表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/402

147話:貴族街『ベイ・カジノ』その3

 さて、といった感じにレフィア先輩は裏路地の片隅にある袋小路にて、壁を背に俺達を前にして柔和な笑みを浮かべながら腕を組みつつ。


「まさかこんな形で会うのはちょっとビックリしたけど。アルシェさんから言われて後をつけてみたら面白そうな事になっているわね」


 と話を始めた。いったい彼女にとって何が面白いのかは分らないが。とりあえず聞いてみないと分らないので。


「レフィア先輩。この前俺と協力するの拒んでいたじゃ無いですか。アルシェさんからは聞いたからまだアレですけど。これって単独での行動だったりします?」

「さっきも言ったでしょ。世話のかかる後輩達だって。あなた達でこれ以上首を突っ込ませたらとんでもない事になるから。ここからは私も協力してあげようと思った訳よ」

「要するにレフィアは直属の後輩のカリト君の面倒をほったらかしにしていたからアルシェさんに怒られたんでしょ? 挙げ句の果てにカリト君が大事にしていた非殺の考えをねじ曲げようとして、上手くいかなかったからさじ投げて単独行動でホワイエットちゃんの捜索をしていた。それで今はどういう風の吹き回しでこんなに近寄ってきたわけ?」


 リリィ先輩のレフィア先輩に対する接し方に棘が感じられる。するとそれを受けてレフィア先輩は表情を何1つ変えずに、


「今から潜入しようとした場所が何処か分っているかしら? 到底あなた達で中に入って活動出来るような場所じゃないわよ」

「それとコレとは話が違うわよレフィア。カリト君がその時に悩んで感じた気持ち。あなた分っているの?」

「ええ、分らなくも無いわ。私も初めて人を銃で殺したときは同じ気持ちになって悩み続けていたわ。でもね。それを踏まえて君には知ってもらいたかったのよ。必ず人を銃で撃っても殺さずに済む方法は100パーセントあるわけが無いと。当たり所が悪ければ命を奪うこともあり得るって。言葉で説明するよりもまず貴方には人を殺して感じて貰いたかった。それに。新人が関わった相手が何者か。あなたは分っていたのかしら?」

「人畜無害な探偵ですよね?」

「はぁ……。だから詰めの甘い男って私の評価の中で揺れ動かないのよ」

「え、それってどういう事なんです?」


 俺のレフィア先輩の中にある評価はともかく。いや、ネガティブな評価なのには変わらいからグサッとくるものがあるが。イリエの何を彼女は知っているんだろうか?


「あいつは裏では名の知れた諜報員よ。私でも所属組織は調べきれずに歯痒い思いをしているけれど。それとそこにいるサビをスカウトしてたはずよね? こっそり影であんたを監視させて貰っていたから知っているわ。あいつ惚れたとかホラ吹いて新人の心に隙入っていたけれど。諜報の他にも将来的に役に立つ協力者をリクルートする仕事も組織から任されているのよあいつは」

「つまりスパイ活動しながら人事の仕事もしていると……?」

「ええ、大雑把に解釈すればそうなるわね。まぁ、その男の先代はもっとヤバイ奴だったけれどね」


 イリエがおやっさんと言って慕ってた人の事か? どんな奴だったんだろう。


「でもその男は2年前の事故で亡くなったから。今はあの事務所にいるのは彼だけね。全盛期にはもっと人が居たけれど。残念ながらあの性格が足かせになって。いまは1人で諜報活動をしているのよ」

「それを踏まえて俺に何が仰りたいのですか?」


 彼女の言いたいことや、その意図が読み取れずにいる自分。すると、


「色々思うところはあるけれど。ネメシスの存在をそいつに知られてはいけなかった。そして始末をしてくれればこちらの利益にもなった。どういう理由かは言わないわ。まだ入りたての新人に言い聞かせるレベルの情報じゃないし。あ、リリィ。ぜったいにあれ関する情報をそいつに喋んないでよね。下手をすれば今後の別任務に支障をきたす事になりかねないから。今は彼の任務に集中するのよ」

「……ええ、そうねレフィア」

「リリィ先輩……」

「気にしないでカリト君。彼女の言っている事はあっている所もあるし。間違っている事や疑問に思う事もある。でも、それを踏まえて今は彼女の話を受け入れてあげて頂戴……」


 同調すること。そう思わせるニュアンスを感じ取り、俺はその場で何も言わずにこくっと頷いた。不本意な所もある。俺は人を殺してまで銃を使いたくない。この仕事をしているのはあくまで自分の好きなモンスターを悪意で汚す悪人を成敗する為の手段として銃を使っているに過ぎない。


「わかりました。では今までの事は水に流せば良いんですよねレフィア先輩?」

「そう思うのは貴方に任せるわ。私は私の置かれた立場と考えからそうしたまでに過ぎない。本当ならあなたに汚れた手段をさせるような事はしたくはなかった。でも組織にいる以上。私は私情を挟むような仕事はしないと決めているから。だから今ならこの気持ちを伝えられるわね」


