173話:エピローグ『駆け引き』
アリオンの死について街では大きな話題となり震撼させる程の影響力があった。
『ボルカノメトロポリス領主であるアリオン・ルー・ドワール三世が死去。この街ではアリオン博士と呼ばれて愛されていた。領主でありながらも、王立学者ギルドのナンバー3として学会の発展に尽力されていた――』
昨日の事件について、何者かの力により事実が大きくねじ曲げられてしまい、カバーストーリーが真実として世間に広まっていた。街の掲示板をコソコソとみながら思うのが。
「アルシェさんの仕業か……?」
今回の事件で関与している人物の中で大きな権力を持つ人物といえば彼女しかいない。あるいはイリエ……? とも思ったが、違うだろう。奴は殆ど絡んではいないから。だが、あいつには幾つか問い質さなければならない事がある……。その事を確かめるために今日はイリエの事務所に向かっている最中なのだ。
ちなみにカバーストーリーというのがこういった内容だ。短くシンプルに分りやすい。
『――アリオン博士は最新のモンスターの素材研究の先駆者として知られていた。昨日の大きな爆発があったのは既に周知の事実である。衛兵隊の関係者によると、あの爆発はアリオン博士が過って引き起こしてしまった不慮の爆発事故であると。さらにアリオン博士につながりのある関係者からは。「博士は未知のモンスターの素材を合成する為の実験をするとおっしゃっていました。まさか、このような結果で亡くなられてしまうのはとても残念に思います」と涙ながらに語ってくれた。ちなみにそのモンスターの名前についてはまだ未公表との事で、これからの科学の発展に大きな遅れが生じるのは間違いないであろう……』
「俺、そんな凄い人を手に掛けてしまったんだ……」
とてつもない罪悪感が心の中にある。でもあのままあの人を倒さなければもっと沢山の罪のない人達が犠牲になっていた。それどころか自然に暮らすモンスター達にも多大な影響が及んでいたとなると。アリオンを倒した当日に後から来てくれたみんなにそう切実に語ったら。
「ご主人。ありがとう。私達の生きる理由をそいつが勝手に思い通りに決める事が出来るような世界になるのを阻止してくれて」
「感謝しますわご主人様。サビちゃんと私達を含む多くのモンスター達を救ってくださって。あなたの行っていたユウシャという言葉。まさにその言葉通りのことをしてくださったのですから。誰も咎める必要は無いはずですわ」
「新人。辛かっただろうな。だが、時には捨ててはいけない選択肢がこれからの人生で多く出会うことになる。形や大きさは違えど、君の選ぶべき選択肢が結果的に多くの人類やモンスター達を救えた結果に繋がったんだ。とりあえず酒を一緒に飲みに行こう。続きの泣き言はいくらでも聞いてやるさ。とりあえず、お疲れさん」
「カリト君。君の優しさは誰にでも等しく伝わってきていると思うわ。どんな相手でも最後は慈しみをもつ。そういう心を博愛って言うのよきっと。大昔のご先祖様の時代に流行ったっていう博愛の騎士みたいに格好いいよ。あ、でも君の行っていたユウシャっていうのが今風なのかな???? 博愛の勇者っていうのはどうかしら!!!?」
みんな。凄く嬉しそうにしてくれていた。多分俺のやった事は間違っていなかったんだろう……。でも、この心の中にある痛みは何なんだ……?
俺は間違った人殺しをしてしまったのでないのか……? 俺は上辺だけで語るだけの人間だったのか……? 答えを見いだせないまま今日を迎えており、
「おう、その様子だと事件は解決したようだな」
「イリエ……」
「どうした? そこに座って話をしようぜ。今日はめでたい日だからな」
「めでたいだって?」
「ああ、そうだ。アリオンが死んでめでたい日だっていってるだろ?」
「どこがだよ」
グラス2つとブドウ酒のボトルを両手に俺と酒盛りをしようと、いつものソファーの席にランランとした気分で歩いてきた彼に思わず眉をひそめて言葉を返した。
「人が死んんだ事に喜んで酒盛りするのってそんなに嬉しいことなのか?」
「ひとつ。お前は大きな勘違いをしている」
「勘違いだと……?」
「ああ、そうだな。俺はあのアリオンを心の底から憎いと思っていたんだ。なんでかって? あいつはおやっさんを殺したグループのボスだったからだよ」
「……え」
「それは俺個人の話だ。今回。お前に渡した資料あるだろ? あれ全部、前からずっと追いかけて決死の覚悟で手にして調べ上げた資料だったんだよ。全ては無念に終わってしまったおやっさんへの恩返し。そして、お前と利害が一致すると思って手渡して、間接的にはなったが、お前に復讐を代行してもらったんだよ」
「な、なんでそんなことをさせたんだよ!!!?」
「……俺も最初はお前にやらせるつもりはなかった。だが、俺にそうするように言ってきたある人の言葉でやるしかないと思ったんだ」
「ある人? 誰だ?」
「その名を喋らない約束をしているから話せない。だが、1つ言えるのは。お前をいたく気に入っている女からの助言だったという事だけは言えるな」
そう後ろめたさを露骨にしながらも、イリエは恐怖に震えている。彼をそうさせる程の女とは誰なんだ……? ふと、
「なあ」
「なんだよ」
「ありがとうな」
「はっ?」
「男に二言はねえくらい分かれよ」
「いや、しらんがな」
「とりあえずこの酒を一緒に飲むぞ! 拒否はするな。これは俺からの詫びと感謝の印だからな!」
「えぇ……」
俺を強引に酒盛りに付き合わせてきたのであった。
「そういえばお前ってさ。王国の諜報組織の人間なんだよな?」
「どうしてその事をしってんだよ!!!?」
「お前をいたく気に入っている知り合いから教えて貰った」
「……ぁあ、なるほどな」
「調べがついているなら分かるだろ?」
