162話:【再起を目指して】貴族街『ベイ・カジノ』その18
――カリト君。起きてる?
優しい歌声に落ち着いて眠っていると、リリィ先輩の声が歌と共に聞こえてきた。
「……はい。夢を見ていたところです」
――ふふっ、ごめんね。良い夢の邪魔をしてしまって。
「大丈夫ですよ。どうせ見ていた夢。くだらない悪夢だったので」
――悪夢? 聞かない方がいい?
「いえ、むしろ言ったほうが気が晴れそうかもしれません」
俺はリリィ先輩。今だけは恋人のリリィに自分の思いを伝えようと思って、
「覚えてます全部。俺がレフィア先輩の言うアロゲンス・ハックスっていう力でゼセウスに精神を乗っ取られていたっていうの。弱いって言われてショックだったんですけど。その時にほぼ無意識に何も感じること無く自分を奪われてしまいまして。悔しいですよ。モンスターテイマーである俺が、こうもずる賢い小手先の術中に嵌まって、そしてそのままレフィア先輩やサンデーやサビに危害を加えてしまったのですから」
――レフィアは特に気にもしてなかったわ。今頃はモンスターの2人と一緒にゼセウス達レアハンターズの追跡をしているはず。あるいはホワイエットちゃんの捜索。いよいよだね。カリト君のコネクトの力でホワイエットちゃんと繋がることが出来たんだから。
「あれは奇跡的な現象でした。いま語りかけても彼女から何も返事が返ってこない。あのままホワイエットが俺の精神に介入してこなかったら大惨事だったのは間違いないし」
――うん。分るよその気持ち。責任を強く感じているのかな?
「……えぇ、そうです。とても後悔しています。土下座でも何でもして許されるなら今にでもしたいくらい、俺は凄く申し訳ない気分でいるんです」
俺にもっとゼセウスの支配から自分を守れる力が元々あったら良かったのに。そう思うだけでも他人事に感じて精神の均衡を保とうとしている自分がいて、逆にその力を欲している自分もいる。
「もうそろそろ起きてもいいですか?」
長く眠っていた気もする。そろそろ起きなければ。するとリリィが、
――もう少しこのままでいさせて欲しい。今の君を連れて行きたくは無いから。
「どうしてです?」
――分らないの? あなた普通の人なら精神を乗っ取られただけでも、悲観して自殺するような闇の力、邪神賦の力を受けてしまったんだよ。今はこうして私が『癒やしの歌声』で君の心と身体を集中的に直してあげてどうにか小康状態を保っているのに、それでも無理して戦おうと考えているわけなの? ……少しでも私の気持ちを考えてよ。
「それは……」
リリィの口から発せられる言葉に重みや自分の気持ちが強く伝わってくる。そして今の俺は集中治療室《ICU》で療養しないといけないレベルの身体らしい。正直に言って実感がない。
――どうなのカリト君? 聞かせてあなたの今の気持ちを。
今の気持ちをって聞かれてもなあ……。直ぐに考えついていいものなのだろうか……? なんか結構大事な話をしてきているんだし。適当な事を言ってられないしな……。なので。
「リリィ。ごめん、今は君には話せない。もう少しだけ考えさせてほしい。今の状況で答えろって言われても無理だ」
と返事をしたら。
――……カリト君のバカ。そういうのはボキャブラリーが貧困な人がよく使う逃げの言葉よ。何も考えてなかったって言っているような言葉じゃ無いの……たく……。
「マジだよ。俺だって直ぐにリリィに良いたいさ。でもさ……うん……」
素直には言えない俺の気持ち。旨く言葉に表せないもどかしさがある。
俺はリリィを悲しませたくなかった。だからここは一つ提案をして折衝を試みることに。
「あのさリリィ。もしアレだ。俺の身体が万全じゃ無くてもある程度動けるようになったらで良いからさ。また声かけて起こしてくれ」
――それってつまり、今は動かない事にするって言いたいの?
「……本音は今にでもレアハンターズやゼセウスを追いかけてぶっ殺してやりたい。でもよ。リリィが俺の看病をしてくれているのに、傷病者の俺の我が儘でリリィの努力を水の泡には出来そうに無いって。それにさっきのリリィが言ってくれた自分の今思っている気持ち。それで気づいたって言うかその……」
――……ふぅ、わかった。君の身体を治癒するのには骨の折れる作業だけど。こうして私が独占できているし。もう少しだけ君を膝枕してあげられるならそれでいいわ。
「え、俺。膝枕されてるの?」
なんでこんな時に幸せが訪れるのかなぁっ!? 凄く気に入らない話だってば!!!? ……まぁ、いいか。また今度にでもお願いしてみることにしよう……くそぉ……!!!!
次回の更新は19時ころを予定しております。よろしくお願いします。今日から仕事が3日休みになるので思いっきり頑張って更新してみまーす。
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