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178話:サンデーはアルバイトがしたい

 あの後俺達は朝食を終えて、サビの邪魔にならないようにギルドを後にした。


「ほら、ついたぞ」

「……なんか焦げ臭い」

「仕方が無いだろ。武器とか防具を売っている店だしな」

「そう……」

「……その、ごめんな。あの時は考えもせずに感情的にあんな事を言ってしまって」


 彼女の事を想って言ったつもりだった。だけど反面で、彼女の気持ちを汲み取ることなく頭ごなしに否定してしまった。カミルさんの店の名前で、俺の右隣ではサンデーがふて腐れて不機嫌な感情を露わにしている。


「だったらあんな事言わないでほしかったよご主人。わかってるよ。私が食いしん坊でつい手をつけてつまみ食いしてしまうの。でも分かっているんだよ?」

「分かっているならするなよって言いたいところだが。そうキツくはいえないな」


 本当はもっと満足に食事を取りたいはず。それを我慢して俺についてきてくれている。俺達の食事事情は複雑だ。1ヶ月の食費を捻出するにも、最低で500ダラーはどうにも掛かってしまう。見た目は人間でも中身はモンスターの3人組だ。あの姿を維持するのに、それ相応のエネルギーを消費するという事が最近になって分かってきた。彼女達は俺に負担を掛けまいとその事を黙っていたのだ。


――『生活の環境の改善』、足下がままならないまま先走って物語をすすめている。まるでそれは普段の生活がままならないのに、高級車を乗り回しているのと同じ感覚に近い。


 だからサビはアルバイトをすると言い出したのだ。俺の収入では補えない所を、自分達で自立していこうという考えに至ったサビとサンデー(こいつはその場のノリで言い出した節があるけど。)に、俺はどう向き合うべきなのか?


「とりあえず今日からお世話になると思う人に会いにいくぞ」

「うん、ちょっと緊張するな。」


 いつものように適当な感じで喋っているサンデーが、珍しくしおらしいしゃべり方をしている。


「多分だけど。お前のいつもの性格にあいそうな人柄をしている人だから。仲良くはできそうだとは思うかな」


 父性というべきか。外の世界に送り出す親心の気持ちが湧いてきていて不安な気持ちがある。俺だってサビと一緒の職場で働かせてやりたかった。難しいんだよ!


「いこうよご主人。ここで話していても時間が過ぎてもったいないよ」

「ああ、いこうか」


 俺よりも先に勇気を出してきたのはサンデーだ。ちょっとその行動に驚かされる自分。対する俺は一歩遅れてしまった感じがして気まずさを感じた。


 そこからは自然な流れで店の中に入り、店内で新品の防具を布とオイルで磨く作業をしていたカミルサンと出会い、


「お、朝早くから彼女連れかい? あんたも隅に置けない男になっちまったけかー」

「んなわけありませんよっ!? 違いますって、こいつは俺の家族なんです!」

「まさかの所帯持ち!? や、やばいぞぉ!!!! ミステルとかその他諸々に広めなくちゃ!!!?」

「あらぬ誤解をまんべんなくひろめようとしないで!!!!」

「ご、ご主人……?」

「ほら、この子が困っているじゃ無いですか!? お願いしますよもう!」

「ははははっ、いやーひっさしぶりにあんたの慌てた姿を見られてなにより、あー良い気分だ!!」

「あのですね……!」

「ごめんごめん、ちょっとからかい過ぎたな。んで、今日はどうしたんだい。そこの女の人と一緒に何しに来たんだ?」

「スキャットライフルが壊れてしまいました」

「…………えぇ?」

「訳あって仕事で酷使してしまってぶっ壊れてしまいました」

「どの程度に……?」


 やばいやばいやばいぞぉ!!!? カミルさんの笑顔がどんどん冷め切ってきてるって!?!? 恐る恐るだけどいわなければ……。


「す、スクラップパーツみたいな感じにバラバラな感じで……す……」

「――――っ!!!!」

「ひっ!?」「げおっ!?」

「ばっきゃろぉ!!!! 弁償だよこんちくしょう!!!!」


 あぁ……そうなるよね……あぁ……。想定していた通りの反応が返ってきた。彼女は右手にもっていたクロスを俺にめがけて投げつけてきた。


「詳しく言えよな。どうやったらあの武器をスクラップパーツみたいな感じにできるのか」


 ど、どうしよう……。これ嘘を言えるような状況じゃない。あの出来事を外部に漏らすなと口止めされている手前だ。レフィア先輩にもこの前に身体で学ばされた手前じゃないか。


