164話:【再起】貴族街『ベイ・カジノ』その19
俺は決意した。癒やしの歌声で完全に体調を取り戻した。あとは己の力と仲間の力を合わせてホワイエットを助け出すだけだ。当初の作戦内容とは大幅に状況が変わってしまった。だがそれでもやることに変りはない!
「準備はいいかリリィ」
「うん、かっこいい」
「その様子だと大丈夫そうだな」
「だよー。凜々しい姿のカリト君素敵!」
お互いに衣服を整え、装備も完全武装の状態で済ませている。もうここでコソコソとステルスをするつもりは無い。感情共有のおかげで、ホワイエットが近くにいるのを強く感じる。もう俺はここまで来たんだ。ひくわけにはいかない。
「ありがとうリリィ。じゃぁ行くか。ホワイエットのいる場所へ」
「分るの? それもコネクトの力なのかな?」
「ええ、分ります」
あれからホワイエットに感情共有で何度か交信を試みたが、その度にモヤモヤとした何かが伝わってくるだけなのと、豪華で大きなやしきホワイエットが見た俺を導いてくれているのだ。
――ハヤクアイタイ。
「ホワイエットが俺に感情共有で自分の居場所を教えてくれているんだ。早く会いたい。その言葉と一緒に俺に伝えてきているんだ」
「レフィア達のゼセウスの追跡は無駄になるのかな?」
「いえ、それはそれだと思う」
「というと?」
全員でホワイエットを迎え入れたいんだ。誰かが先に訪れるわけじゃなくて。レフィア先輩、サンデー、ホワイエットが揃ってこそ意味があるんだ。
「全員でホワイエットと会いたいんだ。それに、ゼセウスを追跡することで何かの情報を手にすることもできるはずだ。無駄じゃないとは思う」
「確かに……そうよね……ごめんね。そこまで考えていなかったわ」
「大丈夫だ。じゃあ、行こうホワイエットの元へ」
「場所はどこ?」
ホワイエットが指し示してきた場所。
「この貴族街で一番大きな屋敷だな。そこにホワイエットがいるのを感じる」
「この貴族街で大きな屋敷……」
リリィが顎に手をあてがい思案する仕草をみせる。
「それって……このボルカノを統治する貴族の屋敷よ……。名前は……アリオン・ルー・ドワール三世。この街ではアリオン博士って呼ばれているわ。この街の領主であり、王立学者ギルドのナンバー3に君臨する男よ……」
えっ!!!?
「俺は今からその偉い貴族と対峙してホワイエットを救出する事に……」
「そう、なるわね……。下手をすれば即時死罪で殺される特権階級の人間と相手をすることになるわね……」
「…………」
異世界に来て一番死の覚悟を必要とする瞬間に立たされている。だが、俺はそれでも精一杯に生きる事を選ぶことにした。
「ここでホワイエットを見捨てるわけにはいかない。偉いからなんだ? そんなの知るか。俺にはそんな事よりも、泣いて悲しんで俺を待っている一人のモンスターの方が大事なんだ」
「カリト君……」
俺の言葉と表情に何を感じ取ったのだろう。リリィは少し悲しそうな表情から寂しげな表情を浮かび上がらせた後に、
「約束して」
「ん?」
「死ぬときは私も側に居させて欲しい」
取り繕った笑みをもってそう話してきた。それはつまり。
「死ぬときは一緒だリリィ。ただ、そうならないように俺も君の事を守るから」
男としてやるべき事をやるしかないのだと。するとリリィが目を擦る仕草で涙を拭き取り。
「キスしてもいい?」
「ああ」
前置きなんて短かった。俺とリリィは互いに顔を向き合って視線を交し合い、そのまま目を閉じて抱きしめ合って唇を深く重ね合わせた。
お互いに愛を感じあい、しばらくして互いに距離を取り、
「続きは戦い後が終わってからにしよう」
「うん……」
俺はそう短く彼女に伝えてアリオンの屋敷へと向かうことにした。
本日の更新は午前を予定しておりましたが、体調を考慮しましてこの時間での更新とさせていただきました。すみません。
明日の更新は午後からになります。よろしくお願いします。
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