168話:【再会】貴族街『ベイ・カジノ』その23
「敵はどこまで来てるんだっ!」
「2階のあたりまで来ているらしいです!」
「わかった、俺はここの防衛につとめる。お前はアリオン様がいらっしゃる部屋の前で立って守りを固めろ」
「了解です!」
アサルトライフルで武装を固めている警備兵達の慌てぶりから察するに、どうやらレフィア先輩達の陽動は旨くいっているらしい。俺の方は……、
「あいつの後をつけてみるか」
上司に言いつけられて敬礼をするあの兵士に見つからないようについて行くことにしよう。ただ、
「隠れる場所がすくないな……」
通路が一直線にあるだけの廊下なので、こちらの気配に気づかれて後ろを振り向かれたときが怖いな。とりあえず移動を始めたのでサッと尾行を開始する。
「……ぁあ、今日が初仕事だったのに。まさかこんな役割を任されるだなんて」
若い声をしているな。俺よりは年上だろう。話の内容的に今日が初出勤だったらしい。悪かったな、今日がもしかしたらあんたの命日になるかもしれないのに。なお、俺は下手にあの男を傷つけたりはしない。気絶ですませられたらいいな。
「ん?」
「――っ」
「あれ、なんだろう? さっきガサって後ろから音が……、んんっ??」
しまった……、足下の床に敷かれているカーペットがキュ、キュ、と音を鳴らすとは思いもしなかった。どうする? とりあえず支柱の影に隠れてやり過ごせてはいるが、
「気のせいか」
「……ふぅ」
勘違いだと思い込んだみたいでよかった。少し顔をのぞかせて様子を覗うと、兵士はそのまま真っ直ぐに行き、T字路を左に曲がって行った。俺もそれに倣って後に続いて進むと。
「ん?」
どうやら少し先の部屋の前に立ち止まって立哨を始めたようだ。すると、あそこがアリオンがいるという事になるのか? とりあえず確かめてみることにしようと思い、俺はスキャットライフル弾倉を抜き取って、青みがかった弾倉を取り出して差し替えた。
「うん、これであいつは1日くらいは寝るだろうな」
俺が差し入れ変えたのは人間専用の麻酔弾だ。中には麻酔作用のある薬草やモンスターの毒液が混ぜ込まれている。どれも全部がグリムのレシピで出来ている。どうもこういった弾薬はモンスターテイマーでしか作ることができないらしく。現存する弾薬は表裏問わずに秘宝品として高値で売り買いされているんだとか。
「一応、注射器作って俺が実験台になって試して成功したんだ」
という事でさっそくあの兵士にはもう夜遅くなので眠って貰うことにしよう。さっと銃を構えて狙いを定めて引き金を引いた。
「――うっ!?」
一瞬の痛みに驚き辺りを見回すも、直ぐに薬品の効力が働いて兵士はその場で崩れ落ちて眠りについた。直ぐにその男の元へ近付いて、ふとある事を閃いてしまった。
「どうせ1日ずっと寝てるんだし。その服。借りるぞ」
「ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ」
良い感じに麻酔が効いているな。これなら何されても感覚はないだろうし気づかないだろう。というわけで、
「ふぅ、意外と暑苦しいなこれ」
眠っている兵士にはパンツ1丁になってもらって、俺はその服を着て変装することにした。腹壊すなよ? っと、だけは心配しておく。
「よし、いくか」
スキャットライフルを手にそのまま立哨で守られていた部屋にはいった。すると、
「ん、なんだ?」
「…………」
夜に輝く月明かりにが差し込む大窓がいくつもある大部屋。謁見室のようだ。暗い天井は何処までも高く、目測では15メートルはあるだろう。そして謁見室の部屋の中央にある、豪華な装飾が施されているソファーに足を組んでグラスを片手にくつろぐ燕尾服姿の初老の男がおり、俺はそいつに対して、
「お前がアリオンか」
と問い掛けると同時にマスクを脱ぎとって睨み付けた。すると拍子抜けた顔をして初老の男は、
「はっ、ははっ! これは驚いた。兵士に偽装してここまできたのかモンスターテイマー。いや、サトナカ カリト!」
「……俺の名前を知っているだと?」
「ああ、そうだとも。私は公爵でこの街を統治する領主だ。知っていて当然のことだろう」
「……確かにな。だが、俺のチートを何故しっている?」
「チート? なんだそれは? まぁよい。知っていたとも。国の諜報機関を使えばいくらでも手に入るものさ」
「…………」
その諜報機関にすこし覚えがある。まさか……イリエが……?
「どうした? なぜ黙り込む」
「ホワイエットはどこにいる?」
「ほう、あの子はホワイエットと言うのか。私から何度も問い掛けても強情に答えたがらず手を焼いていたのだが。やっと主人のお前の口から聞けるとはな。まぁ、じきにわしが主人になるがの」
しまった……。ホワイエット。お前そこまでして自分を守ろうとしていたのかよ。ごめん。てか、じきにだって……?