 そう返す言葉に思い悩んでいると。


「ごめんなさい。私が下手くそな狩をしたせいで。あんたの大事な武器を壊してしまいました」

「サビ!?」

「だまってて。私がちゃんと謝るから」

「……あたしはそこまで鈍感じゃ無いからなんとなく察しはついているけれど。聞かせてくれ」


 無表情なカミルさんからくる視線に耐えながら、俺はサビが何をしようとしているのかを見守ることにした。


「私とご主人で一緒に狩りに出かけたんだ。私はご主人と違って銃の狩に慣れていなくて。もたもたしててそれでモンスターに踏み潰されてしまったんだ……」

「それは本当なのかい?」


 武器職人の目線で話を返してきているのが分かる。プロの目線でそれは事実なのかと確認を取ってきているんだ。ここで嘘だとバレてメッキが剥がれてしまえば、何が起きるのか想像に難くはない。おしまいだ……きっと……。


「うん。私がもたついていて、それでモンスターに目をつけられて襲われて。その時にご主人が私の身体を守ろうと庇ってくれたんだ。その時に私、武器を地面に落としてしまって。それでそのまま――」

「あえなく貸してやった武器が全壊ね……」

「――うん。ごめんなさいえと名前は……」

「カミルだ。あんたは?」

「サンデー」

「サンデーか。ふん、たいした悪運の持ち主みたいだな。命があって良かったな。だが、それとこれとは話は違うぜ。やってしまったことに変りはない。それは分かっているよな?」

「うん、わかってる」


 何の躊躇も無く返事を繰り返すサンデーの胆力に思わず内心で驚いている。


「気持ちに変りはないみたいだな……」


 その態度を前にしてカミルさんが、


「信じてやるよ。それで、お前達が今日何をしにきたかは分かった。このまま謝って返るつもりはないよ……な……?」

「え、ええそうです」

「本当に帰るつもりだったら出入り禁止にしてやっていたところだったな」

「…………」


 大事なコネを失う手前寸前だった。俺達は危ない綱渡りをしているところだったんだ……!


「それで、謝罪の次に何があると思う?」


 その言葉が皮切りとなってサンデーが意を決して、


「私をここでアルバイトさせてくれ!!!!」


 店中に響き渡る大声でカミルさんにバッとお辞儀をしたのだった。


「…………。手加減はしねぇからな? そういう所に仕事を願いにきた自覚はあるよな?」

「うん。ある」

「なんだそのさっきまでとは気迫のこもっていない淡泊な返事はよ!」

「げおっ!?」

「どうだ? 断るか?」

「やる! いやだ! これ以上ご主人に迷惑をかけたくない!!!!」

「じゃあさっさとこっちに来いや!!!!」

「おう!!!!」

「おうじゃねぇ、おっすかはいにしろ!!!!」

「おっすかはい!!!!」

「ちげぇ!!!! おっす!!!! はい!!!!――のどっちかっていうってんだろバカが!!!!」

「おっす!!!!」

「おら、さっさと服脱げ!!!!」


 え、いまなんていったカミルさん……?


「そんなハイカラな服で仕事できねぇだろ馬鹿たれ!!!! おら、サトナカ サンデー! 今日からお前は馬鹿たれだ! 一人前の職人になれるまで名前は忘れろいいな?」

「おっす!!!!」

「ちょ、サンデーそこで服を脱ごうとするな!!!?」

「や、やめろご主人!!!! これは私の戦いなんだよお!!!! は、な、せって!!!!」

「カミルさんもう少しやさしくしてやってくださいよ!!!?」

「ばっきゃろ!!!! 甘えたらそこで職人失格なんだよ!!!! 私が言っている言葉全部がこいつが仕事をする上で大事な事が詰まっているんだよ! じゃますんな! 仕事で甘えてしまえばどうなるか。あんたも分かってるだろ? 危険なモンスターを前にあんたは甘えるのか?」

「――――っ!」


 この仕事は危険な事だらけだからっていいたいのか。商売をやったことの無い自分にはプロの目線で話す彼女の言っている言葉の意味が分からなかった。


「おら、馬鹿たれ。おめぇの仕事着の採寸するから裏方についてこいや。あっ、あんたはそこで店番頼むな?」

「あっ、は、はい」


 仕事のオンオフのスイッチの切り替えが上手な面を目の当りにして、俺は戸惑いながらも首を縦に振り、カミルさんとサンデーが裏方へと入っていくのを見送った。完全にいなくなって一人になり、


「ありがとうサンデー。お前の働きに心から感謝する」


 これから数多に降り掛かる彼女の苦難を思いながら、俺はそこには居ないサンデーに向けて感謝の言葉を送った。

更新の間隔があいてすみません。リアルの方が少し忙しく手がつけられない状況が続いておりました。


次回の更新は12月20日になります。よろしくお願いします。


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