176話:サトナカ サビは今日も静かに絵を描く その2
夕食を終えて、俺達は二手に分かれて入浴を済ませた後に(俺特製のドラム缶風呂だけど)、サンデーは既に床に入って就寝、俺はロウソクの明りの中で食卓に座ってある方を一点に見つめていた。
「……暗くても見えているのか」
「色彩は分かりませんけど。ずっと朝から使い慣れている配置で絵の具を置いているのでなんとでも分かりますわ」
さすが天才というべきか。そのおかげもあってロウソク越しの明りに見えている彼女の絵は、美しい彩りで緻密に描かれていた。既に個展を開催してもおかしくないレベルまで仕上がっているな。そう思いながら彼女の寝間着の後ろ姿を目にしている。
「ちなみにその絵はなんていうタイトルなんだ?」
「そうですわね……、絢爛とでもどうでしょう」
「ふーん、俺には絵の良さって言うのはいまいち分からんが……」
マジマジと見てみると黄色を主体とした流線的な描き方をしているというか……。うん、分からん。パッと見ても素人の俺にはお屋敷の廊下にしか見えてこない。ん、お屋敷?
「無理に感想を言われると心が傷ついてしまいますわ」
「す、すまんな。お前の主人なのに。感性がなさすぎて」
「人間って不便な時がありますわね。ご主人様だけかもしれませんけど。芸術をもっと知るべきだと思いますわ」
「お、おう」
その言葉に重みを感じるのはなんだ!!!? ディスられてんのかな!!!?
「ご主人様。このお屋敷。アルバイトで頑張れば私達の新しい住処にできたりします?」
どこか遠い時間を思い馳せるかのような声色でサビが話してきた。
「ここら辺の街の最低賃金は知らねぇけど。まぁ、100年かけても手に届かない代物だな」
「もう……そういう夢の無い事を言わないでくださいまし」
「でも、方法はいくらでもあるさ。例えば絵を色んな人に見てもらって買って貰ったりしたりとかさ」
まえまえからそう話してはいるけど、
「いえ、お断りしますわ。私はその為に絵を描いているわけではありませんわ。だって、私にとってこれが、この一時が大切な宝物なのですから」
「宝物か……」
その言葉の意味合い的に心の支えである限り、仕事として絵を描きたくはないという、俺から見れば凄く勿体ない事だと思えてくる話だ。
「ご主人様はご趣味はありますの?」
「いや、もうずっと好きな趣味ができていないな」
「前話してくださっていたゲームでしたっけ? 手に持って電気の力で動く不思議な箱で遊ぶゲーム」
「うん。やってみたいけど。俺には作る力やスキルがないからさ。正直諦めてる」
「またその時が訪れるといいですわね。それがご主人様の夢であって、趣味なら、私の言った言葉の意味が分かりますかしら?」
「…………なるほどね」
仕事でゲームをする。無理だ。趣味とごっちゃにしてやりたくはない。そっか……、
「ごめん。サビの気持ちを知らずに何度もその話を持ちかけて」
「ふふ、分かって頂けて何よりですわ。あ、でもこのままわがままを言うのもあれでしたら。よければ私の描いた失敗作を処分するついでに売っていただいてもいいですわよ」
「それ、言っている事と矛盾してなくね?」
「それはそれで、これはこれですわ。さて、そろそろ寝ますわ。続きはアルバイトから帰ってからにしますわ」
「……俺がいなくても大丈夫なのか?」
「……ええ、大丈夫ですわ。少しの間だけのお別れですから。永遠じゃないから平気です」
「……そっか」
ロウソク越しに映し出されている、彼女の振り向き姿にどこか切なげな何かを感じた。
「お休みなさいですわ」
「ああ、お休みなサビ」
ぺこり、軽くお辞儀をしてそのまま彼女は寝室へと行ってしまった。
「……俺も寝るか」
モヤモヤとした気持ちが胸の中にあるまま、明日を迎えることにした。
「……やっぱあいつらの仕事姿が気になるな!!!?」
自分のベッドの上で横になったのはいいけれど、結局それが気になって眠れなかった。
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