180話:灯りの下で輝く狼の美女と楽しい酒場のひととき
とりあえず一人寂しく自宅で夕食を取るのがあまり好きじゃ無いので、いつもの様にギルドの酒場に訪れると。
「サビちゃーん! 俺達にエール特盛りジョッキを!」
「はーい! 少し待っててくださいまし!」
「サビちゃーん! オマールの炭焼き大皿をこっちにたのんだよ!」
「はいはいまってくださいませ! こっちの後にお持ちしますね!」
笑顔を咲かせて活き活きと、サビが周囲の男性客に声を掛けられながら仕事に励んでいた。彼女の立ち回る姿がまるで映画に出てくるヒロインのようだった。酒場はいつもより一際彼女を中心にしてざわついている気がする。
「頑張ってるな」
「いらっしゃい、あら。サビちゃーん! お兄さんがきたわよー! 注文効いてあげたらー!」
白黒の給仕服姿に藍色の短髪を赤のカチューシャで着飾った女性こと、ソニカさんが俺の来店に気づいてやってくるなり、サビを呼び出してしまった。
「あ、ご主人様! 直ぐに向かうのでそこでまってくださいな!」
「だ、大丈夫だっ! 自分の仕事に集中してくれていいからっ!?」
「あらぁ、恥ずかしいのかなお兄さんは?」
イタズラな笑みでニヤニヤと笑いを浮かべるソニカさんと、配膳カウンターに並べられた料理を整理して、忙しそうに頑張っているサビの姿を交互にみて思わず気を遣おうと思った。なんか俺の為に特別な扱いを受けるのもアレだと感じたからだ。
「いいよ。サビを邪魔するような事は避けたいし」
「ふふ、優しいお兄さんだね。ちょっと見直したかなー」
「ん、なんですそれは?」
「ほら、君って最初はやけにここの女の子達に絡んできていたじゃない。サビちゃんにその話しをしたらさ。本当のご主人様はそういった破廉恥な事はあまりしないんです。だからこれ以上悪い人と思わないでって」
「サビがそんな事を……」
「うん、だから君の事をねみんながそうは思っては居ないけれど。私は君の味方になってあげようかなって思ってねー」
「み、味方って大層な……ははっ」
てかサビよ。破廉恥な事はあまりしないって、まるでするときもあるっていう風に聞こえて無くない? そう内心思いながら苦笑をしていると。
「ソニカさん。私が変わりますね」
「だってお兄さん」
「お、俺は別に特別扱いは受けたくは無いんだけど……」
「そういわずに。ほら、妹さんについて行きなさいな」
「いてっ!?」
背中をバシッと叩かれて前に押し出されてしまい、その躓いた勢いでサビの前に立ち止まってしまった。
「えへへ、そうあまりジロジロとみられるの。やっと慣れたのにまた最初のように恥ずかしくなってしまいますわ……」
「う、うん……」
綺麗だ……。しかも格好いいとも思えてくる。そうドギマギしてると、
「案内しますわご主人様。手をだしてくださいまし」
「う、うん」
そう言われて右手を差し出すと。サビが俺の出した手を自分の手で触れて掴みとり、そのまま彼女が先頭に立つ形で俺を引っぱってリードしようと、背を向けて歩き出した。彼女に連れられて、俺は成り行くままに後に続いて行く。
「さ、サビちゃんが男の手を握って引っぱってるぞっ!?」
「あいつは誰だっ!?」
「くそぉ、うらやましいぞぉ!!!!」
「ありゃぁ、サトナカだな。最近顔を出さねぇから何してたかは知らんが。サビちゃんとやけに仲がよさそうだな……」
「サトナカって誰です?」
「噂じゃぁ、ハンターズギルドのお抱えハンターらしいぜ? あとは……よくモンスターを飼育する牧場に出入りしているらしいぜ。なにしてるかは知らんが」
「なんなんすかね。妙に気に入らねぇって気がしてきましたよ」
「後でちょっかいかけてみます?」
「やめとけバカが。あいつにはまだこんな噂があるからやめな」
「なんです?」
「あいつに関わった奴ら全員。日の当らない世界に行っちまうんだってさ」
「……んん?」
「これで分からねぇか。まぁそのまま触れないほうがいいさ。だが、サビちゃんが可哀相だな。あんな碌でもない奴に関わってるだなんてな」
「兄貴! ここはいっちょ男らしく我らのアイドルであるサビちゃんを救いましょうよ! そうすればあの子に好かれるチャンスが来ますぜ!」
「お前らは目先のことしか考えねぇなバカが……」
「ご主人様。ちょっと聞き捨てならない話しをしてるオス達がいますわ」
「ん?」
「私達の愛を引き裂こうとしているみたいですの」
「ふーん」
どうせ俺のサビに色目使ってムフフな事がしたいんだろうな。酒場でよくあるこじれた痴情のもつれってやつだなー。今の俺に絡もうとしたら彼らは明日から表立って歩けなくなると思う。まぁ、それは兎も角。
「こちらにどうぞですわご主人様。ご注文はいかがいたします?」
「そうだな。とりあえずエールとなにかいいおつまみを頼むよ」
「ふふ、わかりましたわ。少しまっててくださいな」
と待たされて彼女が持ってきたのはなんと、
「え、なんで空のジョッキとエール瓶なの……?」
「ラミアさんが教えてくださいましたの。特別なお客様にはこうして給仕の人が飲み物をお注ぎするんですって!」
両手にそれらを持ちながら、隣の席に回り込んで座ってくるサビの笑顔を間近でみながら俺は、
「ら、ラミアさーーーーーーーーーーん!!!?」
厨房に向けて大声で叫ばざるを得なかった。
「きゃっ!?」
「あ、ご、ごめんな!?」
「え、ええ。その……嫌でしたか……?」
シュンとする彼女を前にして、慌てて俺は両手を振りながら首を横に振って、
「いや、じゃないぞぉっ!?」
「ほんと? 良かったですわぁ!」
「……うむむ」
周囲の刺々しい視線を全身に浴びながら頷くことにした。みなさん怖くない……?
明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。
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