129話:手がかりのかけら その2
「まず、これを見てくれないか」
「これは誰だ? 見たところ商人かぶれの姿をした男にみえるが……なんだ?」
「今日の午後あたりにハンターズギルドに聞き込み調査をしにいったんだ。その過程でこの男が浮上したんだ。ホワイエットを攫った張本人だ」
「――っ! こいつがホワイエットちゃんを……!」
イリエがもつ鉛筆の手に力が籠もっていることに気がつく。
「あんたでも冷静さを欠くことがあるんだな」
「当たり前だ! 俺だってこの1週間ずっと何もしてこなかったわけじゃなかった! 金? 地位名声? 信用? んなもん知るかよ。俺はあんたのモンスターを愛する一途な気持ちに応えてやろうと頑張っていたんだ! けどよ、今日お前がこうして手がかりを差し出してくれなかったら俺はタダの無能な探偵で終わるところだったんだ」
熱意の籠もった言葉と混じる怒りの感情に飲まれて返す言葉を見失ってしまった。イリエはそこまでして俺の事を思ってくれて……。ただその思いだけは頭の中で残り続けていた。そして。
「すまん。せっかくの話しに水をさしてしまったな……。つづけてくれ」
「……あ、ああ。そのこの男を目撃したバイキングクランの男性と。その男性と直接やりとりをしたウェイトレスの女性に話を聞いたんだ。そしたらこの男がでたわけで」
「詳しく聞かせてくれ。お前の話を聞いていると足りない物だらけに感じてしまうんだ」
「なんでも聞いてくれ。できる限りの事はする」
「ああ。じゃあ、そお男の名前は? 男がねぐらにしている住所は? その男の職業とかが分ればあらかた捜索範囲を狭めることができる。身長は?」
「えと……。男の名前は教えてもらえなかったそうで分らないです。住所は分りません。職業は人材屋を経営していると女性の方から聞きました。身長は……」
俺は話の端々を思い出して振り返る。だが身長を聞いたり問い掛けたりはしていなかった。
「正確な背の高さは分らないです。多分俺の推測だと背の高いか中間ぐらいじゃないでしょうか?」
「厳密には中肉中背だろう。この絵が手がかりを示してくれている。誰だこんな正確な絵を描いたのは?」
「サビです」
「ああ、あのお嬢さんか。なるほどそれは良い才能をもっているな。うちのアシスタントとして欲しいくらいだな」
「ごめんなさい彼女はそういった事には興味がないんでお断りします」
「いやお前が言う言葉じゃないと思うんだけどな。まぁ、ご主人様だから仕方が無いか」
「本気だったのかよ……」
「まぁ、それはいい。またの機会にでもスカウトしてみせるさ」
「俺の居ない所で勝手な事をするなよ? その時は容赦はしないからな? あの時はああせざるを得ない状況だったが。勝手が違う。俺の大切な家族に指1本触れてみろよ。その時は本気でお前を殺す」
「ご主人落ち着いて。大丈夫だから」
「……すまんサンデー」
「ふん、熱狂的なモンスター愛好者だな。そういった考えが――まぁ、辞めておこう。これ以上何を話しても火に油を注ぐみたいだしな」
「だれが喧嘩振ってきたんだよボケが」
「目上に汚い言葉を使ってくるな」
「だめだよ2人とも!」
と、一触即発の流れになりかけて。
「イリエ。今の話はお前の方が悪い。お客さんは保護者の立場からそのサビという女性を守ろうとしていたんだ。いい加減にしろ青二才が」
マスターが2人分のコーヒーカップをのせたお盆を両手に、気にくわないといった顔をしているイリエを叱りつけてくれた。思わず心の中でマスターが俺の味方になってくれた事に感謝の気持ちが込み上げてくる。そしてイリエは。
「……チッ。わかったよ。マスターに言われてしまったらこれ以上何も言えねぇわ。ああ悪かったなカリトよ。だがなこれだけは言わせてもらうからな」
「ああ、こいよ」
「お前のその考え方はまるで箱入り娘の親みたいな考え方をしていやがる。甘すぎて大っ嫌いだ。サビちゃんはそんな親の為にずっとあんな薄汚い場所で寝起きをしないといけないのかよ!」
こっちの気持ちも知らずによくもそんな事を……。気づけば俺はその場で立ち上がってイリエを殴っていた。その不意打ちに交しきれず、イリエはそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「あわわわ……あうあう……」
「……はぁ、やっちまった」
「ぐっ……うぅ……」
俺に殴られてしまったイリエはその場で伸びて気絶している。するとマスターが。
「あんまり暴力沙汰で物事を解決するのはよくないですよお客様。いえサトナカさん。どう言われようがグッとそこで堪えるべきでした」
「……すみません。やりすぎました……」
「そう思っていらっしゃるなら次に活かすことです。さあ、このコーヒーで気分を落ち着かせてリラックスしてください」
お盆からカウンターテーブルに移して差し出してくれたコーヒーカップを受け取って座り、息を整えてカップを片手にとりこくっと軽く仰いだ。すると。
「あ……おいしい……」
今までこみ上げてきた苛立ちが嘘のように心の中けら何処かへと消えていくのを感じた。そして隣で俺のやっている事を真似たいのか。サンデーが。
「カザギリ。私もご主人のように同じ事がしたい! はやくそれをくれよ!」
「ふふっ、かしこましました。どうぞお召し上がりください」
「頂きます! んくっ、んくっ……うぅ、苦いよぉご主人……」
「ははっ当然だサンデー。なんせコーヒーだしな」
サンデーは苦く。俺の舌で感じたのは反省という苦みのある味だった。
明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。
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