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133話:ロンダリング・ブレイク その3

 ミーティングを終えて、それから俺は方々へ行くべき場所に向かう1日が始まった。最初は距離を考えてイリエの事務所からだ。


「で、なんだよ。昨日は俺を殴ったばかりなのに何故ここに顔を?」

「それはな――」


 イリエはふて腐れていた。俺に殴られたことが相当きたようで、意識を取り戻したあの後にマスターからこっぴどく叱られ、今日まで自分を慰めるように深酒に入り浸っていたのだとか。正直言って俺はこいつの自業自得だと思う。俺の大事なサビに目を掛けてきた事が許せないし。多少の譲歩をと言われたとしても、それは頑なに断るつもりだ。


「――イリエ。お前の持っている情報を全て話せ。人身売買ロンダリングに関わる人間や組織。全てをだ」

「…………ふざけるな」

「は?」

「ふざけるなって言ってるだろ! 俺の商売道具をそう易々とお前なんかに渡すかよ。まぁ、お前が大事そうに抱きかかえているサビを俺の前に差し出してくれれば話は違うんだけどな。ふっ」

「…………っ!!!!!!」


 昨日と相変わらずだ。こいつはまだ未練たらしくサビをどうかしようと考えている。思わずソファーから立ち上がって拳を振り上げて降り掛かろうとしたら。


「そうやってまた俺を殴って気を済まそうと考えているのか。感情的になると手を出す。ふん、俺の思ったとおりの奴だ。見損なったな」

「お前がそれを言うな! 俺は、お前の思う以上にあんたを見損なっているし信用できねぇんだよ! それになんだよ。何故お前は俺の大切なサビに目を掛けてくるんだ!」


 振り上げた拳をテーブルに振り下ろして叩きつける。その動作に軽く動揺を見せてきたイリエは。(大口を叩いてくる割にビビるのかよ)


「くそが」

「あ?」


 と、短く言葉を吐き捨てて。さらに。


「俺はあの女。いや、サビが気に入ったんだ。何故かと答えられたら。一目惚れ半分。才能半分だ」

「才能だと?」

「お前には勿体なく思えるくらいに。顔を見て一瞬で気づいた。あの娘は絵を正確に描くことが出来る才能がある。それを活かして俺の仕事に役立てたいと思った。だからお前に頼もうと思っていたんだが。昨日からこの様だ。だからお前は箱入り娘の父親だと言ってやったんだ」

「じゃあ何故お前はそういう風に言わなかった。どうして遠回しに俺に喧嘩を売るような言葉を言ってきたんだ」


 段々と腹の虫が治まってくるのを感じる。しかし不信感を否めないのは変わりがなくて。その事に気づいたのだろう。イリエはリラックスした態勢を取り直して。


「お前の腹を探りたかったんだよ。上辺でなく心意で取引がしたかったんだ」

「……だからって」

「ああ、そうだろうな。それで結果的にこの様だ。これで俺の探偵としての仕事はお手上げ状態だ。なんせ似顔絵を使った捜査ができなくなったからな。それ以前に俺とお前の捜査のやり方が被ってしまっている。コレを意味する所は分るか?」


 わかんねぇよ。細かいニュアンスが多すぎてイリエの考えが読めない。


「俺達はこれ以上組むことは難しいというわけだ。短い間だったがお前と組めて良かったぜ。ほら、受け取れよ」


 イリエは自分の側にあったぶ厚い茶封筒を、テーブルの上に放り捨てるように差し出してきた。そこには『捜査資料』と短く描かれた言葉が刻まれており、それを受け取って中を開けてみると。


「そこに全部。俺の調べ上げた人身売買ロンダリングのからくりや関係者。そして関わった組織の名が記されている。それをどう煮て焼こうがお前の勝手だ。あとはお前の力量でどうにかしろ」

「まだお前のボディーガードらしい仕事はできていなんだが」

「あぁ、そういう話しもしてたな。アレはなかった事にしておいてくれ。どのみち荒事になればという保険だったからな」

「……そうか。それは残念だ」


 若干の取引内容との食い違いがあったものの。資料を手にすることができた。そして最後に俺は。


「その、ありがとうよ。もっとお互いによく知り合えたら良いコンビになれたかもな」

「ふん。まぁ、また困った時があれば俺を頼れよ。なんだがお前の事をみていると危ない事をしそうな感じがしてならないな」


 死線なら何度も経験しているつもりだ。そのニオイを嗅ぎつけられてしまったのは焦るが。何もこちらから下手な言葉を言わなければ問題ないだろう。


「死ぬような事は何度でも経験してるさ。ハンターの仕事をしていれば尚更だ。とりあえず背後には気をつけて帰る事にするよ」


 と言い、俺は相手の返事を待たずにそのまま部屋を立ち去った。ただ何かの違和感をその場に残して。


「……どうして急に素直にこの資料を差し出してきたんだあいつ。それに俺とコンビを解消するって変だぞ」


 俺の何かを知っている素振りにも聞こえてきたのは、自分の考えすぎなのだろうかと思いつつ反芻し。次の場所へと向かう事にした。


「次は……カミルさんにセイバーの制作状況の進捗の確認だな。その後にアルシェさんとの会談か」


 一番の大仕事がアルシェさんとの会談だ。必ず成功させてみよう。そう心の中で誓った。サビの怒り表情をもう見たくはないという思いを持って。

 

  

明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。


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