158話:【対峙】貴族街『ベイ・カジノ』その14
「ひょ、ひょ、ひょ、はやくやらせろよ兄者!」
「弟者。末のお前が手を出すのはまだだ。長男の俺が指示を出すまで待て」
「兄者。次男の俺様が最初に先陣を切らせてくれ。いつも通りのことさ」
左から三男、次男、長男の組で並ぶレアハンターズを名乗る3人兄弟の男達。ひょ、ひょ、ひょ、と独特な口癖をもつのは三男だ。フードと布で口元を隠しているのでどんな顔なのかは分らないが、とても愉快だと思って俺達を見下している感じ的に、きっと極悪な陰キャ顔の人間なのだろう。口ぶりもそうだが、態度からもにじみ出ているあたり、元そっちの毛のあった俺でもさすがに生理的に無理を感じるな。
「相手を見誤るような事はするなよ」
「へへ、あぁ、そんな事当たり前だぜ? いつもの様にかるーく済ませば良いんだよ」
長男と次男の会話を聞く限り、相手はこちらの戦力を下に見ていると思われる。だが俺達もそれを間に受け手はならない気がした。もしかするとこの一連の会話は相手を油断させる為の罠なのかもしれないから。そして動きが――
「じゃあ早速兄者。次男の俺様が遣らせて貰うぜ」
――すかさず俺達も臨戦態勢に入る。相手の動きをよく見て、そしてこちらに被害が無いように立ち回るためにも、初動の動きをこちら側の有利にしていきたい。
戦いは前触れも無く起きた。
――パスッ。
消音器によってかき消された拳銃の銃声が広場に鳴る。狙われたこちらの3人の内、誰かが撃たれることになる。
『グルルッ!!』
「サンデー!」
最初に次男の凶弾の餌食として狙われたのはサンデーだった。だが、彼女の反射神経は、俺のモンスターテイマーの力の作用によって倍に研ぎ澄まされていたようで、
『ガアアアアアアッ!!』
怒りの声で場を震わせ、彼女は片足をダンと強くならして、厚い砂の壁を目の前に作り上げた。銃弾は彼女にぶち当たること無く、砂の壁に阻まれた事で、少しめり込むだけで終わり、そのまま重力にひかれて地面へカランと転がり落ちた。それを目の前に驚愕の表情を浮かべた次男はというと、
「……ははっ! こいつはおもしれえ!! 兄者っ、これは普通にモンスターを狩るより数倍も楽しい戦いになりそうだぞ!!」
「兄者兄者兄者っ!!!! 俺もう我慢出来ない――っ!!!!」
2人の兄達の返答を待たずに、三男の男がナイフを両手に素早くこっちへ向かって走ってきた。あの男の走る軌道を感情共有を通じて彼女達に情報共有する。そして、狙われているのは誰か?――もうそれは分りきった事で。なるほど、サビ。お前も分っていたのか。
『サンデーをカバーしますわ』
頭の中に響く彼女の声。それに応じて俺は指示を出すことに。
「サンデー! そのまま砂の壁を横一杯まで形成――あー、とりあえず作ってみてくれ!!」
『グルルル』
難しい言葉を使わずに指示を伝える。念の為に俺のイメージを彼女にアウトプットで共有。なるほど!――この能力はこういう使い方があったのか。なんだか今の俺、今までの中で一番冴えてるぞ!!
