136話:ロンダリング・ブレイク その6
一通りの用事を終えたその日の夜。人身売買ロンダリングの解明ならびに壊滅に向けた計画が実行に移ろうとしていた。今回の計画にあたり、リリィ先輩を主導とした作戦を展開する事が決まり、実質彼女が指揮をとる事になる。そして今、このモンスター牧場にて作戦決行前の食事会が執り行なわれているところだ。なんだけど……。
「はぁいカリト君。お口をあけてあーんってしてね。うふふ」
「あ、あーん……ふぐっ」
せっかく気を引き締めていたのに、リリィ先輩が俺の隣でピザみたいな料理を手にあーんってしてきたから調子が狂ってしまった。可愛い彼女に甘い声でそんな事されたら誰だって気持ちが緩んでしまうよね?
「美味しいです……これリリィ先輩が?」
「うん、そうだよー。どう? 私の大好きなカリト君の為に作ったマル・ゴリータ。チーズの焼き加減が絶妙でしょ?」
確かに言われてみればと思いつつ可愛い彼女と一緒に過ごす時間は暖かく、そして作戦前の緊張感を弛緩するいい安定剤となっていた。もしかして俺の事を思って彼女はこうした食事会を開くことを提案してくれたのかな? ふと。
「ご主人っ! 私もあーんってしてくれよ! ほら、あーん!」
「ずっ、ズルいですわよサンデー! その、差し支え無ければ私にも……お願いします……」
俺達の事を憚ることなくズカッとサンデーが踏み込んできた。そしてしおらしげにサビが上目遣いに俺を見てあーんをして欲しいとせがんできている。いや、忙しいな俺。んで、
「いいですかリリィ先輩? この子達にも」
一応念の為にリリィ先輩に聞いてみると。
「ふふ、優しいねカリト君。そういう誰にでも等しく接しようとする所は素敵だと思うわ。いいよ。後で沢山甘えさせてくれるならそのお願いを聞いてあげても良いよ?」
「うぉ……」
天秤に計れば明らかに彼女の要求が大きい気もする。安請け合いに頷く事は出来ないが。食事の時間にも限度があるのでここは一歩身を引くことを決めて。
「あ、あぁ。こんど機会があればそうしてあげるよ」
後で、つまり直後とかではないわけだと解釈した上で彼女に返答した。すると。
「あら、言質取られちゃったかな~。まっ、いっか。そういう所も含めて君の事が好きだし。はい、お皿」
「うっ、うっす」
バレてた。まぁ、声を操るリリィ先輩だから見透かされても仕方ないか。俺は彼女から差し出された大皿を片手で受け取り、もう片方の右手を使って彼女達に分け与えてることにした。
「ほら、あーんしろよサンデー」
「わぁい、ありがとうご主人! あーん、はぐっ、……ふぐ……うぅまぁい!」
「う、羨ましいですわ……」
「今度はサビ。お前だ。ほら口をあけな」
と話しかけると。サビはコクリと頷き、そのまま目を閉じて口を大きく開けてきた。その口の中にマル・ゴリータの先を少しだけ入れてあげると。
「あむ……」
「あら、まるごと食べないのか」
サンデーとは違い。彼女の場合は行儀良く半分だけかじるだけで留まった。すると、咀嚼を終えて嚥下したサビは。
「ふふ、二番目の特権ですわ」
「ん? どういうこと?」
「こうやって遅い順番だから出来る楽しみ方ですわよ」
「んん??」
と、ニコニコとご満悦なご様子で、再び俺の手にしている食べかけのマル・ゴリータに齧りついてくる。少し彼女の考えを思案してみると。
「あぁ、なるほどな。要は二度楽しむために半分ずつ食べたいというわけか」
「さすがご主人様。私の為に尽くしてくれた最高のパートナーですわ」
「いや、パートナーって大げさな。俺は出来ることをしただけだと思うし。それにリリィ先輩がいなかったらきっとアルシェさんはサビを外に連れ出してくれる事を許してくれなかったと思う」
