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128話:手がかりのかけら その1

「分りましたわ……。私はここで待っていますから……。どうかホワイエットちゃんを早く見つけてください……」


 被る帽子で顔を隠すように俯いて。サビはぽつぽつと途切れ途切れに俺達に見送りの言葉を掛け、そのまま身を翻して奥の方へと行ってしまった。


「いこうよご主人! サビの事はそっとしてやってくれよ。久しぶりのお出かけで嬉しかったから。多分冷静な判断を欠いてしまったんだと思うよ」


 本当にそうなのかサンデーと言葉を返したかったが。今の自分にはそれ以上の言葉をもっておらず。結局何も言わずにコクリと首肯することだけしかできなかった。


――今思えばこれがあの事件につながりを持つことになるとは思いもしなかった。


 さっそく俺とサンデーはイリエがいると思う場所に向かうことにして、いくつか場所を訪れた後に事務所へ訪れた。すると。


「おっ、なんだお前達か」

「おう、ちょっと話したい事があったからな。中に入っても良いか?」


 扉のノブに触れようとしたタイミングでガチャッと鉢合わせになり、少し驚きながらも表情はそのままでイリエに言葉を返した。すると。


「わりぃな。ちょっと下の茶店でマスターのコーヒーを飲みに行こうと思っていたんだよな」

「じゃあ、邪魔にならまたくるよ。いこうかサンデー」

「あーいご主人」

「おいまて。わざわざここまで来てくれたんだ。そんな無下にさせるような事はしたくねぇよ。あれだ。よかったら俺の驕りで飲みにいかねぇか?」

「いいのかよ? もしかして今から休憩時間だったんじゃないのか?」


 探偵って、1人の時間を大切にして休憩をとるイメージがあるのだが。


「いやいいさ。休憩というより業務中の暇つぶしをしたかっただけだ」

「つまり」

「つまり?」

「客が来ないから暇を持て余したのでサボりたかっただけだろ?」

「言うなバカが」


 茶化してみるとイリエが軽く怒ってきたので、それに対して肩をすくめて応じる自分。そして。


「こうも苛つかせるような言動をしてくるな……。なにをしたいのかさっぱりだよお前は。ほら、着いて来いよ」

「おう」


 というわけでイリエの驕りで茶店でご馳走になるのだった。ちょっと甘い物を食べたい気分かも。んで。


「いらっしゃいませ。ん? イリエか」


 カランカランというドアベルの音と共に茶店『バードアンドジョーカー』の中へはいると。俺達の姿を見て、カウンター越しでカップを丁寧に拭く仕事をしている初老の男性から挨拶を受けた。


「マスター。今日は一見客を連れてきたぜ。紹介人は俺だ」


 対してイリエはその男をマスターと呼んで俺達を一見客と呼び紹介をした。すると。


「これはお初にお目に掛かりますお客様。当店バードアンドジョーカーを営んでおります。店長のカザギリと言います」

「こちらこそ。里中 狩人といいます。こっちはサンデーです」

「よろしくなカザギリ!」

「ふふ、元気のいいお嬢さんだ。いい客を連れてきてくれてありがとう。イリエは人を見る目があるからこちらの手を出さずとも安心して仕事ができるよ」


 サビの元気な挨拶を前に朗らかな笑みを浮かるカザギリさんことマスター。俺は親しみを込めてマスターと呼ぶことに決めた。そして。


「褒めてもいいが。それなりに等価交換はさせてもらうからな。そうだ。今日は一見の為にサービスしてやってくれよ」


 マスターの前にあるカウンター席に歩んでずかっと座り込み、イリエはフランクな態度でマスターに接し始める。すると。


「そうは言ってもお前さん。先月からの付けがまだ残っているだろ。いい加減にまっとうな仕事をしろ。そういう言葉は後からだ」


 きっぱりと要求を断るマスター。まぁ、借金してコーヒーとか頼む神経の太い男が喋る言葉じゃないもんな。とりあえず俺もイリエの隣に座り、サンデーは俺の隣といった感じに並ぶことになった。


「ご注文はいかがいたしましょう?」

「えと、メニューはあります?」

「こちらです」


 手を差し伸べてきた先にある黒革のブックレットがメニューのようだ。それを引っぱって取り開き、そのまま内容をスラッと流し読んでいく。


「なぁ、ご主人。イリエの言ってたコーヒーってなんだ? うまい肉なのか?」


 肉料理じゃない。飲み物だと心の中で思ったので。


「いいや。それは違うな。コーヒーっていうのは黒くて苦い飲み物なんだよ」


 とサンデーに分りやすく説明をしてみた。するとマスターが。


「ええ、おっしゃる通りですお客様。ですがそれはあくまで低クラスの豆を使って低レベルのバリスタが入れたから起こりうる味でございます。本来のおいしさをそちらのお客様にお話しするなら少し長くなりますが」


 本職をその気にさせてしまうような事を言ってしまったようだ。直ぐに話の撤回をしたいと思いすかさず。


「マスター。でしたらこの店で最高においしいコーヒーを用意してくれません!? 俺達下町暮らしなんであまり詳しくなかったんですよ……すみません」

「いいえ。それは問題ありません」

「というと?」

「むしろそういうお客様を喜ばせるのが私の仕事だと思いますので」

「愛あふれる言葉ですね……ははっ」


 仕事に情熱を持つ人なんだ。いいね。


「じゃあお願いしますね」

「かしこましました。ミルクとシュガーはどうされますか?」

「ブラックの方がコーヒー本来の味を楽しめますよね?」

「ええ、そうですね。ですが無理にとはいいません。お客様によってお好みのテイストがあるので強要するようなことはありません」

「じゃあ、ミルクとシュガーを2人分でお願いします」


 といった感じにマスターにお願いをすると。彼はそのまま俺達の席から少しは馴れたとこにある調理場に赴いていった。


「いいだろマスター。ああいった昔ながらのおやっさんって今時はそんなにみかけねぇ。こういう時代だからこそこのお店はとても大事なんだ」

「はぁ」


 何を言いたいのかはさっぱりだけど。要は新しい物ばかりでなく。昔ながらのお店もいいと言うことが言いたかったのだろう。んで。


「じゃあ、今のうちにイリエに伝えたいことを伝えさせてくれ」

「ああ、いいぞ」


 俺の言葉に返事をして、イリエは胸元のポケットから鉛筆とメモ帳を取り出して机の上に置いた。



加筆修正報告:『12話:祝杯はダイナーで』 https://ncode.syosetu.com/n6067fq/13/

文脈の流れがおかしい事になっていたので修正をかけました。多少の内容の変更があります。お時間のあるときに読み返して頂けるとありがたく思います。


次回の更新は明日になります。楽しみにしていてください! よろしくお願いします!


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