135話:ロンダリング・ブレイク その5
「ありがとうよ。また何かあれば来いよー」
と、後ろからカミルさんの挨拶を受けた後に俺は店を出てこの場を後にした。そしてまた徒歩で15分ほど歩きつづけ、アルシェさんがいつも居るハンターズギルド・ボルカノ支部に向かった。そして中に入ってカウンターで立つ受付嬢を通してアマーリエさんを呼び。
「お待ちしておりましたサトナカさん」
「お久しぶりですアマーリエさん。アルシェさんは今は……」
「はい、おります。では私についてきてください」
アマーリエさんの案内を受けた後に、俺はアルシェさんと会うことができた。約1週間ぶりの再会になるな。アルシェさんが居る部屋の中。つまりギルド長室にて、彼女は書斎机を前に高級肘掛け椅子に座りながら執務をこなしている最中だった。
「…………」
「あのアルシェさん?」
「あぁ、ちょっと待っててね。いまこの書類の執筆が忙しくて手が離せないんだ」
「すこし時間をおいてからの方がいいですか?」
「いいや、そこまでして貰わなくても大丈夫だよハンター・サトナカ。いや、もうあれだね。そろそろ君をネメシスの一員として略名で呼ぶべきかな」
「どちらでも構いませんよボス」
「うん、心得たかな。じゃあ、カリトくんでいい? 敬愛を込めてね」
「ボスの思うままに名前を呼んで頂けるなら構いませんよ」
「ふふ、そういう君も私をボスと呼ぶのは止めて欲しいかもね。君は今のところ有給休暇中の身だ。ここに来たのはネメシスのサトナカじゃない。個人のカリトくんだ。だから気軽に仲良し感覚でアルシェと呼んでくれれば良いよ」
「んな事を言われてしまったら手加減はできませんよ?」
「おぉ、さっそくだね。うん、いいねー。そういうの嫌いじゃないよ。さて、この仕事はこれくらいにしておこうかな」
「ちなみに何を書いていたんだ?」
「んー? ああ、まぁ。君に関係する内容の書類だね。密猟組織『レアハンターズ』についての調査資料という感じかな」
えっ、それってまさか……!
「もう調べがついたんですかっ!?」
「私、あいや。僕の事を下に見るのはよしてね。これでも街の英雄だったんだよ? そんなの簡単にちょちょいと出来るさ。ふふっ、まぁ人を使っての仕事にはなるけれどね。感謝するんだよ? レフィアちゃんったら。君の無鉄砲さに見かねて1人で僕からの仕事を全部請け負っていたんだからー」
急なアルシェさんの僕っこ喋りに息を飲まざるを禁じ得ない。なにこのギャップはっ!? 素直に可愛いと思えてしまう自分がいた。いや、それよりも!!!!
「そ、そんなレフィア先輩が……。でも自分……」
「うん、聞いているよ。君が第三者に情報を漏らしそうになった事。把握はしているよ。本来ならこの場で君を闇討ちするんだけど」
「ひっ……ひぇ……」
サラッと、平然とそのニコッとした表情で言われると怖さが倍増してうまく言葉を前に出せない。そう言いあぐねていると。
「まぁ、反省しているってレフィアちゃんからは聞いているからお咎めはなし。僕もそこまで残虐非道な事はしたいとは思っても居ないし。それに君はここ数百年に1人の神賦の才をもつ青年だからね。殺すには惜しいしね。うん」
「うんって、つまり俺のモンスターテイマーの力がなければ容赦無しにあの世行きじゃないですか」
「くふふふ」
「こわ……」
アルシェさんの笑みが更に深くなる辺り、想像どおりと言ったところだ。……マジでチートもってて良かった。ここに居ないどなたかの神様にマジ感謝します。
「あー、君をからかうのも面白いわー」
「あ、ああ……。冗談には聞こえないんだけどな」
「ふふ、まあ話を強引に変えようか。とりあえずレフィアちゃんには色々と調べて貰ったんだ。レアハンターズが何処で何をしているか。まあ、あいつらの基本的な収入源は依頼者。つまり密猟を依頼したクライアントから提示された裏クエストで狩猟したモンスターと引き換えに金銭のやりとりをしているんだけどね。その数多くある裏クエストの中でちょと気になるモノが掲示されていると匿名の情報が入ったんだよ」
「匿名ですか。それはまた……」