「ふふん。もっと私を褒めて甘やかしてくれてもいいのよカリト君! なんだったら私を寮までお持ち帰りぃしてくれてぇ。それでせ「雰囲気が台無しになるからやめないか!?」ふふっ、冗談よ」
容赦なく下ネタをねじ込もうとしてくるリリィ先輩に頭を悩ませる自分。んで、とうの彼女はというと。
「こうやってずっと君とのお話が続けられるといいわね」
「なんですか急に。フラグ立ってますよ?」
「フラグ? なんの事かは分らないけれど。要するに危険なニオイがすると言いたいのかな?? ん?」
「ぁあ、まあそうですね。俺が大げさに考えすぎていたのかもしれませんけど」
「大丈夫よ。問題ないから。もしそうなった時は君が私を守ってね? あの時の様に」
あの時の様に。つまりジェスタ戦における奮闘劇の話だろう。それ以外に思い当たる話はないな。
「ええ、必ず。守ってみせます」
「もうちょっと着飾った言葉を言って欲しかったけど。まぁ、これもこれで素直な気持ちの伝え方だからいいか」
「じゃあ、その気持ちと共に。はい、あーんしてくださいな」
ちょっとこっちの流れにリードしつつ。さっきのお返しをしようと思って、最後の一欠片を手に取って差し出した。すると。
「そんな事されたら本気になっちゃうよ? それでもいいのカリト君?」
「なにをいってるんですかははっ」
「ふふっ、何でもないよ。あーん」
マル・ゴリータを口で受け取ったリリィ先輩は、そのまま両手で受け取り、ゆっくりと味わいながらその一欠片を楽しんだ。
それからは各々に食事を済ませてた。そして食後の片付けを終えた後に、事前に用意を済ませておいた背嚢袋を両肩に背負って円陣を組んで1箇所に集まった。
「じゃあ、今からホワイエットちゃんの救出作戦に向けた人身売買ロンダリングの調査ならびに壊滅活動作戦を開始するわよ。作戦名は『ホワイト・ロンダリングブレイク』ね。略称はHLよ。以降はこのHLでやりとりをするから。分ったみんな?」
「了解ですリリィ先輩」「おうわかったぜリリィ!」「承知しましたわ」
「うん、良い返事ね。じゃあ事前に取り決めておいた段取りで活動に移るけれど。なにか今の時点で質問したいことはあるかな?」
「ないですね」「なし!」「ありませんわ」
「じゃあ、そのまま次の話に移るね。今回は夜間をメインにした活動になるわ。体調管理は各自でおこなうこと。特にモンスターのあなた達は何かあれば即時にカリト君に話すこと」
「おう!」「ええ」
「じゃあ、次で最後ね。今回はなるべく戦闘行為は控えたいわ。戦う事で騒ぎが大きくなるのは目に見えた痕跡に繋がってしまう。それが後々にホワイエットちゃんを救出する上で影響を及ぼすことになりかねないわ。ただし、こちらから攻めなければ何も起きないし、そのようにはならない。でも、暴力沙汰になれば話が違うわ。相手側が襲い掛かれば自衛権が行使できるから。その時は思う存分に制圧活動に勤しんでね」
「了解です」「要するにご主人の合図でボコボコにするんだな!」「ちがいますわよサビ。襲われた時に一撃で相手をねじ伏せればいいだけですのよ」
「1名だけちょっと気になる言葉が出てきたけど。まぁ、そこはカリト君の力量と采配に期待するわね」
「わかりました。この娘達が暴走しない程度には管理させてもらいます」
「よし、じゃあ移動するわよ。最初は末端のギャング組織にそれとなーくお邪魔することにしましょう。遊びにきましたーってね?」
さらっと裏のある発言を容赦なくするリリィ先輩だ。現場ではどう相手に手加減しようかな。
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