「便宜上面倒だから教えてやったに過ぎない。さぁ、どこにいるんだ! さもないと」
俺は銃を構えて狙いをアリオンの頭に定めた。すると、
「ふっ、ふっ、ふっ、いいぞ。ほら、直ぐ後ろにいるぞ」
「はっ?」
何を言っているんだこいつと思った瞬間。
『ゴシュジンミツケタ』
背後から、正確には声につられて振り向いた前方に、
「がっ――はぁっ!!!?」
目を光らせ、竜人型の異形の姿をした何者かが、俺に爪を立てて襲い掛かり、それをもろに受けて、俺は激痛を感じながら勢いよく後ろへと吹き飛ばされてしまった。
「あぁ……いだいぃっ……!!!!」
なんだよ。どういうことなんだよ!!!? 俺は攻撃を受けた箇所を手で触れてみた。すると手にはべっとりとした暖かい液体が付着していて、
「血……うそだろ……っ!!!?」
胴体から出血している事に気づいて驚愕した。ふと、背後で高笑いをするアリオンの声が聞こえてきて。
「あぁあはっはっはっはぁ!!!! 実に最高だっ!!!!」
「あぁりぃおぉぉぉんっ!!!!」
「喘げ、苦しめ、その声がわしの酒の肴となるのだ!!!! ほら、もっと再開を喜びかみしめるんだなぁ!!!!」
「さ、再会だと……?」
すると、
『ゴシュジンオイシイ……モットソレガホシイ……』
俺は絶望した。分ったのだ。俺を襲った何者かが。
月明かりの影から竜の右足が出てきて、それの後に人間の白い肌の左足が見えてきて、それが誰の足なのか直ぐに分った。
「ホワイ……エット……?」
お風呂でいつも見てきたあの幼い足。あぁ、なるほど……。
「ははっ……嘘だろ……? なんで……?」
俺の前に現れたのは異形の姿をしたホワイエットだった。
『オナカスイタ。ゴシュジンモットタベタイ』
竜人の身体と人間の身体が左右半分に合わさった体躯に、乱れてゴワゴワとしている白髪の頭部には2本の金のツノが生えていて、赤い目に、竜と人間の顔が混ざり合った顔つきをしている。
「どうしてそんな姿をしているんだよぉおおおおおおっ!!!?」
血にまみれた口元が笑っている。
――ご主人様!
『ゴシュジンサマ』
「止めろぉ!! やめてくれぇ……」
俺は悲しみのあまりに涙を流した。そして着ていた服からいつもの制服に着替え、腰元のポシェットから、回復薬の詰まった瓶を取り出して、口につけて一気に飲み干す。
「ぐっ!!!?」
胴体の傷と痛みが一気に癒えていくのを感じて思わずビックリする。ふと、
「やはり、そういうことか」
「……なんだと?」
「その黒服。ネメシスの物で間違いないな。となると、お前をここに寄越したのはあの隠居者の差し金か」
「はぁ? 隠居者の差し金だって? 俺は自分の意思でここまで来たんだ」
「違うな」
「はぁ?」
「わかっているだろ? ここまで自分の意思と言っているが。少なからずあやつの意思が働いてこのようになったということを分らぬのか?」
「お前の言いたいことがさっぱり分らん」
「ふん、その程度の男ということだな。話にならん。さて、そろそろ悲劇も見飽きたわけだ。さっさとそこで可愛い姿になったモンスターに食い殺される結末を迎えてハッピーエンドにしよう。やれ、ホワイエットちゃん。大好きなご主人様が目の前におるぞ」
『オイシソウッ!!!!』
口からよだれを垂らしてこちらを見てくる異形の姿のホワイエット。俺が……餌だというのか……?
「ホワイエットに何をしたんだ……!!!!」
アリオンに顔を振り向いて問い掛けると、不気味な笑みを浮かべて、
「貴様は魔薬をしっているか? これをあの子にプレゼントしてやったのだ。まぁ、研究対象としては興味深いのだが、如何せんこっちの言うことを聞かないゴミだ。ゴミはゴミらしく正しい使い方をしないと価値がない。まぁいろいろと身体を検めさせてもらったなぁ……!!!!」
「このクソやろぉおおおおおお!!!!」
「ほら、わしに構ってると後ろ首を掻かれるぞぉ!」
「――くそっ!!!!」
どうすれば良いんだよっ!!!?
2日更新が空いて申し訳ございません。おとといから痛風発作による激痛で床に伏しておりました。いまは小康状態ですが、予断を許せない状況です(まじで死ぬかとおもった……)。とりあえず今は書けるので書いております。完治におそらく1週間程度はかかりそうですが、山場を越えたので明日も予定通り更新いたします。寝てても暇なので1日何回かは書くつもりでおります。
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