「裏社会では当たり前のお作法だよ。名前をもろに出せば命が狙われる手配書にもなりうるからね。よほどの大物でないかぎりは名前は書かないんだよ。それで、その情報を元にレフィアちゃんには約6日前くらいから行動をしてもらっていたんだけど。なんとね」
「ええ……」
「ホワイエットちゃんを名指しにした裏クエストがあったの。ただ、依頼主がうまく隠された状態だったみたいでね。レフィアちゃん頑張ってギャング達や犯罪組織をブチ転がし回ってくれたんだけど。主犯者の名前を探し当てることが出来なかった」
「いや、それだけでも大きな成果ですよ。こっちはまだ人身売買ロンダリングのからくりを解明する所から始めようとしていたので」
「うん。その辺りは君の領分になるかな。僕が命じたのはあくまでその依頼を提示した本人の特定だからね。その細かな所は命じてはないからね」
「わかりました。それに関してはリリィ先輩と協力して事にあたります」
「うん。いいよー。んで、リリィちゃんから話はざっくりと聞いたけど。あっ、大丈夫。僕は彼女の声を聞いても何も影響を受けたりはしないから安心してどんと向き合ってあたってきてね」
アルシェさんはすこし背筋を伸ばして胸を張り、その胸に右拳を振り上げて軽くポンとぶつける仕草を俺にみせてきた。それで俺は。
「単刀直入にお願いがあります。モンスター牧場にいるみんなと一緒にホワイエットの捜索をする許可をください!!」
俺は姿勢を正して直立不動になり、そのまま深くアルシェさんにお辞儀をみせた。すると。
「正直。今回の事件は君の落度というべき案件だね。セキュリティーの甘さが露呈したとも言うべき事案だ。僕は正直にいって君のそういう所が信用出来ない立場にある」
「…………おっしゃる通りです」
厳重な警備態勢をとれていなかった俺が悪かった。ああ、そうだよ……。だからその失態を挽回したいと思ってここに立って彼女に話をしようと思ってきたんだ。
「まぁ、でも僕からはそれくらいにしておくね。だってこの事件は僕にも責任があるからね。もっと君たちにはちゃんとした施設を用意してあげるべきだった。でも、僕にも立場がある。見ず知らずの人間にほら豪邸をあげるよっていうことはしない。君という人間を知りたいとおもってあの形で提供をさせてもらっていたんだ。でも、それが裏目にでてホワイエットちゃんを狙った犯罪が起きてしまった。謝るよ君に。申し訳なかった……」
「そんな……アルシェさん」
礼節のある人柄。その言葉を彷彿させられる言動をとるアルシェさんに対して、俺は彼女に掛ける適切な言葉を見つけることが出来なかった。そして。
「今後。この件が解決しだい。君達が安全に過ごすことができる最大級のセキュリティーを伴った施設を用意させてもらうよ。これが僕からできる最大級のお詫びの品だ。工事の着工ができるまで。今回の事件を手際よく終わらせよう」
「じゃあ、つまり」
「うん。元々そのつもりだったからね。君がどんな言葉で僕にその事を伝えてくれるかが気になったから。あえて今回はそうさせて貰った。もし、代理人を通して伝えるだけの人間だったら完全に断っていたかな」
「さすがにそんなに性根は腐ってませんよ」
「うん、心得たかな。じゃあ、特例でサビちゃんも君と一緒に行動することを許可するね。ただし、事件が終わり次第。この許可は破棄されるからそこは忘れずに」
「あ、ありがとうアルシェさん!!!! 感謝します!!!!」
心強い味方に背中を後押しされた俺は、アルシェさんの優しさに心からの感謝を伝えようと思い。
「この恩は絶対に何かしらの形で返させて頂きます!!」
「うん、気長に待ってるね。じゃあ、そろそろ会談はお終い。僕はまた執務に勤しむ事にするよ」
と言いつつ、アルシェさんは再びテーブルに向き直って仕事に戻るのであった。
明日も予定通り更新いたします。
『2章:ホワイエット行方不明事件編』。いよいよ中盤に差し掛かってきました。この作品が少しでも『面白い』また『続きが気になる』と思って頂けましたら、是非とも広告下にある『☆☆☆☆』の所を押して高評価をお願いします! それとブックマーク登録も忘れずにお願いします。レビューや感想もお待ちしております。今後の作品作りの参考にさせて頂きますのでよろしくお願いします!