 といってレフィア先輩は腕を組む仕草を止めてピシッと直立不動になり、


「ごめんね新人。私の指導不足であなたを傷つけて。これからは君の気持ちも出来るだけ尊重するようには心がけるから」


 そのまま頭を下げて俺に謝罪をしてきた。


「いえ、俺も銃を持って人に向けている立場なんで。正直に言って人を殺さないでどうにかしたいというのは正直難しくて矛盾した考えなのかもしれないです。でも、これだけは言わせてください」


 この時だからレフィア先輩に言える言葉だと思って。


「俺の感じた苦痛は二度と癒えることなく残ります。だから、レフィア先輩もその立場にいたならもっと早く未然に防いで欲しかったです」

「…………」


 沈黙の瞬間と場に流れるヒヤッとした感触の空気を肌で感じながら、俺はじっとレフィア先輩の事を見つめる。彼女が俺の言葉を聞いてどう思っているか。一抹の不安と変えてくる言葉に内心ビビりながら答えを待つ。


「なに黙っているのレフィア。カリト君が待っているわよ」


 リリィ先輩が一向に返事を返さないレフィア先輩の姿にイラッときたのか、そう彼女に話しかけ来た。するとレフィア先輩は顔を上げ、


「唐突でアレだけど。私は君の事を結構な感じに期待しているんだ。新人がどう悩み。どう考え。どう思って行動するのか。私はずっと君の後ろ姿を見ていたいと思う。先輩から後輩に対する愛情の証。そうひとくくりにするのも楽になれるが。そんな間柄には出来ない物があると思っている。だからこそ私は君の事をずっと見続けていたいんだ」


 凜とした言葉の似合う表情でそう俺に思いを伝えてきた。するとリリィ先輩が。


「要するに仲直りがしたいから遠回しに当たり障りない事をいってニュアンスで感じでもらいたいわけね。まったく不器用な先輩をもつとこっちが大変だわ」

「う、うるさいリリィ! 私だって自分の思うままに仕事がしたいわよ。ただ、こう新人の初々しさがちょっと羨ましいっていうか。ああ、もう面倒だわ!」


 何かよく分からないが、多分一部の人にしか分らない彼女の話しだと思うけど。


「そのレフィア先輩。これからも俺達の事をよろしくお願いしますね」

「ふん。こんど迷惑な事をしてきたら容赦はしないから覚悟しておきなさい」

「はい。まぁ、その時はお手柔らかに願いますね」


 まあ、その。ちょっと複雑な人間関係を初めて体験した身としては良い勉強になったと思っておこう。そう頭のなかで思いながら俺は明るい流れを呼び込む話題を持ち込んでみてみようと思い、この場にいる全員に、


「とりあえず色々とありますけど。その、こうして出会えたので一緒に同じ目的で動いている訳なので――」


 と話しはじめて間を置き。


「残された時間は少ないと思うけど。ホワイエットを絶対に救いましょう。そしてこんなふざけた悪意を振りまいた悪人達をこの手で成敗していきましょう。彼らがどんな罪を犯してきたのかを自覚させる為にも」


 俺の正義に準じてこの場に居る全員にそう伝えた。反面だけどあまり明るい話じゃ無い気もするが、一致団結を目的に行動したい思いもあった。


 するとこの場で沈黙を守り続けていたサンデーとサビが。


「ご主人。よく分からない事だらけだけど。私を拾ってくれてこんなに楽しいことをしてくれるご主人の事。心から大事に思っているからそう難しい事を考えないでくれよな」

「サンデー……」

「そうですわよ。私達の為にこうして尽くしてくれているんですから。それでいいと思いますわ」


 2人とも俺の為にそう思っていてくれたんだ……。そしてリリィ先輩、いやリリィは。


「私がカリト君の事を好きになったのは。最初は一目惚れだった。でも今になればそんな些細な事よりも。君のそういう所が私の好きを育んでくれている。小難しい言葉を抜きにして私はずっと君の側にいて上げたいって思っているわ」

「リリィ……」

「のろけ話を聞かされた直後に言う言葉じゃ無いけど。あなたの非殺の考えもそうだけど。一度決めた考えはずっと曲げずに持ち続けなさい。どんなときでもそれが新人の心の支えになるから」

「レフィア先輩……」


 俺は彼女達の言葉を受けて胸が滲みる思いをして。


「みんなそのありがとう……。みんなから受けた言葉で感じたこの気持ち。忘れずに心の中に閉まっておきます。行きましょう自分達の正義の為に」



 




この作品が少しでも『面白い』また『続きが気になる』と思って頂けましたら、是非とも広告下にある『☆☆☆☆』の所を押して高評価をお願いします! ブックマーク登録も必ず忘れずにお願いします。レビューや感想もお待ちしております。誤字脱字報告の方も随時受け付けております。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