137話:ロンダリング・ブレイク その7
モンスター牧場を出発してHL作戦を開始してから1時間が経過していた。
「ねぇ知ってる? 相手を言い聞かせるのにもっとも効率の良い方法があるの。それはね。恐怖と共に甘い言葉を囁くことなのよ」
「ひっ、ひぃぃいいい!!!! たっ助けてくれぇ!!!!」
「うーん、そんな言葉を聞かされても命乞いの内には入らないわよ~うふふっ」
薄暗い地下室の一室。その部屋の中央にある椅子にギャング組織のリーダー格のおっさんがロープで縛られたまま座っている。その前ではニコニコとスマイルを浮かべてリリィ先輩が尋問をしている最中だ。
言葉で人を怖がらせるのが本当に得意な人だと思いながら俺は部屋の隅で見物していた。
「お、俺は何も知らないんだ! ただ上の組織から下請けで仕事をしろと頼まれてやっていただけなんだよぉ! 知りたければ他の奴らに聞いてくれ、頼む!」
「無限ループに入りそうな流れね。ダメよ。そうやって罠に嵌めようとするの。普通の人はだませても。この私にそういった類いの言葉は通用しないよ~」
「ちっ、ちくしょう!」
「ほら、ボロでた」
「――はっ!?」
「カリト君。ハンマー貸して」
リリィ先輩の指示通り、俺は近くのテーブルの上に置いてある掌サイズの金槌を手にとってさっと渡した。
「カリト君。今からちょっと鬱になっちゃう事をするから部屋からでてもいいよ」
「お、お言葉に甘えてそうさせて貰います」
「じゃあ、屋上で監視作業をお願いね。えと、今から30分くらいに戻ってきてね。それくらいには終わらせるから」
「わ、わかりました。では失礼します」
「お、おいそこのにーちゃん! 俺を助けてくれぇ! 命だけは、どうか命だけは見逃してくれよ! 何でも話すからさ!」
「ん? いま何でもって?」
「ああ、そうだ!」
「だそうですよ? どうします? 嘘をついている可能性も否定できませんけど」
「うーん、じゃあちょっと声の力で正直者になって貰おうかしら」
「最初からそうすればよかったのでは?」
「いきなりそうしても面白くないでしょ? こうやってじっくりと相手に恐怖を与えて尋問することがとても大事なんだよ」
リリィ先輩なりに尋問のやり方があるのだろう。
「じゃあ、時間も押しているので済ませましょう」
「はーい。だっておじさん。どう? 今からでも遅くはないわよ? 無理矢理に自白して碌な死に方をしたいか。あるいはその逆か」
「ぎゃ、ぎゃくのほうがマシだ!?」
「うふふ、じゃあ正直者になってもらいましょう」
「へっ?」
おっさんはこう思ったんだろう。普通に喋らせてくれると。だが彼女はそうは言っていない。なので。
「あっ、わぁああああああああああああああああああああ!!!!」
「うふふ、ほら静かにねー」
部屋中に響き渡るおっさんの叫び声。そのうるさい声に思わず反射的に耳を両手で塞いだ。
リリィ先輩はその声に対して何とも思わず、笑顔のまま彼の側に立った後に顔を寄せて何かの言葉を囁いた。すると、
「うっ……」
おっさんはピタッと叫ぶのを止めて意識を失い。そして。
「先ほどまでのご無礼をどうかお許しくださいカリトの旦那とリリィの奥方様!」
「だってあなた」
「へっ?」
男は目を醒して別人になっていた。俺が旦那で、リリィ先輩がお、奥方様だって?? いや待てそれってあれか?
「どういうことです先輩!? 俺達、この人から見て夫婦に見えているのですかっ!?」
「正解だよカリト君! 今はそう演じて欲しいかな。本当はいつでもそうであって欲しいのだけど……」
仕事の為にという言葉が見え隠れしているので否定できない。俺は仕方が無いと思い割り切る事にした。最後に彼女がなにか小言を言っていたけど、うまく聞き取れなかったが今はそれよりも目の前に集中しよう。
「ああ、ご苦労さん。よくもまぁ俺達夫婦にこんな乱暴な挨拶をしてくれたものだな」
「ひっ、ひぃ……!」
「だめよあなた。この人が怯えているじゃない。ごめんなさいね。えと、名前は……」
「アルスでございます!」
「うん、アルス。今から話す質問をよーく聞いてちゃんと応えるのよ? でないと隣にいるあたしの旦那が承知しないからね?」
「りょ、りょっ了解っす!!!!」
「まず、この人身売買ロンダリングを立案した人物。そして組織は誰? あたしたちの知らない所で何勝手な商売を独断でしていたわけなのかしら?」
「はい! このビジネスを考えたのは人材屋の社長の旦那で「名前は?」ゼセウスという男です!「その人材屋の名前は?」人材屋ロウニン商会という会社です! それとこのビジネスを実際に管理運営してるのはレアハンターズです!」
「ビンゴですねリリィ先輩」
「ええ、名前だけでも分ればあとはこっちのモノね。それでアルス。次の質問を聞いてもいいかしら?」
「はい、構いません。なんなりとお聞きください」
「じゃあ、そのレアハンターズと接触するにはどうすれば良いのかしら?」
「…………」
「どうした? なぜ応えないんだ? なにか隠している事でもあるのか?」
と言って、腰元のホルスターからリボルバーを抜き取り、そのままアルスに向けて銃口を突きつけた。すると彼は俺の態度の変化に恐れを成して。
「も、申し訳ございません! ただいまお伝えする為の内容を精査していたところでございまして!」
「回りくどいわ。早くいいなさい」
「た、端的に申し上げますと。組織と接触するには困難を極めますかと……。なんせ奴ら。日中は善人を演じて社場に紛れ込んでいるものでして」
「ちなみにそいつらは日中は何をしているんだよ?」
「その、聞いた話。あくまで噂なのですが。日中はハンターの仕事をやっていたり、ある時は土木とか、警備とか、とにかく職業がバラバラなんですよ」
とアルスが答えたところで。リリィ先輩が、
「こちらを攪乱させるのと欺くのが得意な組織のようね。これはちょっと手の掛かる奴らかも」
率直な感想を俺に聞かせてくれた。
「他に話せる事はあるか? 例えばこの女の子の所在とかは」
俺はホワイエットの絵をアルスに見せてみた。すると。
「あぁ……どこかで見たことのあるガキですね。なんだっけな……。ゼセウスの旦那がいたく気に入っておりましたのを覚えてますぜ。なんでもそのガキは自分をモンスターだと言ってたとかで。それでレアハンターズの人間と話して取引をするとか言ってましたね。んで、それもあって上を通じてロンダリングの仕事を頼まれたんですよ」
と答えてきた。なるほどな……。さらに、
「俺もその取引の話が少し気になってゼセウスの旦那に聞いたんですよ。俺たちの組織も噛む事ができるかもと思って。んで、なんでもそのガキを攫ってこいと何処かの偉いさんが裏指名クエスト経由で直々にゼセウスの旦那に頼んできたとかでしてな……」
と話を続けてきたので。
「おい、その偉いさんの名前を教えろよ。ついでにそのクエストを掲示している場所も全部なにもかもな!」
胸の中で感情が湧き立つのを感じると共に目をつり上げ、俺はアルスの額に銃口を強く押しつけて問い詰めた。
明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。
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