「ひゃひゃひゃ!!!! 俺様を興奮させてくれたお礼だぁーーーーー!!!!」
「すぅ――サビ、サンデーを援護だ!!」
『ガウゥ!!!!』
「うひょっ!」
くそ、俺の声に合わせてサビの動きも読んでいたか……!!――三男は俺達の反撃に遭わせて、腰元から煙幕玉を取り出して地面に投げつけたのだ。白煙を不意に吸い込んで咳き込んでしまう自分。すると感情共有でサビが、
『鼻がムズムズするのと、視界がうまくききませんわ……!』
自身にかかっているデバフを俺に報告してきた。手練れだ。相手はサンダービーストを相手するのに、何が効果的なのか知った上で立ち回ってきている。俺はすかさず秒を争う中で対抗策に転じる事に。
「サンデー! バインドブレスだ!!!!」
『グル、スゥ――ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
――ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
吹き荒れるジェット気流を思わせる突風が場に吹き荒れ、俺達に纏わり付く白煙は風と共に散って消え去り、白煙に身を潜めていた三男の姿が露呈する。奴はサンデーの壁を軽々と乗り越えて頂上に立ち、こちらの様子を覗ってニヤリ、目元を形作って笑っていた。
「ひょー、これは手強そーな奴らじゃねぇかははっ!! いいね、いいね、いいね、って笑いたくなるほどに最高のシチュエーションバトルじゃないかぁーーーー!!!!」
天を仰ぐように顔を上げて狂喜する三男に思わず嫌気がさす。おそらくあの隙にこちらが銃を撃っても避けられそうな気がした。別に臆病になっているわけじゃない。少し焦りを感じているんだ。
不死身の敵を相手にしているわけじゃないけど、恐怖が俺の足下に忍び寄って縛り付けてくる感覚がある。ふとサビが、
『ガウガウッ――!!』
「おっ、なんだ――」
俺の命令を受ける事無く、独断で三男のいる頂上にまで素早く壁走りで登り詰めて、
『こいつは許さない。止めないでご主人様。ここは私が決着をつけますわ……!!』
「や、やめるんだサビ!!」
自分が三男を相手に決着をつけると言い出した。それに思わず彼女の元へ登って引き下がらそうと思ったのだが。
「くそっ、それだとサンデーのカバーが出来なくなるな……!!」
俺が登って行った隙に、下の2人がサンデーに襲い掛かるリスクが目に見えてあるので、動きたくても動けそうに無い状況だ。どうする俺!?
「ひょ、ひょ、ひょ、まずは1匹が戦いの壇上に立って俺様の得物に」
『ガウ、グルルル!!!!』
なん……だって……?――いまの言葉を思い返すと。
『こいつから同じ仲間の臭いがしますわ……! それも死臭が。同族の恨みをここではらさせて……!!』
「サビ……お前……」
彼女が独断で三男の前に対峙した理由が分った。……なら俺は彼女の気持ちに応えてあげるべきか。
「死ぬな……!!」
その言葉を掛けると共に彼女に願った。生きて勝てと。すると、
『当たり前ですわよ。まだ書きたい絵が沢山あるのですから』
彼女の言葉に俺も勇気づけられてしまった。そうだな。俺もまだやりたい事が沢山あるからな。そして俺は分った。
「こいつらは生きてはいけない相手だ」
俺はモンスターテイマーとして、今やらないといけないことを見いだした。
「サンデー。目の前の砂の壁は自力で崩せるか?」
『あとちょっとしたら崩れると思うぞ』
「そっか、なるほど」
ならそれまでの間はサビに三男の相手をしてもらう事になるわけだな。それを踏まえて。
「もしかしてその場から離れても壁は崩れたりしないのか?」
「んー、少し歩いて離れたら多分なだれ落ちる感じに崩れると思うぞ、あっなるほど!」
壁を形成する間はサンデーは身動きがとれない。これは今さっきまで分っていた事だ。ふと上の方で、
『グォオオオオオオオオオオオン!!!!』
「おっと、やっかいな事をしてくれるじゃん」
サビが身体に電気を身に纏い始めていた。バチバチと体中を張り巡る青白く光る電流が彼女の力を増幅させ続けている。それに対して三男の動きに少し乱れが生じている。接近戦で近付けば電気の力で返り討ちにあうと察したのだろう。だが、今の状態だと奴の携行する拳銃も無意味な鉄の塊と化している。つまり。
「はぁ、これだからサンダービーストを狩るときはいつも面倒なんだよ。やーめた」
ナイフを腰にしまい込み、三男は両手を上げてぷらぷらと振って降参といった感じの態度を露わにした。勝ち目がないと思ったのだろう。だがサビは、