「マンハントレディーか」
「そういうことになる」
と互いの正体を明かしあいながら、結果的に気づけば袂を分かち合える仲になっていった。俺は異世界で初めて男友達を作っていた。……こんな変わった野郎だが、なんだか気の合いそうな良い感じな男だ。これからも時折会いに行くことにしようと思いながら呑みに付き合うのであった。
「それで。君は病床に伏しているホワイエットちゃんをほったらかしにして男2人で酒盛りをしていたというわけなんだね?」
「お、おっしゃる通りですアルシェさん……」
それから俺はギルド支部に呼び出されて、アルシェさんと対面に座り話をしていた。なんで呼ばれたかは分かっているつもりだ。
「ホワイエットはこれからどうなるんですか……?」
「うむ。あの子は持てる力の許容範囲を超えて行使してしもうた。お主を思うあまりにわしの言いつけを破ってあのような大技を編み出して使ったのは大きな失敗じゃった。だが、それを否定することはわしはせんの。むしろ彼女の秘められた力がそこまでとは思いもしなかったのだから。要するにじゃ。わしの失態でもある。すまんかったの」
久しぶりに見たグリムは少し日焼けをしていた。どこかのバカンスにでも行っていたのだろうきっと。上座にある黒板を前にしてたつ彼女は俺に対して謝罪をしてきた。
「いえ、どのみちあのままだと負けていたと思います。ホワイエットが戦意喪失状態にあった俺を支えてくれた。それだけでも俺にとっては心から感謝しているんです」
「すこし成長したようじゃな。お主の経験して得てきた様々な事柄がそう喋らせようとしているのがよく分かる。これからもお主のモンスターテイマーとしての成長がより楽しみになってきたわい」
グリムがニッコリと笑みを浮かべている。俺もそれに答えて笑みを返した。
「ホワイエットは現状、完治まで1ヶ月は掛かるじゃろうな。二週間は眠り続けるはず。残りの半月はリハビリじゃの。安心せい。わしがつきっきりで看病してやるわい。こうみえて治癒の術は心得ておるからの」
「楽しそうに話しているところごめんね。今日の本題にはいらせてもらいたいかな」
「どうぞ」「うむ」
「ハンターサトナカ。ネメシスの長としての命令よ。君は有給休暇を不本意な形で使ってしまった。残りは半月しかないわけだ。どうだ。ここは1つ提案があるんだ」
「提案ですか……?」
「正確には取引でもある。この街にずっと居たいなら。3日後。この街を出て行って貰いたい」
「え……それって……」
「まだ話は終わっていないよ。君は大きな事をしでかした張本人だ。王国はこれをどうにか使用と躍起になっている。君にはほとぼりが冷めるまで街から出て行って貰いたいんだ」
「お、俺は兎も角。モンスター達は……」
「安心せい。そこはアルシェが根回しをして済んでおる。心配はせずによい」
「その、俺は街を仮に出たとして。その先は……」
いくあてがないんだ。ムラ様のいる村に帰るのも1つの手なのかもしれない。だけど、もし何かあった時に村の人達には迷惑をかけたくない……。すると、俺の考えを見透かしたかのようにアルシェさんが。
「大丈夫だよ。もうすでに君のいくあては用意してある」
といってニッコリと満面のスマイルを浮かべた後に。
「君はボルカノから300キロ離れた場所にある街に行ってもらいます」
「遠いですね……」
「そこが最も世界で安全だからじゃ」
「うん。そこはね。慣習ていうのかなー。王国の政治の力が及ばない治外法権の都市なんだよ。名前は学園都市『アテナ』。君の行くあてはアテナ!!!!」
「露骨なだじゃれに寒気を感じるがの……」
「俺もそう思います……」
「とりあえず君はその学園都市にある一流のテイマーを目指す学園に行ってもらいます!!!!」
かなり強引に話を進めいくアルシェさんのせいで驚きが半減してしまっった。……テイマー学園とは一体なんだ?
翌日。いつもの様にギルドの酒場に訪れて外食をしにやってきたのだが。
「あぁ、いたいた!」
「あ、あなたは」
「この間の酒場のお姉さんでーす」
「名前はたしか……ラミアさんでしたっけ?」
「ふふ、そうよー。あ、そういえば聞いたわよ。妹さん無事に見つかったって。おめでとう!」
やたらとテンションの高いラミアさんを見ながら俺は席に座ると。
「ねぇねぇ、ちょっとお願いがあるの」
「ん、なんです?」
キャピキャピとキャラを作って話しかけてくるラミアさん。なんだこの違和感は……?
「実はね。君の妹さん。サビちゃんに伝えて欲しいの」
「伝言ですか?」
「そうそう!!!! 実はね、つい最近ね。この酒場で一緒に働いていた女の子の3人が同時に止めちゃったのよぉ!!!!」
「うん、それで?」
「それでね私。サビちゃんと話をしていたのを思いだしてね。ダメ元っていうか。お誘いって言うか……」
「なんとなく言いたいことは分かりますよ」
「サビちゃんをうちの店で働かさせてらえないかしらぁ!!!?」t
――Nextstory!!!!
2章を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます!!!! 気づけば沢山の方に読んで頂けました!!!! 嬉しいです!!!!
いかがでしたか? 応援のコメントやメッセージなどお待ちしております! 次は3章です。テイマー学園に行くことになったサトナカと、人生初めてのバイトで大活躍するモンスター達のお話と内容がてんこ盛りとなっております!!!! やっと書けるんだこのお話が!!!!
というわけで次回の更新は12月12日になります!!!! 楽しみに待っていてくださいね!!!!
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