
変な声を上げて、触れられた手を引っ込めて、目を見開いて驚いた表情と態度を示してきたそのサビ――いや、リリィに対して。
「サビはどこにいるんです?」
「えとえとそのそのね」
「彼女でも俺は容赦なく怒りますよ?」
「ひぃーん、ごめんなさいカリトくん!!!!」
と、俺と距離を置くようにその場から引き下がって、両手を胸の前に合わせて謝ってくる彼女は、
「思わぬ伏兵をしたくて変装してました! お酒を飲んでつい、その、ね?」
「ね? ってなんですか。困りますよ全く……。ロッソ先輩とルナ先輩が気にかけてたじゃないですか」
「あの2人は私の中でも最高レベルで騙すのが難しい相手なのよ! 自分の実力を向上させたくて頑張っていたんだけど……。脳筋の兄は兎も角……ルナには見破られてたわね……なによ、あの人の何でも見破れる魔眼の瞳は。ずっこいよ! フェアじゃないわ、全く!」
「う、うん。とりあえずリリィも声を使って人の精神を操れるんだからどっこいどっこいだと思うよ?」
「ふぅ……、サビちゃんは私のお勉強のお手伝いに協力してくれたのよ。今ごろは裏方でお仕事なり休憩してるんじゃない? あ、だめよ行こうとしちゃ。貴方のことを守れなくなるから」
「何もそこまで神経質にならなくても……」
パッと行ってのぞいて挨拶して戻るだけの話しじゃないか。何を心配してるんだよ本当に。ネメシスの先輩達は何を恐れてるんだ????
「さっき見たいな輩は優しい方よ。あんな三下に絡まれるより恐ろしい奴に心当たりはないの? 忘れたの? あの時の出来事を? 名前は言えないハンターの集まりの存在を忘れてるの?」
「レアハンターズ……。名前はえと……あぁ、ゼセウスか……」
「忘れかけてたみたいね」
「完全にポッカリ穴が空いたみたいに記憶がなくなった訳じゃないですよ」
「もう、しっかりしてよね本当に。暗殺者は夜に動くんだからね?」
めちゃくちゃ心配されてるじゃん俺。弱ったなぁ……、これじゃあサビに声をかけられないな……。しばらく俺はリリィのお小言に付き合わされる羽目になってしまうのであった。
明日も予定通り更新します。よろしくお願いします。
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