『グォオオオオオオオオオオオン!!!!』
奴のとる行動など構うこと無く接近戦を仕掛ける。だが三男の身体がゆらりと動いて、
「おめーは丸腰相手の人間にも容赦なく襲い掛かってくるのかよぉ、オラァッ!!」
『アゥッ!?』
「サビっ!!!?」
蹴り上げた右足のつま先がサビの顎に直撃する。サビは三男のカウンター攻撃を受け、更に運悪く半魔化の変身時間が過ぎてしまい、彼女は俺達の上に飛ばされたままこちらへ転落。
「サンデー! サビを助けるんだ!!」
『おう、まかせろ!!』
砂の壁がなだれ落ち始めると共に、サンデーは落ちてくるサビに向かって跳躍し、足場が崩れるのを感じた三男は地面に落ちていくサビにめがけて飛び降りてきた。
「サビを奪われてたまるか!!!!」
俺は両手にするスキャットライフルを構えて、三男がサビを奪うことを阻止する為に引き金を引く。
「うひょっ! あっぶねぇなぁ!」
「くっ、ダメなのか……!」
三男の落下する軌道がそれることは無かった。奴は手に隠し持っていたナイフを抜き出して、そのまま俺の放った銃弾を受け流してしまった。
『やらせるか、うぉおおおおおおおおおお!!!!』
サンデーのバインドブレスが三男に向けて放たれる。今度は周囲に舞い散る砂が混じり、サンドブレスへとその攻撃内容は変化する。そして、
「余計な事を――ぐっ!!」
「よしっ、そのままサビをこっちへ持ってくるんだ……!!」
サンデーの機転の活かした反撃が功を成して無事にサビを助けることができた。ぐったりとしているサビを抱えたまま彼女は俺達の元へと降り立つ。
「大通りに逃げ込むぞ……!!」
そうサンデーに告げた直後。
「ひょ、ひょ、ひょ、さっきの攻撃は実にいい判断だったと思うぜぇ?」
「――っ、だめか!」
砂山の上に三男の姿があり、更にその横には次男と長男が横にならんで俺達を見下げてきている。これってもしかして絶体絶命なんじゃ……。
「威勢のいい割には弱いなお前ら。過去に現れた歴代のモンスターテイマーは文献上では人類史上最強の存在と目されていた筈だ。だが、お前を見ていると大したこともない様子。なるほど、まだ貴様の中にあるモンスターテイマーの力は未熟なようだな」
「ひょ、ひょ、ひょ、言っただろ兄者? 俺だけで充分だって」
「ふっ、そのようだったなゼセウス」
ゼセウス……え、ゼセウスだって!?
「お、お前がゼセウス……だと?」
あのときロウニン商会で教えられた情報と食い違っているじゃないか!? 一体どういうことなんだっ!? まさか虚偽の情報を、いや、リリィ先輩がミスを犯すはずが無い! だったら一体……。
「あぁ、そうさ。うひょっ。初めましてだなぁモンスターテイマーのお坊ちゃん。いいや、クソ弱すぎてまともにモンスターを操ることの出来ていない雑魚のお坊ちゃんってな、ぎゃははははっ!!!!」
俺が……雑魚だって……?――その言葉を受けて頭が真っ白になった。
「よせ、無駄な時間だ。これで大体の実力を図ることはできた。そろそろ潮時のようだ」
「兄者、あれは……不味いな……。どうやら騒ぎを嗅ぎつけてしまったらしいぜ? どうする? マンハントレディーとバトルするのか?」
「隣にいる女は誰だ?」
「なんかいい女だぜ? 連れて帰ってすることしちまうか、へへっ」
「……止めておけ。俺の勘だが、あれは連れて帰ると不味いな……」
「兄者の勘は冴えるからなぁ。仕方がねぇ、名残惜しいがここらで撤退するか」
「ひょ、ひょ、ひょ、あばよ雑魚のお坊ちゃん。兄者達の情けに感謝するんだな。せぇぜぇ指をくわえてお嬢ちゃんの無垢が汚れていくのを想像しながら帰りを待つんだなぁ。あっ、今頃はこの国のお偉いさんの慰み者になっているかもなぁ、ぎゃはははははっ!!!!」
『グガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
頭が真っ白でぼーっとしていた事に気がつくと、目の前でサンデーが立ち去ろうとする三兄弟に追い打ちを掛けていた。だが、それら全てをことごとく交していき、奴らは煙幕玉を焚いて姿を消してしまった。
煙が晴れると共に、
「嘘だそんな事ぉ!!!!」
「ご主人……」
俺は人生で初めて敗北を知った。
11月23日の更新は午後になります。よろしくお願いします。
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